ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

日中関係の現状と将来(3)

 皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。今回も前回の続きで日中関係の現状と将来について考察していきましょう。これまで経済界、学界、政界での親中派の例を取り上げ、彼らの思うようにいかなくなっていることを指摘してきました。では今後どのように展開していくのか?親中の言論者に着目して考察していきましょう。

 

親中論客の言い分

 では早速親中と目される論客たちの吊し上げ……いえ対中認識と価値観について著作を引用しつつ触れていきましょう。中国に良くない印象を持っている日本国民の中には彼らに対して「中国のスパイ」「売国奴」と呼ぶ方がいらっしゃいます。もちろん本物の工作員もいるかもしれませんが、実際のところほとんどは「利害関係によって惑わされた」被害者に過ぎないと私は考えています。これは前々回の孔子学院と同じく、彼らと中国の関係はフレンドリーから始まっていると考えられるからです。基本的に中国は都合のいい相手のみを重宝するため、中国関係で仕事をするとなったら「嫌われてはいけない」というのが最重要事項となるのですね。

 ただ彼らが中国に都合のいい情報を発信することが日本の国益のためになると信じ切っている人が多いのは見過ごせません。そこで彼らの中国観や世界観について検証するために、その言い分をツッコミも交えつつ紹介していきましょう。

 憂鬱な中国専門家

 まずウォーミングアップとして小原雅博氏の著作「東アジア共同体(2005年)」を取り上げます。外務省入省後、アジア局地域政策課長から在上海総領事まで様々な役職を経験している彼の主張は日中の経済関係を深めるというオーソドックスな日中友好論者です。そして強大化する中国でナショナリズムが盛り上がり「偉大なる中華民族の復興」を成し遂げつつあると認め、周辺国に中国脅威論が高まっていると認識した上で次のように書いていました。

    日本の基本戦略は、中国が国際社会の平和と繁栄に責任を担う大国となるよう慫慂し、中国が建設的に関与する形で透明で開かれた地域的枠組みの構築に努力することである。(出典:小原雅博,東アジア共同体,2005年,291頁)

 要は日本が中国を指南して日本側の価値観に基づく地域秩序のリーダーに仕立て上げよと言っているのです。こう言っては何ですがかなり上から目線ですね。強大化する中国に対し、図々しくも大国としての立ち振る舞いを教えてやると言っているわけですから。先進国としての意地ということでしょうか?その後、2018年の日経ビジネスでの小平和良のインタビューにおいて「中国は聞き耳持たない」と弱気になっちゃってます(後述)。

 超有名な元中国大使

 続いては民主党政権時代に在中国特命全権大使として有名になった丹羽宇一郎氏の著作です。2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件で対中国の交渉役として活躍し、その後野田政権の尖閣諸島国有化に強硬に反対し、国民の顰蹙を買いました。その尖閣諸島問題の解決策として「中国の大問題(2014年)」で次のように書いています。

    私はまず「尖閣諸島不戦の誓い」を両国首脳が話し合えばいいと思う。ほかのテーマに踏み込めば、まとまるものもまたまらない。「不戦の誓い」だけをやる。つまり、この件については決して武器を取らないことを約束する。(出典:丹羽宇一郎,中国の大問題,2014.6.27,163頁)

 ここでもまた日本側の価値観の押し付けです。日本が憲法九条で戦えない事情を中国側に押し付けて「不戦を誓え」というのです。恐らく丹羽氏の意図は中国ーインド国境間で40年以上武器が使用されていなかったことを念頭に置いているのでしょう。しかしそれは両国が核保有国である都合上、無暗に紛争をエスカレートしたくない思惑が一致したからにすぎません。日中の場合エスカレートしたくないのは日本だけであり、中国は積極的ですからまとまる以前に一致することもできないでしょう。
 また、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、2020年6月に中印国境で両国兵士同士の「非武装的」な小競り合いで死者が出ました。

    インド当局は16日、中国と国境を争うヒマラヤ山脈地帯で両国軍が衝突し、インド兵が少なくとも20人死亡したと発表した。
    両国軍の衝突で死者が出たのは、過去45年以上で初めて。このところ両国の緊張が高まっていた。
    (中略)
    インドと中国の双方とも、40年間というもの銃弾が使われたことはないと主張。インド軍は16日、今回の衝突においても「発砲はなかった」と述べた。
    銃撃戦以外でどうやってこれほどの死者が出たのかは不明だが、戦闘には石とこん棒が使われたとの報道も出ている。(出典:インドと中国、国境付近で衝突 インド兵20人以上死亡か,BBC news Japan,2020.6.17,https://www.bbc.com/japanese/53074215

 人間というものは銃火器を使わなくとも戦争できるんです。付け加えて言えば尖閣諸島沖で中国漁船が日本の巡視船に衝突したのも銃火器を使わない「戦争行為」と呼ぶこともできます。したがって、丹羽氏の言う「不戦の誓い」なんて中国に受け入れられるわけがないんです。
 丹羽氏の日本本位の中国観は留まることを知らず、今世界を騒がせている習近平総書記については「北京烈日(2013年)」で次のように書いています。

    習近平新主席は、今のところ、「中華民族の偉大な復興の実現=中国の夢がいったい何を意味するものなのか」、その言動が気になるものの、将来は、私の知る限りにおいては信頼しうるリーダーになるのではないでしょうか。言動があまりにも飛び跳ねれば、それは世界中から顰蹙を買い、評価を失うでしょうが、それほど愚かでないことを私は願っています。(出典:丹羽宇一郎,北京烈日,2013.5.30,208-209頁)

 ……恐らくご本人が今この文章を見返したら恥ずかしくて赤面するでしょう。習近平総書記は「中華民族の偉大なる復興」として台湾併合を掲げ、今や世界覇権に堂々と名乗りを上げるようになっております。2019年暮れから始まった武漢熱騒動においても「世界は中国に感謝するべき」と宣い顰蹙を買っています。また香港に至っては「50年高度の自治を維持する」約束を無効だと言い放ち、香港国家安全法を定めて統制を強めるなど欧米の評価を大いに失っております。では彼は愚かなのかと問われれば丹羽氏は苦笑するしかないでしょう。「絶対有り得ない」という日本本位の考えを無意識に押し付けていたんですから。

 反米親中の元レバノン大使

 最後に親中論客というよりは反米論客に近い天木直人氏の著作「さらば日米同盟!(2010年)」から引用していきましょう。小原氏と同じく外務省経験者である彼は対米追従の日本外交のあり方に疑問を持ち、日米同盟を否定する論客として言論界に旅立ちました。そして「アメリカは日本を護らない」とした上でこのように書いています。

    中国の軍事力増強に対しては憲法九条を掲げて正面から言えばいい。何のための軍事力増強なのか、と。憲法九条を掲げた日本を攻撃できるのか、と。それを世界に堂々と主張するのだ。もっと国民生活の向上に予算を使った方が中国国民のためではないか、と。中国は返す言葉を失うであろう。(出典:天木直人,さらば日米同盟!,2010.6.21,224頁)

憲法九条が日本を守っている」と本気で信じている人ならではの典型的な発想です。保守派なら「お花畑」だと呆れるかもしれませんが、私に言わせればもはやエスノセントニズム(自民族中心主義)で自己中心的な記述です。なぜなら憲法はその国のあり方を決める法規でしかなく、他国がそれに配慮する義理は1ミリもないからです。中国側にしてみれば憲法九条はチャンスであり、動けない日本から思う存分資源を搾取した末にタコ殴りにしたとしても、誰からも咎められないし、罰せられる道理もないのです(日米同盟が生きていれば米国がアクションを起こしますが天木氏はそれを否定しています)。後半の「予算」云々に至っては公人からドロップアウトした彼だから許されるのであって、現役の外交官として公の場で発言したら先方から「内政干渉だ!」とブチギレられますよ。
 以上のように親中論客と目される方々は中国側の言い分を主張する一方、中国に対しては日本本位(自分本位)の価値観を一方的に押し付けて満足している裸の王様であることがわかります。これは中国側にしてみれば相手が独り相撲して勝手に後ろへひっくり返っているようにしか見えないのでさぞかし滑稽でしょう。

 変容する中国論

 先ほど親中論客の著作を引用して批評しましたが、その中国観は驚くほど日本中心的過ぎることがわかりました(てっきり身も心も中国に捧げていると勘違いされがちだからです)。けれど彼らの主張は時代と共に少しずつ変化しており、その行き着く先を見れば、日中の将来像が予測できるようになります。

  •  第一段階(1980年代):中国は発展途上国だ。支援し育てなければならない
  •  第二段階(2000年代):中国は大国になる。正しい方向へ導かなければならない
  •  第三段階(2015年以降):中国は大国だ。無益な衝突を避けながら共存共栄すべきだ
  •  第四段階(2020年以降):中国は超大国だ。日本は属国にされる

 第一段階の解説は割愛するとして本記事で紹介したのは時系列的に第二段階の「中国は大国になる。正しい方向へ導かなければならない」という主張になります。大国になる中国がどのような行動に出るのか? 多くの親中論客は日本にとって都合のいいように成長すると考え、そうなるように導くべしと対中連携を訴えていました。

 中国論者の憂鬱

 その当てが外れて弱気になっているのが第三段階「中国は大国だ。無益な衝突を避けながら共存共栄すべきだ」です。以下は先述した小平和良氏が2018年に日経ビジネスでのインタビューで語った見解です。

     中国がさらに力をつけ、自らルールを作るようになると、当然、自国の利益に反するようなルールは作りませんし、そのようなルールがもしあったとしても従いません。南シナ海の問題でも中国は常設仲裁裁判所の裁定に従っていません。ですから先ほど申し上げたようにTPPなどで周囲の国が結束して、みんなが守るべきルールを作らなければいけません。
    米国は中国の封じ込めに動き出していますが、日本が同じことをやろうとしても難しい。日本は中国も入ることができるような枠組みの構築に力を入れていくべきでしょう。(出典:小平和良,勢力均衡崩れれば中国は聞く耳を持たなくなる,日経ビジネス電子版,2018.7.6)

 彼の著作にあった「中国が国際社会の平和と繁栄に責任を担う大国となるよう慫慂」という主張がすっかり消え去り、日本は中国も入れる枠組みを構築せよとなっております。何のことはない、中国に勝ち目がないからルールを守らせることができない現実を見始めたというわけです。「みんなが守るべきルールを作らなければいけません」の言葉に哀愁を感じるのは私だけでしょうか?
 このように日本中心からいつの間にか中国中心になっていく論調に私たちは気を付けなければなりません。なおも「価値観が合わずとも経済で連携を」と彼らは言いますが、前々回申し上げた通り、将来的に中国は製造大国として日本のライバル的存在になります。そして中国はその製造力をてこに軍拡を推し進め、その圧力によってさらなる譲歩を日本に強い、自国にとって都合のいい地域秩序の枠組みへ変えていこうとするでしょう。その行き着く先が第四段階「中国は超大国だ。日本は属国にされる」です。

 ついに出始めた属国論

 その兆候を御覧に入れましょう。経済学者の加谷 珪一氏は今の製造上中心の産業構造に頼る日本は中国経済の取り込まれるとして次のように主張しています。

ここでは人民元経済圏に取り込まれるという穏やかな表現にしましたが、現実はもっと厳しいものとなるでしょう。日本が人民元経済圏に取り込まれてしまった場合、日本は経済活動の多くを中国にコントロールされてしまいますから、場合によっては中国の属国のような地位に転落してしまう可能性も否定できないのです。(加谷 珪一,「このままでは中国の属国になる」最悪シナリオ回避のため日本に残された"唯一の選択肢" ,プレジデントオンライン,2021.7.23., https://president.jp/articles/-/48073)

 記事で加谷氏は日本を消費主体にし高付加価値の製造業以外を他の産業(サービス業)へ誘導することによってこの問題を解決できるとしています。中国に対しては輸入主体になることでその干渉を抑えることができるとしています。
 一見論理的に通っているように見えますが、彼は輸出と輸入の二元論にこだわっており、中国企業の国内進出における安全保障上のリスクを考えていません(アメリカの対応はそこにあります)。また輸入主体であっても中国経済に依存していることには変わりなく、貿易赤字は国富の流出を意味するので、最悪日本人が中国へ出稼ぎするシナリオも考えられます。それを防ぐには国内産業の保護、新規産業分野への参入推進、中国以外の国との多角的な経済協力も考慮に入れるべきです。

 したり顔な敗北主義

 次にご紹介するのは解剖学者の養老孟司氏と脳科学者の茂木健一郎氏、批評家の東 浩紀の鼎談で親中論客とは少々異なりますが、災害に見舞われる日本の将来について養老氏から「中国の属国として生まれ変わる」という極論が出ています。

養老 そうですね。食料がない、エネルギーがない、となったら買わなければなりません。それが今年のように食糧難だ、エネルギー不足だ、円安だというときだと余計にお金がかかる。そのときに大きな額を日本に投資してくれる国があるとすれば、アメリカは時間がかかるでしょうから、おそらく中国です。
東 つまり、すごく要約すると、日本は天災によって実質壊滅し、中国の属国になることによって新しく生まれ変わるしかないのではないか、というのが養老さんのお考えでしょうか。
養老 そうですね。つまり属国とはなにかという問題です。中国の辺境は昔からたくさんあったわけで、今でも中国がないと成り立たないという状況を作ってしまえば、それは中国の一部であるのと同じことですから。政治的にどうレッテルを貼るかの話でしかない。(養老孟司茂木健一郎,東 浩紀,災害国ニッポンの末路は中国の「属国化」だ!【養老孟司×茂木健一郎×東浩紀鼎談】,ダイアモンドオンライン,2024.5.15., https://diamond.jp/articles/-/341607)

 文面からしてしたり顔で語る男たちの顔が浮かびますが、言っていることは完全な「敗北主義」です。なぜ震災後の日本経済が崩壊するのか、なぜアメリカの支援に時間がかかるのか、なぜ中国が都合よく太っ腹な支援をくれるのか、根拠がまるでありませんが、震災への不安を煽ったうえで強大化した中国の「属国になるしかない」という論調は多くの読者の目を引き付けるでしょう。

 首をもたげる反米

 最後にご紹介するのは元通産・経産官僚で政治経済評論家の古賀 茂明氏です。彼は中国の強大化とその脅威を認識しつつも、沖縄基地問題などアメリカの理不尽にも触れつつこう述べています。

 日本は米国一辺倒の政策を採るが、その米国は、沖縄を事実上の植民地として、治外法権をいいことにやりたい放題だ。今も沖縄にオミクロン株をばらまき、基地の騒音や米兵の犯罪などで生活を脅かす。世界遺産やんばるの森の自然と環境を破壊しても何のおとがめもなしだ。中東などで戦争を起こすたびに日本に巨額の資金拠出を強要してきた。終戦直前に広島と長崎で原爆の人体実験を行ったことも忘れてはならない。
 それでも、日本は、米国は戦勝国であるし、超大国だから仕方ないということで、その言いなりになってきた。そのおかげで、生存を維持し、経済的にも何とかウィンウィンの関係を築いてきたと言われている。
 この例にならえば、中国に対しても、大国であることを認めて、無理な注文にも応じながら、全体としてウィンウィンの関係を築くことも可能なのではないか。(古賀茂明,日本はアメリカに逆らえるのか,AERAdot.週刊朝日,2022.1.11., https://dot.asahi.com/articles/-/43089)

 古賀氏はわかってて言ってるのでしょうか?もしその「無理な注文」が日本の主権を侵害するものだったり、日米安保など日本の安全保障に悖るものであった場合、どうなるのか。すでに一部ではそれが始まっているから日中関係は不安定になり始めているのです。そして彼はその状況で「日本はアメリカに逆らえるのか」という焚きつけるような文句で締めくくっております。おそらく官僚時代にアメリカの圧力を経験したのでしょう。反米にこじれて中国に走ることのリスクを考えるべきです。

 持続不能になる日中関係

 以上のように日本での中国論は変容し、行き着くところまで来ています。こうなると今までの対中政策はまもなく行き詰まるでしょう。日本の国論は漂流し、国内不安が増大する可能性が高いです。これまで三回に分けて日中の現状と将来を考察してきましたが、以下のようにまとめられます。

  1.  経済協力の限界:現在の日中関係は経済協力の互恵関係で成り立っていますが、中国が経済力で日本を超えたことで力関係が逆転し、製造業では競争関係へと変わっている。
  2.  独自外交の限界:経済のアドバンテージを失ったことで二階氏らによる議員外交も有力な成果を出せなくなりつつある。
  3.  属国論の台頭:強大化する中国に対して属国化への不安とともに敗北主義が萬栄し、対等な関係を築くことを諦めつつある。

 以上から結論付けられることは日中関係が日本の自立や尊厳に大きなリスクをもたらしているということです。この辺をよく理解しないで日中友好に拘っていると、中国からとんでもない要求を突き付けられたときに国家国民ともに思考停止に陥り、より混とんとした状況に陥る可能性が高いのです。
 日中関係はもはや「持続不能」と言っていい状態になりつつあります。

 

(2024/9/26本文修正,2024/12/4 本文中一部変更)