皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。2024年9月27日の総裁選を制した石破茂氏が10月1日に第102代目内閣総理大臣に就任しました。兼ねてから「もっとも首相に望ましい自民党議員」として長年首位にいた人物ですから、宿願がかなったと思う人も多いのではないでしょうか? 彼は「安全保障通」を標榜しておりますが、政治信条的にはリベラルなものが多く、また緊縮派ということで高市氏を支持していた保守層からは悲嘆の声が上がっていたりしてます。
空前絶後の親中親韓政権
中でも対中国や対韓国に対しては宥和姿勢が強いとされ、彼が総裁に決まった瞬間から歓迎ムードだったりします。まず韓国から
聯合ニュースは、石破氏が日韓の歴史問題で「右翼勢力とは違う」認識を示してきたと指摘し、石破氏が過去に「日本は敗戦後、戦争責任問題を直視してこなかった」などと言及したことを紹介。(出典:韓国は石破茂新総裁を歓迎「歴史問題で関係こじらせない」 関係改善の流れ続くと評価,産経ニュース電子版,2024.9.27., https://www.sankei.com/article/20240927-QUI2IML27ZPUPFH6T2U2QIU33I/)
中国も露骨に喜んで祝電まで送っております。高市氏なら送らなかったんでしょうね。その上でこう言っています。
習氏は、日中両国が平和共存や友好、相互利益の協力を進めることは、「両国人民の根本利益に符合している」と訴えた。昨年11月に習氏と岸田文雄前首相が合意した「戦略的互恵関係の包括的な推進」や、「新時代の要求に合致した建設的で安定した日中関係の構築」を進めることを日本側に呼び掛けた。(習近平氏が石破氏に祝電 「中国と歩み寄ることを希望」 日本との関係安定化継続の意向,産経ニュース電子版、2024.10.2., https://www.sankei.com/article/20241002-HBECKS46RZLPBJH7UVLMIQGBSI/)
この「新時代の要求に合致した建設的で安定した日中関係の構築」というのが結構な曲者なのですが、それは後で触れます。因みに彼らの期待を認識してかどうかわかりませんが、組閣のメンバーも親中・親韓・親北朝鮮派で占められています。特に外相の岩屋毅氏は親中であり親韓を自任して記者の質問にこのように答えています。
岩屋毅外相は2日の会見で、石破内閣が「中国、韓国寄り」との指摘が自民党内にあると記者団から問われ、「『嫌韓・嫌中』などと言っていたのでは日本外交は成り立たない」と述べた。(出典:日本外交「嫌韓嫌中では成り立たない」 中韓寄りとの指摘に岩屋外相,産経ニュース電子版,2024.10.2., https://www.asahi.com/articles/ASSB23G0FSB2UTFK01DM.html)
岸田政権の時は林芳正氏が外相になって物議をかもしましたが、一応表向きは日中友好議連会長をやめるなどアクションをしていました。しかしこの岩屋氏は清々しいまでの開き直りっぷりです。彼のやばさは外国人パーティ券購入問題でも出ており、参議院議員の青山繁晴氏が今年1月に開かれた政治刷新本部で外国人のパーティ券購入を禁止すべきだと提案したときにこんな反論をされたそうです。
その発言の中身は『私は逆です』と『むしろ例えば外国人にパーティー権を積極的に買って貰う方がいい』と『その方が開かれた党、開かれた日本になる』と(出典:【ぼくらの国会・第812回】ニュースの尻尾「空前の親中親韓内閣」,青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会,2024.10.1., 3:51-4:05,https://www.youtube.com/watch?v=Cot3pNZ-8Ow)
パーティ券は事実上の議員の資金源ですから、献金にも等しいわけで、外国人が買えば外国人献金と変わらなくなります。外国人献金が禁止されていますから、ガッツリ抜け道です。それを「開かれた日本になるため」と言ったら何のための法律かわからなくなります。こんなことを言った人が日本の外交を担うようになったのです。
岸田政権も親中親韓
保守派にとっては「絶望」という言葉も聞こえてきそうであり、不詳私も似たような感情を持ったりしましたが、考察を重ねると「絶望」するのは我々ではないかもしれません。まぁ、その前に衆議院選挙があるわけですが、それを無事乗り切った前提で石破外交がどんな「末路」をたどるのか一緒に考えていきましょう。
まず多くの人が忘れていることがあります。それは岸田前政権も「親中親韓」だったという事実です。先ほど触れたように岸田首相は日中友好議連会長の林芳正氏を外相に起用しました。
首相は茂木氏が幹事長に就任した翌日の5日夕には、さっそく安倍、麻生両氏に電話で林氏の起用案を伝え、理解を求めた。ただ、2人とも林氏が2017年12月から日中友好議員連盟の会長を務めていることなどを問題視し、「対中関係で国際社会に間違ったメッセージを与えかねない」と慎重な意見だった。(出典:「林外相」に理解求める首相、安倍・麻生氏は「対中関係で間違ったメッセージ」と難色 ,産経ニュース電子版,2021.11.11., https://www.yomiuri.co.jp/politics/20211110-OYT1T50207/)
今は亡き安部さんが指摘した通り、国際社会では宥和と受け取られ、中国外相との電話会談では訪中の打診を受け、ご本人は得意げにそれをテレビで話しておりました。
林芳正外相は21日、フジテレビの番組で、18日の日中外相による電話協議の際、王毅(ワンイー)国務委員兼外相から訪中要請があったことを明らかにした。応じるかどうかについては、「現段階で何も決まっていない」と述べるにとどめた。(出典:林芳正外相「中国側から訪中招待」 日中電話協議で 応じるかは未定,朝日新聞電子版,2021.11.21.,https://www.asahi.com/articles/ASPCP4W02PCPUTFK002.html)
後述しますが当時は中国の香港国家安全法の施行やウイグル人に対する人権侵害が国際的非難を浴びていて、2022年2月に行われる北京冬季五輪に政府関係者を送らない「外交ボイコット」が計画されていた状況です。
一方、韓国側も当時は反日の文在寅政権ですが、歓迎の祝賀メッセージを送ってきています。
岸田文雄氏の首相選出を受け、韓国の主要メディアは4日、「韓日慰安婦合意の当事者である自民党総裁が、日本の新首相に選ばれた」(中央日報)などと速報した。また文在寅(ムンジェイン)大統領は「韓日関係を未来志向的に発展させるために共に努力しよう」との祝賀メッセージを送った。(出典:文在寅氏「日韓関係を未来志向に、共に努力しよう」 岸田首相選出に,毎日新聞電子版, 2021.10.4., https://mainichi.jp/articles/20211004/k00/00m/030/110000c)
御覧のように最近では一部の保守派にも評価されている岸田政権も元々は親中親韓政権だったことがわかります。ではその顛末はどうなったのか?これから見ていきましょう。まずは対中外交についてです。
地雷だらけの対中外交
北京五輪の裏で
岸田外交について一番最初に何をしていたのか、覚えている人はあまりいないと思います。それは先ほど触れた2022年北京冬季五輪への対応です。習近平国家主席の威信をかけて進められていた一大事業ですが、香港で起きた民主化デモの弾圧やウイグル人に対する人権侵害が国際的非難を浴びており、平和の祭典を開くのにふさわしくないと異議が上がっていました。
160を超える世界中の人権団体が連名で国際オリンピック委員会(IOC)に書簡を送り、2022年冬季五輪の北京開催を撤回するよう訴えていたことが11日までに分かった。中国政府による大規模な人権侵害が疑われる現状を撤回の理由に挙げている。
IOCのバッハ会長あての書簡では、新疆ウイグル自治区やチベット、香港、内モンゴルにおける中国政府の活動に言及。冬季五輪の開催国としてふさわしくない状況が確認されているとの認識を示した。(出典:22年冬季五輪、中国開催の撤回を 160超の人権団体がIOCに訴え,CNN電子版(CNN香港),2020.09.11,
https://www.cnn.co.jp/showbiz/35159444.html)
これを受けてアメリカのバイデン政権は選手団は送りつつも政府関係者は出席させない「外交ボイコット」で対応します。これは1980年のモスクワボイコットのように五輪へ向けて日々練習に励んでいる選手たちの気持ちを尊重しつつも、中国の人権問題は座視しないという意思表示でした。それに対し中国側は「断固した措置をとる」と反発し、日本に対しては以下のような圧力をかけてきたそうです。
まず、ぼくの責任で申しますけど、ぼくなりの情報活動でぼくは確認できていると思っているのは、中国からすさまじい圧力がかかっている。水面下で。その圧力が、中国はしたたかだから、非常にシンプルに圧力をかけていて、一言で言うと「アメリカを取るのか中国を取るのか、決めろ!」と。もう、曖昧は許さないと。その象徴として「北京五輪を支持」して、「支持」をはっきり言えと。それでアメリカやイギリスが匂わせているような「外交ボイコット」は絶対するなと、ちゃんと地位の高い外交使節団を送って来いと。つまり開会式閉会式に合わせてですね。特に開会式に合わせて。それでそれを通じて中国共産党としては日本がアメリカを取るのか中国を取るのかどっちの決断をしたのか判断すると。(出典:【ぼくらの国会・第251回】ニュースの尻尾「対中宥和はダメっ!」,青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会,2021.12.04.,1:20-2:21,
https://www.youtube.com/watch?v=YMXH5kRfXec)
こうした情勢に対し、岸田政権は「外交ボイコットはするか」というメディアの質問に「日本の国益に照らして考える」として明言しませんでした。そして最終的に決定されたのは、閣僚からなる外交団の派遣は見送るも、日本オリンピック委員会(JOC)会長の山下泰裕氏に東京五輪組織委員会会長である橋本聖子氏、そして日本パラリンピック委員会(JPC)会長の森和之氏を派遣することにしました。
政府は24日、来年2月から中国で開かれる北京冬季五輪・パラリンピックへの政府代表団の派遣を見送ると発表した。事実上の「外交的ボイコット」で米国などと足並みをそろえる。東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長と日本オリンピック委員会の山下泰裕会長、日本パラリンピック委員会の森和之会長が出席する。(出典:首相「自ら判断」 政府代表団派遣見送り,産経ニュース電子版,2021/12/24,https://www.sankei.com/article/20211224-C3ECY52AJJILVIW6JZZ5VYCOHM/)
国内メディアは「事実上の外交的ボイコット」と書き、安倍さんも「中国の人権状況に懸念を表明する同志国の戦列に加わることができた」と評価いらしていましたが、実態は少し違います。というのも派遣したメンバーのうち橋本聖子氏は閣外の人間ではあるものの国民の選挙で選ばれた国会議員であり、2021年に開催された東京五輪に出席した中国の苟仲文氏は閣僚級と呼ばれていますが、それは日本における「閣僚」とは異なり、国務院(日本でいう内閣)の直下に属する国家体育総局の局長でした。そして彼は中国オリンピック委員会主席を兼任しており、事実上五輪開催の責任者としてカウンターパートが成立してたんです。
破綻した米中等距離外交
こうした姑息な等距離外交をしていた岸田総理ですが、中国は喜ぶ一方でアメリカは不信を募らせました。その背景について青山さんはこのようにおっしゃっていました。
でもっと具体的に言うと、これは誠に申し訳ないけど、林芳正前日中友好議連会長を外務大臣にしたことについてアメリカが納得してないんですよ。それで僕はですね、例えば総理経験者と話していても「あの人事は間違いだ」と言う人はいてですね。で、一応岸田総理とも議論はしますから、これはもう言ってしまってますけど、やっぱり岸田総理は人と議論することもやぶさかでないのは本当ですよ。
したがって日中友好議連の会長を任命したに等しいけど、それは会長は止めてもらっているし、中国と非常に林さん親しいのは事実だけど、アメリカの人脈もあるっということを少なくとも岸田総理は期待して、で岸田総理の本音は……これは僕は勝手に言いますけど、明らかに米中の間の仲介役になりたいんです。(出典:【ぼくらの国会・第264回】ニュースの尻尾「岸田総理、バイデン大統領はなぜ会わないか」,青山繁晴チャンネル「ぼくらの国会」,2022.1.11.,8:13-9-20, https://www.youtube.com/watch?v=ISyYOjkgKms)
岸田さんは宏池会の領袖でしたからハト派と呼ばれ、故加藤紘一氏の掲げた「日米中等距離外交」を志向していたということになります。マスコミからも「安部路線からの転換」と期待を込めて囃し立てられていただけに結構やる気だったんですね。しかし緊迫化していく国際情勢の中ではこうした「二股外交」は外交上の立場を悪くするリスクがありました。
それは意外な形で表面化することになりました。2022年1月7日、仕事始めとともに開かれた日米2プラス2の閣僚会談において、両国の共同作戦の指針を確認した他、軍事研究への協力も確約し、近年中国やロシアが開発し配備した極超音速滑空飛翔体(HGV)に対抗する方針も明らかにしたうえで、中国の人権問題に懸念を表明し、台湾海峡の平和と安定を訴えました。
4閣僚は声明で、中国の新疆ウイグル自治区と香港における人権問題について「深刻な」懸念を示したほか、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した。(出典:日米2プラス2共同声明、中国の動きに懸念表明 台湾海峡の安定強調,ロイター通信電子版,2022.1.7.,
https://jp.reuters.com/article/idJPL4N2TN0FM)
これに対して中国は烈火のごとく反発し、担当の報道官が「中国の顔に泥を塗った」と口汚く罵りました。それもそのはず、見せかけの「外交ボイコット」で中国の顔を立て、中国の人権問題に対する懸念を表明する決議も散々先延ばしにして名指しも避けていたのに、アメリカとの閣僚会談で名指しで批判してしまったのですから。岸田さんとしてはバランスをとったつもりでしょうが、中国側にとってはアウトだったということです。
さらにこの後はロシアのウクライナ侵略が始まり、日本はアメリカとともにウクライナを支持し、中国は中立を標榜しつつもロシアを支援したことで分断が加速しました。結果アメリカの不信は解消されたものの、中国との緊張は岸田さんの意に反して高まることになります。
中国が求めていること
ウクライナ戦争とともに分断化していく世界で岸田さんは日米関係を強化しつつも日中改善のアプローチを諦めませんでした。それが結実した唯一の例が2022年11月17日、APECが開催されたタイのバンコクで3年ぶりに行われた日中首脳会談です。日中友好50周年などという美辞麗句に支えられたこの会談では、一度は外された日中の戦略的互恵関係の推進で一致、「日中安定へ向けて」などという表記が新聞を賑わせました。
首相は会談で「日中関係はさまざまな協力の可能性とともに多くの課題、懸案にも直面している」と指摘した。香港メディアによると、習氏は「現在、世界は新たな不安定、変革期に入った。中国と日本は近隣、アジアと世界の重要国として、多くの共通利益と協力空間がある」と日本側に協力強化を呼び掛けた。(田中一世,3年ぶり日中首脳会談 尖閣・台湾で習氏に懸念伝達 建設的関係へ対話,産経ニュース電子版,2022/11/17,https://www.sankei.com/article/20221117-3FEAOWUE65IRVBQVDZFEZZZBMA/)
この時誰もが「日中関係は正常化する」と思ったことでしょう。しかし違いました。それを解くカギは岸田首相が「安定化」を強調しているのに対し、習近平国家主席は「変革」という言葉を使っていたことです。冒頭で石破新総理に祝電を送った時も「新時代の要求に合致した建設的で安定した日中関係の構築」と言っておりますね。岸田さんや石破さん、そして日本のメディアが「安倍政権以前の日中関係」に戻すことを目指しているのに対し、習近平は違ったヴィジョンを持っていることがわかります。日本のメディアだとここまでが限界なので日本語版中国メディア『人民網』での彼の発言を引用してその真意に迫ります。
習主席はまた「中日両国は社会制度や国情が異なる。双方は互いに尊重し合い、相互信頼を深め、疑念を解消するべきだ。海洋や領土の紛争問題においては、これまでの原則的合意を厳守し、政治的な知恵と責任感をもって、溝を適切に管理・コントロールする必要がある」と指摘。
「両国の経済は相互依存性が高い。デジタル経済、グリーン発展、財政・金融、医療・高齢者ケア、産業チェーンとサプライチェーンの安定性及び円滑性の維持などの面で対話と協力を強化し、より高水準の強みによる相互補完と互恵・ウィンウィンを実現する必要がある。両国は各々の長期的な利益と地域の共通利益に着眼し、戦略的自律性と善隣を堅持し、衝突や対立を拒絶し、真の多国間主義を実践し、地域統合を推進し、共同でアジアをしっかりと発展させ、建設し、グローバルな課題に対処するべきだ」と強調した。(習近平国家主席が日本の岸田文雄首相と会談,人民網日本語版,2022/11/18,http://j.people.com.cn/n3/2022/1118/c94474-10173295.html)
翻訳ということもあり少し意味がずれる可能性もあり得ますが、原文のまま正確な訳であると仮定して解釈を試みた結果、かなり踏み込んだ要求が盛り込まれていることがわかります。
それは三つの奇妙な言い回しにあります。一つ目は「溝を適切に管理・コントロール」という言葉です。普通、単に友好を語るなら「溝を無くす」と言うはずです。二つ目は「衝突や対立を拒絶」です。ここも友好を語るなら「衝突や対立を回避」もしくは「解消」になります。三つ目の「真の多国間主義」は日中関係との関連が一見不明です。
しかしここ最近の中国のふるまいや不詳私が分析してきた中国論に基づけば、これを明確に説明することができます。
まず、一つ目の「溝を適切に管理・コントロール」という言葉ですが、これは日中の互いに譲れない対立は継続していくことを示唆しており、主に日本に対して管理・コントロールを要求しています。わかりやすく言えば「(尖閣や台湾について)中国は譲らない、お前(岸田)は日本の右翼どもを抑えてコントロールしろ!」ということです。ストレートに言えば「俺様(中国)にあまりたてつくな」ということですね。
次に二つ目の「衝突や対立を拒絶」ですが、これは「拒絶」とある通り日本にある事を拒絶するように求めているのです。それはアメリカとの連携です。トランプ前政権の時代にようやく中国の野心的な国家戦略に気づいて、バイデンの時代では人権問題に言及、習近平の強硬姿勢で本格的な対立になります。この時、習政権は国内ではひたすらアメリカとの対決姿勢を見せる一方で、国際社会では厚顔にも「アメリカが対立を作っている」と主張しています。これを勘案すれば、岸田さんに対し「アメリカの反中同盟を拒絶しろ」と言っていると解釈できるのです。
そして三つ目の「真の多国間主義」ですが、これもアメリカと袂を切れと言う趣旨で共通しています。中国の弁においては今の世界はアメリカの「覇権主義」による一極主義であり、これを打開して「多極化」するべきだと主張しています。これが即ち「真の多国間主義」と言われるもので、要は民主国家であるアメリカを中心としない、非民主的なグローバル世界を創るということです。
メッセージを聞き流す岸田政権
「そんなの拡大解釈じゃ」と思われたそこのあなた。中国側は新時代の世界へ向けた準備を着々と進めております。まず習体制以前の1990年から世界の「多極化」の重要性を強調し、アメリカ一極体制からの脱却を主張しております。習近平時代においても2015年の国連総会の場で「真の多国間主義」に言及したのち、一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)など世界への影響力を広げる活動を行っております。
そしてそれは経済のみに限らず軍事面での影響力拡大も進めており、目まぐるしい軍拡の他、南シナ海で活動の活発化、太平洋の国々との軍事協力を進めております。最近もはっきりとアメリカに対抗する軍事協力を提案するようになっています。
中国の董軍国防相は13日、多国間や2国間の防衛協力協定の締結に意欲を示した。米欧主導の国際秩序から脱却する「多極化世界」の実現を提唱した。米国に対抗する勢力づくりにつなげる狙いがある。(出典:中国国防相「防衛協定の締結を」 対米連携を呼びかけ,日経新聞電子版、2024.9.13., https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM1286X0S4A910C2000000/?msockid=05400b4f918d66c10fe31e5c90ff67ec)
こうした中国の世界戦略を念頭にしてみれば「真の多国間主義」の意味が理解できると思います。従来は経済大国の日本と経済成長を優先する中国との互恵関係が成り立っていましたが、中国が経済力で日本を抜き、技術面でも凌駕しつつある今日では経済協力以外でのパートナーシップも求めようとしているのです。それこそが習近平の言う「新時代の要求に合致した建設的で安定した日中関係の構築」なわけです。
しかし岸田政権はこのメッセージをすべて聞き流しました。日米同盟を強化してアジアと台湾周辺の安定を維持するために貢献しました。また経済安全保障という概念を持ち出し、アメリカの実施する対中国半導体輸出規制にも協調しております。そして台湾との非公式の関係も強化しております。会談ではヘコヘコするくせに、アメリカ一辺倒を変えないその姿勢は、中国にしてみれば童話で人を化かす「狸」のように見えるでしょう。だからこそ福島原発の処理水で経済制裁を課したり、日本周辺の軍事圧力を強化したりしているのです。
当然これは日本側の立場を考慮しない独善的な考え方です。日本にとって日米同盟は安全保障上重要なものと位置付けており、地域が不安定になるほどそれを強化する必要に迫られます。これは自民党政権に限ったことではなく、あの民主党政権でも鳩山時代に日米関係が極端に冷却した反動で、今立憲の新代表に就任した野田佳彦元首相はアメリカの提案する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を「聖域なし」で丸呑みしようとしていましたからね。
地雷だらけの石破外交
こんないろいろと不安定な中で党内野党としてブイブイ言わせてきた石破さんがカジ取りするのですから相当に大変です。まず最初の山場は半導体関連です。すでにアメリカは高度な半導体素子やその製造に必須の工作機械の輸出に規制をかけており、日本やオランダが協調状態にあります。それに加えて半導体材料の輸出も規制する方針のようです。
米国が、中国に対する、先端半導体向け材料の輸出規制が日本にも及びそうだ。対象は、露光に用いるフォトレジストとフォトマスクである。2024年11月の米大統領選後に、米政府が日本に協力を要請するもようだ。(出典:半導体材料の対中規制、日本も対象へ 米大統領選後に,日経テックフォーサイト,2024.10.2.,https://www.nikkei.com/prime/tech-foresight/article/DGXZQOUC01CXK0R01C24A0000000)
当然中国の反発は必至です。すでに工作機械の輸出制限に対しても「続ければ経済的報復措置をとる」と脅しており、さらなる圧力が予想されています。このアメリカが進める対中半導体規制。高度な半導体技術やそれを土台とするAI技術による兵器開発の抑止が目的とされていますが、大本はかつての日米の貿易摩擦同様、アメリカの主力産業が脅かされることが理由だったりします。むろん中国の経済規模を武器にした圧力工作への対策でもあるので、その主要な被害者でもある日本としては願ったり叶ったりの側面もあります。また半導体サプライチェーンの再構築に便乗して台湾の半導体メーカーTSMCの工場を熊本に誘致したり、日本独自の半導体産業の再興を目指したりもしていますから、中国の要求を優先したらこれらがどうなることやら。さぁて、石破さんはどうするでしょうか?
台湾問題も見過ごせません。というより石破さんにとってかなり重い問題です。というのも総裁選前の8月13日に彼は台湾を訪問して頼清徳総統と会談しちゃってるんです(だから首相就任時には祝電を送ってきています)。
自民党の石破茂元幹事長ら超党派の国会議員団は13日、訪問先の台北で頼清徳(ライチントー)総統と会談した。台湾総統府によると、石破氏は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」とした上で、「民主主義陣営が共に抑止力を発揮してこそ、地域の平和と安定を維持できる」と語った。(出典:石破氏、台湾の頼総統と会談 中国念頭、「民主主義陣営」結束で一致,朝日新聞電子版、2024.8.13., https://www.asahi.com/articles/ASS8F2WDCS8FUHBI00SM.html)
どこぞの回顧録では「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と言った岸田さんの言葉を批判していたそうですが、今は自分の言葉にしちゃっております。石破さんとしては外交を親中路線にするからバランスをとったつもりでしょうが、中国としては限りなく赤に近いイエローカードです。本日10月10日にASEAN首脳会議で中国と首脳会談するそうですが、相手からは「二度と台湾を訪問するな」「一つの中国政策を堅持しろ」「アメリカの台湾政策に組しないと誓え」と要求されるでしょう。首を縦に振れば台湾から「失望」表明がでて、アメリカとの連携にもひびが入ります。しかし首を横に振れば中国からは「反中」のレッテルを貼られることでしょう。まさに地雷原という言葉がふさわしい状況に立たされていることに石破さん自身が気付く日はそう遠くありません。
次回は日韓問題について触れていきます。