ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

父系一系は女性差別ではありません

※現在石破政権がどうなるかわかりかねるので、外交関連の話は保留にして皇室に関する私の考察と意見を述べさせていただきます。

 父系一系の天皇家

 現代日本天皇神武天皇から連なる男系一系とされています。"万年"一系や初代神武天皇のご存在に疑義を唱える者はいますが、王朝交代という大事件が明確に記録に残っているわけではなりません。百歩譲って継体天皇以降から数えても天皇家は人類史上最長の王朝と言えるでしょう。
 皇位継承が男系の男子とする今日の皇室典範を批判する者がいます。彼らが言うには過去に推古天皇など女性天皇が居たのに、現在の皇室で女系継承の余地を入れないのはおかしいという。しかしこれは歴史を知らぬ安直な思考と言わざるを得ません。
 これまでの歴史上女性天皇は確かに存在しました。しかし彼女らはいずれも皇族を父とする男系であり、その背景も天皇である夫の崩御や男系親族の継承までの中継ぎとしての役割を担っていました。一部の専門家は女性天皇の御子が即位した例を根拠に「女系継承はあった」と主張していますが、夫も皇族であり「父方を辿ればご先祖の天皇に行き着く」ために男系で一貫しています。というより局所的な継承ではなく、全体的な皇統を俯瞰して見るべきで、呼び方も男系ではなく父系と呼んだ方がわかりやすいでしょう。

 女性差別という勘違い

 日本皇室が何故男系に拘るのか? 現代は男女平等の潮流の中にあり、日本も女系を認めるべきだという女系推進論者もいます。2024年10月29日、国連女性差別撤廃委員会が日本に対して皇位継承に関わる皇室典範の改定を勧告しました。

国連の女性差別撤廃委員会は29日公表した日本の女性政策についての最終見解で、皇位継承を男系男子に限る皇室典範の規定にも言及。女性差別撤廃条約の理念と「相いれない」と指摘し、皇室典範の改正を勧告した。(出典:「男系男子、理念相いれない」 国連女性差別撤廃委、皇室典範改正も日本に勧告,産経ニュース電子版,2024.10.29.,https://www.sankei.com/article/20241029-MZID7BPSIBOEXC775G2L2NPRE4/)

 頭に国連とありますが、外部委託された専門家からなる委員会であって国際機関ではありません。そんなものが日本の根幹にケチつけること自体噴飯ものですが、そもそも彼らには重大な勘違いがあります。それは「女系容認イコール男女平等なのだろうか?」ということです。

 女系継承でよく引き合いに出されるのが欧州の王室です。例えば20世紀初頭のイギリスで、ビクトリア女王アルバートが結婚して次代の王エドワード7世が生まれており、オランダでもウィルヘルミナ女王がハインリヒと結婚して次代の女王ユリアナを産んでおります。これをもってして欧州で男女平等が進んでいると主張したいのでしょうが、この二例はいずれも女性解放が謳われた1960年代よりずっと前の出来事です。

 そもそも欧州の王室の婚姻事情は複雑であり、傍系を認めなかったり、王家同士や名門貴族との縁組(政略結婚)が多かったことも考慮に入れるべきでしょう。実際先述のアルバートもドイツの名門貴族であり、ハインリヒも大公家の出身でした。これは現代においても同じであり、前イギリス国王のエリザベス2世の王配フィリップもギリシャ王家の出身です(同時にビクトリア英女王の玄孫だったりします)。現スウェーデン王太子ヴィクトリアの配偶者のダニエルは純粋な平民出身ですが、結婚式時にわざわざ公爵の爵位を与えられております。

 もし日本がヨーロッパ流の皇位継承法を取り入れる場合、敗戦後廃止された華族制度を復活させることになり、憲法第14条の2の「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」を改正しなければなりません。それは旧宮家復権どころではない大議論を引き起こすことになるでしょう。なお旧宮家復帰についても同14条の「門地による差別」に抵触するという主張がありますが、それについてはブロガーのNathan様が詳細な考察と反論をしてくれております。

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 男性版シンデレラが受け入れられない理由

 もっとも女系継承を主張している人はそこまでヨーロッパ式を求めているのではなく、女性皇族と民間男性の結婚を想定しているのでしょう。民間女性が男性皇族と婚姻したらその御子は皇位継承者になるのだから、逆も行けるだろうと。

 しかしそれは難しいでしょう。というのも現状女性皇族が婚姻後も皇籍に残るようにしても、慣習上男性が皇籍に入らないからです(特に最近は選択的夫婦別姓に前のめりですから余計に変わりません)。その場合、子供も皇籍に入らない可能性が高く、皇位継承権を得るには別途民間から皇籍に変えなければなりません。旧宮家復帰と変わらない議論が始まります。

 生まれたときに自動的に皇籍に入れられないのかって?言うのは簡単ですが実際は厳しいでしょう。保守派が反対するのは言うまでもありませんが、母が皇族という理由だけで子を皇籍に入れれば、事実上皇位継承のために民間人の父親から親権を奪ったような形となり、それはリベラルの立場からも受け入れられないでしょう。

 それを回避するには慣習に逆らってでも民間男性を美智子皇太后陛下や雅子皇后陛下のように皇籍に入れるしかありません。いわゆる婿入りというやつですが、民法上可能でも国民の理解を得られないでしょう。先ほど例に挙げたスウェーデン王室のヴィクトリア王女とダニエルの婚姻も当初は国王と国民の反発を呼んでいました。

 なぜでしょうか?その理由をおとぎ話を例に説明しましょう。一つ目は眠れる森の美女、二つ目は勇ましいチビの仕立て屋です。どちらも有名な物語であり詳細は割愛しますが、この二つの話は王家への婿入りの例として考察できる恰好の教材です。

 一つ目の眠れる森の美女は魔女に呪われた一人っ子の王女が他国から来た王子に見染められる話です。この場合、婿が王子なので国王夫妻は喜んで結婚を受け入れます。二つ目はチビと嘲笑される仕立て屋が、ハエを7匹殺した事がきっかけで召し抱えられて巨人を倒す話です。召し抱えられた経緯はただの勘違いでしたが、その後の努力と機転で王女との結婚を勝ち取りました。

 なぜおとぎ話と思われるかもしれませんが、それは女性が次世代を生む神聖な立場であるのに対して、男は地位と経歴の大きさが庶民の視点であっても重視されることを示唆しているからです。民間出身のお妃で形容される「シンデレラ」が男性に適応されない理由はここにあります。王子はただ百年の呪いが解けた城に入っただけなのに対しちびの仕立て屋は巨人を倒す必要がありました。
 実際に王となった平民の話を紹介しましょう。何を隠そう度々引き合いに出したスウェーデン王室のベルナドッテ朝の祖、ジャン=バティスト・ジュール・ベルナドッテです。18世紀から19世紀にかけてフランス革命ナポレオン戦争で軍人・政治家として活躍した彼は平民出身でしたが軍事と政治の手腕を買われ、当時後継者のいないスウェーデン国王カール13世の王位継承候補者の一人となりました。

 傾国の最中にあったスウェーデン人達にとってそれは期待を集める出来事であり、議会採決時はストックホルム中を巻き込む狂騒だったそうです。そうして摂政王太子となった彼は国民の期待に応えるようにスウェーデンを立て直し、ノルウェーを獲得するなど王国に大きく貢献しました。そして1818年のカール13世の死去と共に晴れてスウェーデン国王に即位するに至ったのです。

 もし仮に日本で女系継承が容認され、勇ましいチビの仕立て屋のように民間人が皇配(女性天皇の配偶者)として選ばれるようなことになったら、その男性や親族に英雄とまではいかずとも立派な経歴が求められるのは想像に難くありません。その証拠に2021年10月に小室圭氏と婚姻した眞子様の時も小室家の金銭問題が問題視されました。皇籍を離脱される前提の彼女でさえこうならば、逆に皇室に受け入れる皇配選定はそれ以上の騒ぎになるのは確実です。

 女系論争の末路

 女系論者の問題点は女系と女性天皇を混同していることです。「女性天皇は存在したが女系はない」という歴史的事実をありとあらゆるロジックでぶち壊そうとしているのです。その背景は愛子内親王殿下の人気でしょう。一日本国民として殿下が多くの国民に慕われておられることはとても素晴らしいことだと思います。しかしその人気にあやかって、一部の人たちが政治的な主張を通そうとするのは姑息と言わざるを得ません。
 これから彼女の婚姻が近づけば主張も騒ぎも大きくなるでしょう。本人たちにとっては「愛子天皇」実現のために必死なのでしょうが、日本の象徴としての役目を背負う殿下から見ればどう思われるか、彼らは考えたことがあるでしょうか?

 眞子様は小室家の金銭問題から波及した国民の反発を鑑みて、皇籍を出た皇女に渡される一時金を辞退し、宮内庁も「多くの人が納得し、喜んでくれる状況」でないことを理由に納采の儀などの儀式婚も執り行わない決定を下しました。この例を見れば、女系論争で加熱する国民を見る愛子内親王殿下がどんなご決断を下されるか、想像できます。国論を二分しかねない騒動を収めるべく前例に従って皇籍を離脱されるご決断をなさられるでしょう。「新しい家族との時間を大切にしたい」というお気持ちを述べられたら、もう誰も引き留めることはできません。

 だいたい眞子様のフィアンセ、小室氏のアメリカ留学費用や滞在費が「国民の血税から出されるのでは?」と週刊誌がスキャンダラスに躍っている時点で、もう駄目だと思いますよ。なんせヴィクトリア王女はダニエルを国王と国民に受け入れさせるために7年も王室に相応しい教養を身に着けるために勉強させたのです。 一流の教師陣を取り揃えて、外務大臣に歴史の授業を担当させて、当然費用はすべて国民の血税です!日本でやったら大炎上間違いなしです。

 伝統を守りつつ大らかなアイデア

 普段私たちは軽視しがちですが伝統って継続すればするだけ大きな価値を持つのです。一般人でさえ百年近く絵日記を書けば本として売れちゃいます。そして伝統は一度絶たれたら簡単には元に戻りません。無理くり女系継承を実現しても、それはもう神武天皇(もしくは継体天皇)から連なる天皇家ではなくなります。歴史の重みがなくなれば権威は徐々に薄れ、何のためにいるのかさえ怪しくなるでしょう(日本の左翼、特に日本共産党あたりはこれを狙って女系を主張しているに違いありません)。「象徴としての存在」「権力なき権威」を守ることが日本のアイデンティティーと民主主義を守ることになると私は強く主張します。
 旧宮家復帰に反対する人の主張としては「一度民間におりた彼らはいくら旧宮家でも民間人に過ぎず、皇族としての地位に相応しい立ち振る舞いができない」というのがありますが、彼らは菊栄親睦会という団体に属し、天皇皇后陛下ら皇族とも交流を続けているそうです。それに復帰といってもそのまま皇位を継承するわけではなく、継承権は次世代に譲り、生涯影ながら皇室を支える立場になる可能性が高いです。当然それは彼らの意思によるものです。自由で自己主張の強い民間男性には少々荷が重い使命だと思いませんか?
 他方で女性天皇自体の可能性はあっていいと思います。今上陛下や皇嗣殿下に何かあったときに皇后陛下が御譲位を受けられたり、宮内の皇女が次の天皇へ繋ぐために即位するのもありだと思います。男だ女だという議論ではなく「父方を辿ればご先祖の天皇に行き着く」を守りつつ、大らかなアイデアを出したらいいのです。