皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。2024年10月27日の衆院選により、自民公明の与党は大敗し過半数割れとなりました。躍進したのは国民民主党と立憲民主党ですが、野党連立が組めないために石破政権が少数与党として続投する見通しです。いずれにしてもリベラル親中親韓よりが優勢であり、その価値観が外交に影響することは避けられないと考えるのが一般的です。
日韓関係も地雷原
さて複雑化する国内政局は置いておいて、今回は日韓関係について触れていきましょう。岸田外交の成果の一つとして日韓関係改善がありますが、これは実のところ薄氷の関係であり、再び悪化に(しかもよりひどく)転じる可能性を秘めているのです。
前回指摘させていただいたように石破政権は親中親韓と目されており、過去に韓国メディアに対し「納得するまで謝り続ける必要がある」と発言したことから韓国側では期待値が非常に高いです。
来年は1965年に韓国と日本が国交正常化に合意してから60周年となる。石破氏は「小渕・金大中(キム・デジュン)時代のような良い関係に戻ればよい」と述べたことがある。石破氏が望むように尹錫悦-石破体制で韓日関係をより一層強める未来志向的な里程標をどう提示するかに関心が集まる。尹錫悦-岸田体制で半分ほど入れたコップの水の残りを共に満たすことを期待する。(出典:【社説】石破新首相が「コップの半分」満たすことを期待する=韓国,中央日報/中央日報日本語版,2024.09.30,https://japanese.joins.com/JArticle/324339)
肝心なのはこの記事にも書かれている「コップの半分を満たす」というものです。その要望の成り行き次第で日韓関係が大きく揺さぶられることになるのです。
日韓関係問題史
ここで日韓問題についてざっと歴史をおさらいしてみましょう。
1965年に国交正常化した日韓は日韓基本条約を結ぶとともに、日韓請求権協定を締結し、日本が無償3億ドル・有償2億ドルの経済協力資金を提供することで日本統治時代における保障と請求権問題を「完全かつ最終的に解決」としました。それには個人の請求権も含まれているとされていましたが、個別の問題について明確な取り決めがなく、特に慰安婦に関してはその範囲外であるという主張が1980年後半から出始め、日韓問題に発展します。その際は河野談話で謝罪するとともにアジア女性基金を設立して元慰安婦への補償と尊厳の回復が図られました。
しかし朴槿恵政権において慰安婦問題は蒸し返され、再び日韓関係は悪くなります。韓国は少女像を各国へ設置し、慰安婦問題の国際的周知と日本への圧力を高めました。これに日本は反発するも、2015年には安倍政権が朴政権と慰安婦合意を結び、10億円を拠出することで「最終的かつ完全に解決」することとなりました。だが、朴大統領が失脚して成立した文在寅政権は再び慰安婦問題を蒸し返すとともに、2018年は所謂元徴用工に対する賠償を求める判決が出て日本企業へ賠償要求が突き付けられました。加えて韓国艦艇による自衛隊哨戒機への火器管制レーダーの照射事件が発生、日韓の信頼関係が失墜します。その後日本政府が韓国の輸入管理体制の不備を理由にホワイト国から韓国を外すと、韓国が対抗してGSOMIA破棄をしようとするなど、日韓関係は最悪の状態へ陥りました。
その後、日米との関係を重視する尹錫悦政権が発足するとともに小康状態になりましたが、依然として問題は継続しておりました。日本としては所謂元徴用工の請求権は請求権協定によって「解決済み」であり、これを認めると協定の空文化をもたらし、両国の信頼関係が損なわれる危険があったのです。そこで尹政権は韓国企業による第三者弁済で解決金を元徴用工に支払うことを提案、岸田政権が輸出管理体制のホワイト国に韓国を戻し、日韓スワップを再開することで日韓関係は安定化しました。
そして今年2024年10月末には判決が確定した15人のうち、所謂元徴用工の生存者13人全員が受け取ったそうです。しかしこれでは終わらないようなのです。なくなった2人について遺族が受け取りを拒否しているという問題もあるのですが、それだけじゃないようなのです。
何が何でも日本から賠償を引き出したい韓国
先ほど韓国紙が言及した「コップ半分の水」というのは第三者弁済法による韓国側の解決金のことを指しており、韓国側は日本に残りの半分を出すべきと主張しているのです。というのも所謂徴用工の13人は解決金は受け取りましたが、判決で出た賠償金について債権が依然として残っているというのです。
피해자 유족이 작성한 배상금 수령 동의서엔 당초 예상과 달리 ‘채권 소멸’에 관한 내용은 포함되지 않은 것으로 알려졌다. 재단 측은 “’채권 포기’를 명시할 경우 유족들에게 압박이 될 수 있다”는 점을 고려했다고 한다. 외교부 당국자는 “이번 해법은 대법원 판결에 따른 피해자·유가족 분들의 법적 권리를 실현시켜 드리는 것으로서, 채권 소멸과는 무관하다”고 밝혔다.
(訳:被害者の家族が準備した補償金を受け取る合意には、当初の予想に反して「保証金の消滅」が含まれていなかったことがわかっています。財団は「『保証金の放棄』を明記することで遺族に圧力がかかる可能性がある」という事実を考慮したとされる。外務省の関係者は、「この解決策は、最高裁判所の判決に従って被害者とその家族の法的権利を実現するものであり、債券の消滅とは関係ない」と述べた。)(出典:징용피해 유족 2명, 정부 '제3자 변제' 배상금 첫 수령,朝鮮日報、2023.4.13.,https://www.chosun.com/politics/politics_general/2023/04/13/ONIPPSLYY5ERFD6L5ODS2YA364/)
原告側遺族への配慮を理由としておりますが、これでは法的な解決がされたことにはなりません。当然後で蒸し返されるのは間違いないでしょう。韓国側のいう残り半分は「こちらが誠意を出してやってるんだからお前も誠意を見せろ」という主張であり、請求権協定を理由に賠償金拠出を渋る日本への圧力です。もともと尹政権は第三者弁済の前には「基金」設立により日本企業からの拠出を促していましたから、何が何でも日本から賠償を引き出したい意思をありありと感じます。
日韓は戦争していたことにされる!?
「でも第三者弁済が進んでいるし、日本が賠償するのは請求権協定に反するから大丈夫でしょう」と思われるかもしれませんが、韓国側はこれを掻い潜る妙策を既に考案し実行しています。それは所謂徴用工判決を下した韓国大法院が「日本の不法性」を強調していることです。
客観的事実において日韓併合とその後の日本統治は国際条約によるものでした。しかし韓国ではナショナリズムの高揚とともに、これを不法行為であるとみなす動きが強まり、それが判決に反映されたのです。この主張は左派が強いのですが、尹政権の「解決策」もまたその影響の範囲内であるというのです。韓国史に詳しい宇山 卓栄氏は以下のように指摘しています。
大法院は元徴用工の賠償権を認めるとともに、「日本の朝鮮統治が不法であった」とする「歴史に対する弾劾」を行いました。
この「統治の不法」という論理をベースにすれば、慰安婦などの諸問題を「不法行為に対する慰謝料」という形で裁くことができるようになってしまいます。
今日、尹政権は「代位弁済方式」と言っていますが、その前提にあるのは「不法行為に対する慰謝料」という概念であり、これ自体、文在寅政権時のスタンスと何も変わっていないのです。(出典:元徴用工問題、韓国が提案する賠償肩代わり方式の裏にある「落とし穴」,JBpress,2023.3.16.,https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74366)
この「不法性」について日本が認める事態になれば請求権協定などもはや紙くずに等しく、韓国側はいくらでも慰謝料という名の賠償要求ができるということになります。というのも1968年に国連で「戦争犯罪及び人道に反する罪に対する時効不適用に関する条約」が採択され、人道犯罪には時効がないと取り決められました。だから韓国は慰安婦問題をSex slave(性奴隷)と主張していましたし、徴用工も「強制連行された労働」とすることで人道犯罪へ仕立てようといており、ほぼ成功を収めているのです。
そしてこれにダメ押しをするべく尹政権が画策しているのが、新たな日韓の宣言だというのです。日韓関係に詳しい鈴置 高史氏は以下のように指摘しております。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は新宣言について「仏独が1963年に結んだエリゼ条約のような不戦の誓い」と説明しています。日本が「韓日版エリゼ条約」に応じれば1910年から1945年までの間、法的には日韓両国は交戦国の関係にあり、併合ではなかったと認めることになります。つまり、「韓国は植民地になったことなどなかった」と日本も認定したことになるのです。(出典:「韓国が納得するまで謝る」イシバは“第2のハトヤマ政権”だ… 尹錫悦が期待する根拠,デイリー新潮,https://www.dailyshincho.jp/article/2024/10151700/?all=1&page=2)
実は文在寅政権ではそれまで韓国建国の日を李承晩が大韓民国政府樹立を宣言した1948年だったのを1919年に変更しました。これは1910年の日韓併合に反発して上海で結成された「大韓民国臨時政府」という抗日団体で中国国民党の傘下に属しており、国際的な承認は得られていませんでした。しかし文氏はこれを韓国の始まりとすることで日本統治時代を不法統治とし、日韓が「戦争状態」だったことにしようとしたのです。それを実質尹政権が引き継いで実現しようとしているのが実態であり、一つ踏めば仕掛けられた「爆弾」がすべて爆発する「地雷原」なのです。
氷河期へ突入する日韓関係
今後確実に石破政権は文氏と尹氏の仕掛けた地雷を踏みに行くでしょう。そしたら最後、日本は韓国と戦争状態だったことになり、請求権協定はおろか基本条約さえ塗り替えられて、際限なく賠償責任を追及されるようになるでしょう。しかも今度は日本側が国際法に則って韓国に賠償し続けなければならないというおまけ付きです。ことあるごとに韓国からの賠償要求が繰り返される場合、日本企業は、韓国におけるリスクを再評価し、事業戦略を見直す必要が生じるでしょう。これにより、韓国市場からの撤退や縮小が進む可能性があります。。
一方韓国側は日本側に合法的に賠償と謝罪を要求できる関係に満足し、関係継続を望むかもしれません。しかし韓国の左派は、日本の譲歩を受けて、さらなる歴史的な謝罪や賠償を求める声が強まるかもしれません。譲歩が続くことで、左派の中には「日本はまだ十分ではない」とする意見が出てくる可能性があります。ついには日本海呼称や領土問題へとエスカレートしていく可能性があります。
こうなると日本側は韓国との信頼関係が損なわれたと感じ国民の韓国へ対する感情も悪くなるでしょう。嫌韓は言うに及ばず、親韓の人たちでさえ失望するでしょう。「これさえすれば日韓関係はよくなる!」と言い続けて数十年、それが叶わないと悟った彼らの心情はいかほどのものでしょうか?
ちょっと古い記事になりますが、2014年の産経新聞の記事でアジア女性基金に携わった故大沼 保昭教授が、慰安婦問題を蒸し返す朴槿恵時代の韓国を見て思わず漏らした感想です。
ちょっと前の話だが、産経新聞の1日付朝刊政治面に「アジア女性基金の元理事『韓国に絶望』」という小さな記事が載っていた。元慰安婦に一時金(償い金)を支給したアジア女性基金の理事だった大沼保昭明治大特任教授が、慰安婦問題に関して韓国の報道陣にこう語ったとの内容だ。 「(強硬な姿勢を示す韓国に)失望し、ひいては絶望している」 大沼氏は、朴槿恵(パククネ)大統領がこれまで以上の謝罪要求を続ければ、日本社会で受け入れられる解決策を日本政府が提示するのは難しいとの認識も示したという。(出典:アジア女性基金元幹部の韓国への絶望、その元にまた朝日新聞,産経ニュース,2014.9.11,https://www.sankei.com/politics/news/140911/plt1409110007-n1.html)
念のために付け加えると大沼氏は保守に転向したわけでも嫌韓になったわけでもありません。安倍首相に「被害者のところに行って深々と頭を下げるよう」に提言したり他の左派政治学者と共に過去の政治談話を継承するように共同声明を出すほどのバリバリの親韓派です。そんな彼さえも韓国に対して「絶望」と言う言葉が出てしまったのです。
2024年4月の韓国総選挙では革新系の「共に民主党」過半数を上回る議席を獲得しております。その党首李在明代表(国会で逮捕同意案が可決されたそうですが)は反日強硬派として有名であり、彼が大統領になれば間違いなく日韓関係は氷河期に突入するでしょう。