皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。大寒波が襲来して非常に寒いですが、皆様ご無事でお過ごしでしょうか。
2025年2月7日、石破茂総理大臣とドナルドトランプ大統領による日米首脳会談が開催されました。昨年11月に会合を断念して以降、満を持して実現した会談では「日米の黄金時代」という仰々しい飾り言葉とともに、核抑止を含めた日本防衛への対処力を高めることで一致し、尖閣諸島への日米安全保障条約第5条の適用についても確認しました。また、経済面でも両国は緊密なパートナーシップを強調し、日本企業による対米投資を更に拡大する意向を示しました。
石破茂首相とトランプ米大統領は7日昼(日本時間8日未明)、米ワシントンのホワイトハウスで会談し、共同声明を発表した。「暴力の続く混乱した世界に平和と繁栄をもたらす」との決意を表明した。中国の覇権主義的行動を念頭に「自由で開かれたインド太平洋を堅持する」と強調した。(出典:「日米関係の新たな黄金時代」と共同声明 石破茂首相とトランプ米大統領が会談,産経ニュース電子版,2025.2.8., https://www.sankei.com/article/20250208-Q54Q7GHGSNMHZCADSMFEXWDTFM/)
こうした「成果」に対して日本メディアは総出で絶賛しております(反米メディアは除く)。まぁ、これまでさんざん「予測不能」と煽りに煽って「関税かけられるんじゃないか」「防衛費倍増を要求されるんじゃないか」と戦々恐々だっただけに、やさしくしてもらったということで大成功とのこと。勢いづいたメディアはトランプ氏が石破氏に「偉大な首相になる」と称賛したと飛ばしました。
トランプ米大統領と石破茂首相は7日、ホワイトハウスでの初会談後の記者会見で互いを称賛した。トランプ氏は石破氏について「偉大な首相になる。首相として素晴らしい仕事をするだろう」と評価。石破氏はトランプ氏に取り入ろうと、バイデン前政権を批判する場面もあった。(出典:トランプ氏「偉大な首相になる」 日米首脳、会談後に互いを称賛,47NEWS,2025.2.8.,https://www.47news.jp/12144194.html)
これを額面通りに受け取るのはさすがに無邪気が過ぎます。かといって一部の保守(もしくはアンチ石破)が主張するような「”偉大な人々”の首相」という意味でもなく、正確な訳は「you will be a great people's preime minister(あなたは素晴らしい国民の首相になるでしょう)」国民のために尽くす首相になるという、言うなれば社交辞令です。
ともかくメディア総出の絶賛には少し注意した方がいいです。戦前よりましになっているとはいえ、外交成果を過大に強調する「大本営的体質」が未だに残っていることが対中外交などで露呈しております。実際それを指摘する記事もちゃんとあり、観念的反米は論外として「日米黄金時代は金メッキではないか」という疑問も投げかけられております。
今回はドナルドとシゲルの日米首脳会談の冷静なる評価とその意外な展望についてまとめてみました。
処方箋の安部路線
こう言っては何ですが、私は石破首相とトランプ大統領の首脳会談が失敗するようなことはあまり心配していませんでした。「予測不能」と呼ばれるトランプ氏ですが、その言動はむしろわかりやすく、自分やアメリカに利益があることを示せば心強いパートナーになります。過去記事の「トランプ外交とうまく付き合うには?」において私はすでに答えを出しており、その通りのアプローチをとったために石破政権はうまくいったのです。それはずばり「安部路線の継承」です。
ウクライナへの武器支援の停止を公言したり、NATO諸国への防衛費増額要求に象徴されるように、トランプ氏は片務的な軍事支援にとても消極的です。一期目ではそれをもって日本からの米軍撤収論さえも主張していたわけですが、安倍政権が2015年に施行した平和安全法制により日本側の安全保障への積極的なコミットメントを確保しております。
In line with the U.S.-Japan Treaty of Mutual Cooperation and Security and the U.S.-Japan Guidelines for Defense Cooperation, Japan reaffirmed its role in maintaining peace and security in the Indo-Pacific region by seamlessly responding to any situation from peacetime to contingencies. This has been further enabled by Japan’s 2015 Legislation for Peace and Security, which enhances U.S.-Japan Alliance deterrence and response capabilities.
(訳:日本は、「日米相互協力安全保障条約」及び「日米防衛協力ガイドライン」に基づき、平時から有事までのあらゆる状況にシームレスに対応することにより、インド太平洋地域の平和と安全を維持する役割を再確認した。これは、日米同盟の抑止力と対応能力を強化する日本の2015年の平和安全法制によってさらに可能になりました。)
(出典:United States-Japan Joint Leaders’ Statement,The White House,https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/2025/02/united-states-japan-joint-leaders-statement/)
さらに「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」やオーストラリアやインドとの準同盟を目指す日米豪印戦略対話(クアッド)を日米の共通戦略として採用しました。これらはもともと安倍氏が構想していた中国を念頭に置いた多国間協力の一環であり、従来のアメリカ任せにしていた日本の安全保障戦略からの転換を志向しています。すなわちアメリカにとっては地域安全保障と対中抑止における負担分散のコンセンサスとなっているのです。
The two leaders shared views on the severe and complex security environment and expressed their determination to continuously cooperate to realize a free and open Indo-Pacific. As part of such cooperation, the two leaders intend to advance multilayered and aligned cooperation among like-minded countries, including Japan-Australia-India-U.S. (Quad), Japan-U.S.-Republic of Korea (ROK), Japan-U.S.-Australia, and Japan-U.S.-Philippines.
(訳:両首脳は、深刻で複雑な安全保障環境について認識を共有し、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、引き続き協力していく決意を表明しました。その一環として、両首脳は、日本・オーストラリア・インド・米国を含む志を同じくする国々間で、重層的かつ整合的な協力を進めていく考えです。(クアッド)、日米韓(韓国)、日米豪、日米フィリピン)
これらを土台とした上に岸田政権時代で取り決められた日米両軍の指揮系統の統合化や、アルテミス計画や人工知能開発、サイバーセキュリティでの協力、そして2027年度に日本が自国の防衛力を強化し、それ以降の強化にもコミットメントを行うことが共同文章で確認されております。2027年と指摘しているあたり、防衛費GDP比2%を念頭に置いていることは明らかでしょう。良いことですけど。
リベラルを標榜する人たちやアンチ安部を掲げる人たちがどう思おうと、安部路線は日米の基本戦略、言わばレジームとなっています。日米片務性を解消したいトランプ大統領としては日本がこれを継続してくれれば良いのですね。岸田さんもそうですが石破さんも本音は安部路線の脱却を考えているでしょうが、アメリカ一極体制が崩壊している以上、安倍政権以前の日米関係に戻ることはできません。安部路線という処方箋こそが彼らと日米関係を支えているのです。
逃した尖閣日本領有支持
つまるところ前例踏襲として日米の安全保障体制が確認されたことになり、それは良いことなのですが、今日本に降りかかっている安全保障の課題もそのままにされる懸念があります。それは尖閣諸島における中国海警局の主権侵害行為です。
確かに今回の首脳会談では尖閣諸島への日米安全保障条約第5条の適用について確約をしました。しかしそれはオバマ政権から一貫して継承された方針に過ぎず、しかも有事の時での関与に限定しております。逆を言えば平時においては同島をめぐる日中対立についてアメリカは事実上中立の構えを変えていません。それをいいことに中国は年中海警局の船をひっきりなしに送り、日本の排他的経済水域どころか領海侵入を常態化させております。
12日午前10時ごろから、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海に中国海警局の船4隻が相次いで侵入し、午前11時35分ごろから相次いで領海外側の接続水域に出た。中国当局の船が尖閣周辺で領海侵入したのは1月8日以来で、今年2日目。
第11管区海上保安本部(那覇)によると、4隻とも機関砲のようなものを搭載。領海から出るよう巡視船が要求していた。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは86日連続。
(出典:尖閣諸島周辺に91日連続で中国船 海警局の2隻に巡視船が警告,産経ニュース電子版,2025.2.12.,https://www.sankei.com/article/20250212-6UJICS4PCNLSDNGM35BVUSHNGY/)
中国側の意図は尖閣周辺を「パトロール」して見せることで、国際社会に対し同島が自国の領土領海であると主張し、日本に対し「領土問題がある」ことを認めさせることです。そして中国側の物量に日本側が折れて中国の実効支配が認められれば、自然と日米安保第5条の適応からも外れ、戦うことなくして中国は日本から領土を強奪できます。こういったグレーゾーン戦略に親中の石破政権や岸田前政権はもちろん、安倍政権でさえも有効な対策ができていませんでした。その背景はやはり相手が国なら絶対に戦わない日本国憲法9条の頸木が有るからに他なりません。
しかしもしアメリカが「尖閣諸島は日本の領土である」と認めたらどうでしょう。参議院議員の青山繁晴氏は首脳会談前の提言として日米の共同文章に「尖閣諸島が日本の領土である」ことを盛り込む交渉をするべきだと主張しました。
【ぼくらの国会・第888回】ニュースの尻尾「トランプ大統領に『尖閣は日本の領土』明言を求めよ」https://www.youtube.com/watch?v=OlmdLqIdm3I
客観的に言ってすでに台湾問題で中国と対立しているアメリカとしては、新たな対立案件を抱えるようなこの要望に「普通」は答えません。ですが動画で青山さんも指摘している通り、二期目トランプ政権の国務長官であるマルコ・ルビオ氏は上院議員時代に「尖閣諸島は日本の領土」と明言していたのです。
2011年から上院議員となったルビオ氏はアジアへの関心が深く、外交委員会のアジア太平洋小委員会で日中関係にかかわるようになった。そして、「尖閣諸島は日本の領土だ」と公式の場で言明するようになったのである。中国の主張を歴史的に研究し、尖閣への攻勢を「冒険主義的かつ違法に日本領土を奪おうとしている」と明言した。(出典:古森義久,ルビオ次期国務長官を注視しよう(下)安倍首相の靖国参拝への支持,Japan In-depth,2024.11.24.,https://japan-indepth.jp/?p=85382)
上院議員時代のルビオ氏の言動がトランプ外交ににどこまで反映されるかは未知数ですが、登用するにあたってトランプ氏がそれを加味していることは間違いないので、可能性は十分にありました。さすがにアメリカ軍が日本のために尖閣から中国海警を追い出してくれることはないにしても、国際宣伝戦においては日本が少しでも盛り返せたと思います。
しかし石破首相はそれをしませんでした。それどころか考える余裕すらなかったと思います(理由は後程)。かくして日本は千載一遇のチャンスの逃したのです。にもかかわらず「大成功」と絶賛するメディアと与野党議員に呆れながら、青山さんはこう忠告しております。
これも逆に心配してんのが中国共産党や中国軍から見たら「あ現状でOKなんだ」と、今と何も変わらないんだから。だから三浦秘書が言った通り、何も変わらないってことは、あ今後も武装線を入れて世界中に実は実行支配してんのは中国の側だという宣伝を続けていいってことになる……
(中略)
もう1つ尖閣諸島については日本固有の領土なのに日本人が上陸もできないそれどころか尖閣諸島っていうのは本当は沖縄県石垣市のテリトリーですから原職の中山吉孝市長が例えば標柱を立てたいとかあるいはそこで遭難なさった日本の方のご骨がまだ眠っているからそれを遺骨を回収するあるいは慰霊祭を行うそういうことも市長として市の中にある島ですから行きたいと言っても安倍政権ですら絶対ダメなんですよ。その現状を追認してるじゃないですか。
(出典:青山繁晴,【ぼくらの国会・第893回】ニュースの尻尾「石破総理 VS トランプ大統領会談 この現実を見よ」,10:27-10:42,10:54-11:33,https://www.youtube.com/watch?v=3OLgVKACeAc)
私がどうして日中関係が不安定になると断言できるのか、その理由はたくさんあるのですが、一つは日本が遠慮しすぎて普通の国なら逃さないチャンスをふいにして、自分からわざわざ不利な状況のままでいようとするからです。青山さんは現状追認といっていますが、中国が100年も悠長に尖閣宣伝をつづけるはずないので、遠くない日に、必ず日本の海保と漁家の人を追い払って名実ともに尖閣諸島を支配する時が来ます。そうなれば当然日中関係は重大な危機に陥りますし、衝突を避けるために日本政府が譲歩するなら国民の対中感情は悪化し、政府に対する信頼もますます失われるでしょう。
完全譲歩のUSスチール買収問題
今回の会談において特に注目されたのが、日本製鉄によるUSスチール買収問題でしょう。これは2023年12月、経営難に陥っていたアメリカの鉄鋼大手企業United States Steelに対し日本製鉄が株式100%の取得を提案したことに端を発しております。言わば典型的な海外M&Aであり、買収金額は一株当たり55ドル、総額140億円(約2兆円)という条件が提示されていました。

この動きに対し外国企業による製鉄会社買収がアメリカの国益を損なうとして、全米鉄鋼労組(USW)が強く反発。日鉄は彼らの不信を取り除くために、買収に伴うレイオフや工場の休止は行わず、取締役の過半数をアメリカ国籍とするなどアメリカ側が受け入れやすい条件を提示していました。しかしUSWは納得することはなく、その声にバイデン前政権も応えて、翌年2025年1月3日に日本製鉄による買収を阻止する発表を下しました。
バイデン米大統領は3日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を阻止する決定を下したと発表した。外国企業による買収によって、米国の鉄鋼供給網と安全保障が損なわれる恐れがあると判断した。日本企業による米有力企業の合併・買収(M&A)を米大統領が禁じるのは初めてとみられる。日系企業は対米投資戦略の再考を迫られそうだ。(出典:塩原永久、坂本一之,バイデン米大統領、日鉄のUSスチール買収阻止を発表「鉄鋼生産はわれわれの国家の背骨」,産経ニュース電子版,2025.1.3., https://www.sankei.com/article/20250103-SKAHACLHLZLDRMLM3WJHHBNO4I/)
この発表に対し、日鉄とUSスチールは不当な政治介入があったとしてアメリカ政府を提訴、日本の大手メディアも総出で「日米関係に禍根を残す」と批判し、ウォールストリートジャーナルなどアメリカの一部メディアも「投資先としての米国の評判に傷をつける」批判しました。方や買収に反対していたUSWはもちろん歓迎、また日鉄と競合してUSスチール買収に挑んでいた鉄鋼大手のクリーブランド・クリフス社のCEO、ローレンソ・ゴンサルベス氏は「日本は邪悪」「1945年から何も学んでいない」と露骨な反日暴言を吐き散らして喜んでいました(因みにこのクリーブランド・クリフス社は日鉄が提示した額よりも低い額での買収を提案しているせこい会社です)。
こうした状況で臨まれた石破首相とトランプ大統領の会談ですが、その結果は「買収でなく投資を行う」ことで合意に至ったようです。つまり日本政府の譲歩による事実上の買収中止です。
トランプ大統領は共同記者会見で、日鉄のUSスチール買収計画阻止に関連し進展があったと発表。石破首相が「買収ではなく、投資だ」と言明したことに同調し、日本が現在「購入ではなく投資」を検討しているとした上で、「もちろん、それで構わない」と述べた。(出典:日米首脳「USスチールは買収でなく投資」、米産LNG輸入拡大で合意,ロイターニュース日本語版,2025.2.8., https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/7EXUXP7435NXNL4OSNQNLN7RP4-2025-02-07/)
例によって日本政府はさもうまくまとめたかのように国会でも主張していますが、トランプ氏の意向に逆らえなかったというのが実情でしょう。安部路線は経済の分野では自分でタフネゴシエートしないといけませんからね。こうやって安易に買収を投資にしてしまうことの問題を青山さんは次のように指摘しております。
これは本当におかしいんですよ。何がおかしいかというとですね、民間企業が投資する時に、必ず投資先からリターンがないといけないんですよ。つまり向こうの経営状況を見てですね、投資する相手の経営状況を見て投資した分、投資した分だけリターンつまり儲けが返ってくる。でそれを株主に還元するこれをキーワードで言うと当然ながら(株主)責任があるわけです。
(出典:青山繁晴,【ぼくらの国会・第894回】ニュースの尻尾「日米首脳会談 『投資』はオカシイ」,2025.2.14., 2:04-2:28 https://www.youtube.com/watch?v=YDFFVaGzt-g)
投資について私は素人ですが、慈善事業じゃないことは確かです。USスチールは経営に問題を抱えており、買収が成立しなければ製鉄所を閉鎖されるほどの危機を抱えていると言われております。投資だけでそれが改善されるのか。日鉄は大きな博打を強いられそうです。
またトランプ氏にとって最大の懸案である貿易赤字の解消の案ために日本が協力するとした上で、LNG輸入を拡大する他、日本からの対米投資を1兆ドル規模にまで引き上げることも約束しました。動画で青山さんが指摘していますが、これを官尊民卑といい、お役所が勝手に枠組みを決めて民間がその中で動くことを強いられる構図です。良い枠組みであればいいのですが、色々な譲歩やら規制ばかりの雁字搦めの枠組みを用意して「後は巧くやって」と投げてくるのですから、民間は堪ったものではありません。
{補足}買収阻止の背景
なお買収阻止について、アメリカが理不尽であるかのように書いてきましたが、実はちゃんとした背景があり、一つは製造業における製鉄業の位置づけがあります。車や飛行機には様々な素材が使われていますが、基本的には「鉄」です。つまり製造業において製鉄業は重要な根幹であり、国の工業の背骨とも言える分野なのです。だからたとえ同盟国であっても製鉄業を外国に握られるというのは、単なるプライドの問題ではなく安全保障上考慮すべき問題であり、慎重になるのは当然の反応なのです。
加えて問題になっているのは日本製鉄と中国との関係です。ジャーナリストの古森義久氏によるとアメリカ下院議会の中国特別委員会において日本製鉄と中国企業の密接な関係が問題視されたほか、当時上院議員だったJDバンス氏とマルコ・ルビオ氏を含めた三名が、財務長官に反対の書簡を送りました。そして最も影響が強かったのが、オハイオ州選出の民主党、シェロッド・ブラウン上院議員だったと言います。
そのブラウン議員が昨年4月、バイデン大統領あての公式書簡で日鉄の買収計画への反対を改めて明確に表明し、その主要な理由として日鉄が中国共産党政権と密接な関係にあることを指摘した。日鉄は中国の国有、国営企業とのつながりを通じて中国人民解放軍にも事実上の協力をしており、その人民解放軍こそがいまのアメリカにとっての最大脅威なのだ、という主張だった。(出典:古森義久,日本製鉄のUSスチール買収への米側の反対の真の理由とは(上)日鉄と中国政府との長年の絆?,Japan In-depth,2025.1.30., https://japan-indepth.jp/?p=86293)
日中の経済協力は基本的に日本が中国に投資と技術協力をして、中国が安い人材と巨大市場を開放することで成り立ってきました。その過程において日本製鉄も中国の製鉄業の発展と躍進に多大な貢献をしてきたのです。日鉄は「最近は中国での活動は少ない」と主張し、宝鋼日鉄自動車鋼板有限公司との合弁を解消したようですが、そんなもので中国との縁が切れるはずもなく、2月16日に日鉄の相談役が日中経済協会会長兼訪中団長としてちゃっかり訪中しています。
経団連、日本商工会議所、日中経済協会のトップが率いる財界合同訪中代表団は18日夜、北京で記者会見を開いた。団長を務める日中経協の進藤孝生会長(日本製鉄相談役)は、中国での日本人襲撃事件やトランプ米政権の発足などを挙げて「この1年、両国の政治も含めて経済界を取り巻く環境は激変した」と指摘。今回の訪中を「両国とも課題に前向きに取り組むという議論をしたのが大きな成果だった」と評価した。(出典:三塚聖平,トランプ政権発足などで「日中経済界を取り巻く環境が激変」 財界訪中団が北京で記者会見,産経ニュース電子版,2025.2.18., https://www.sankei.com/article/20250218-R4G6HDP4VVNW7KMY4XE4LT6UKA/)
こうした側面を見るとアメリカ議会が懸念を深めたのも無理もないと思います。表向き日本が買収したけど、裏で中国が操っていたなんてことになったら日米の信頼関係さえ壊れます。まぁ、これも日鉄が悪いのではなく「日中の戦略的互恵関係」なんて枠組みを政府が勝手に決めて、そこで動くように民間が強いられた結果なんですけどね。
テタテなしの金メッキ会談
今回の会談の内実をうかがわせるものがあります。それは会談時間です。石破首相とトランプ大統領の会談時間は1時間50分なのですが、その概要は外務省発表によると以下の通りです。
(少人数会合:現地時間7日午前11時55分(日本時間8日午前1時55分)から約30分間、拡大会合(ワーキング・ランチ):現地時間8日午後0時25分(日本時間8日午前2時25分)から約1時間20分間)(外務省ホームページhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/pageit_000001_01583.htmlより抜粋)
首脳会談において重要度が高いのは拡大会合よりも少人数の会合であり、特に通訳のみを同席した非公開会談をテタテと呼び、両国の今後を決定づける最重要要素になるそうです。
フランス語で内密の話である”tete-a-tete”に由来します。首脳会談の通訳は、日本では外交官の最重要任務の一つですが、通常、両国から1人ずつ通訳が出ます。今回の日米首脳会談も日本側1人、アメリカ側1人だったと思います。日本側は岸田首相の日本語を英語に、アメリカ側はバイデン大統領の英語を日本語に訳すのです(母国語から外国語への通訳です)。(出典:中川浩一,首相通訳の醍醐味、日米首脳会談でも行われた「テタテ」とは?最新ニュースから学ぼう,グローブ朝日,2023.4.26.,https://globe.asahi.com/article/14830217)
それで石破さんの30分は長いのか短いのかですが、比較として2022年5月23日に行われた岸田前首相とバイデン前大統領の会談の概要を確認してみるとわかります。
(極少人数会合:11時00分から約30分間、少人数会合:11時30分から約50分間、拡大会合(ワーキング・ランチ):12時25分から約55分間。)(外務省ホームページ https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page3_003322.html より抜粋)
極少人数会合が恐らくテタテであり、それが30分と少人数会合の50分合わせて1時間20分となります。岸田さんと比較すると石破さんはテタテがなく、少ない時間であることがうかがい知れます。元内閣参謀参与である高橋洋一氏はこのことを指摘したうえで次のように考えております。
今回の石破・トランプ会合では、「テタテ」はなく、「少人数」30分、「拡大」80分だった。明らかに、これまでの首脳会談と比較してみると時間が短い。これでは個人的な信頼関係構築は難しいだろう。象徴的だったのが、共同記者会見後、トランプ大統領は石破首相と握手もせずにすぐに立ち去った。(高橋洋一,高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 日米首脳会談は本当に「成功」だったのか 「テタテ」から読み解くと...,Jcastニュース,2025.2.13.,https://www.j-cast.com/2025/02/13501548.html?p=all)
因みに故安倍元首相とトランプ大統領との会談時間は別格で、トランプ氏就任前の2016年11月にトランプタワーで会談したのが1時間半であり、そのすべてが極少人数会談、つまりテタテでした。また、2017年2月10日に行われた首脳会談においても少人数会合こそ40分くらいでしたが、その後トランプ氏の別荘であるマー・ア・ラゴでの夕食会やゴルフにてまさに親友のような付き合いをしており、そこもテタテに含まれるとしたらかなりの長さになります。逆に言うとそれだけ長い時間を共に過ごして、互いの国家観や人となりを知ったからこそ、「自由で開かれたインド太平洋戦略」や日米豪印クアッドが日米の合同戦略として採用されたのでしょう。
なおすでにメディアで公になっていることですが、今回の首脳会談を成功させるために外務省と石破さんは「お勉強会」に明け暮れ、準備に準備を重ねていたそうです。安倍昭恵さんによって実現しかけた就任前の会談を見送ったのはそのせいなんですね。こうした事情を踏まえれば、テタテがないのも当然だし、前例踏襲のみで且つトランプ氏の要望に先んじて譲歩したのも説明がつきます。日本の国益も信頼関係も脇において、無難に凌ぐことで実現した「金メッキの日米黄金時代」というわけです。
赤化を防ぐ金メッキ
ここまで批判気味に石破さんの日米首脳会談を分析してきましたが、私としてはあえて満点をつけたいと思います。そもそも国家観なし、人望なし、考えなしの中国すり寄りをしてきた彼ですから、期待値なんてゼロに等しいので、変なこと言ってトラブルを起こさずに、黙って安部路線を継承すればいいのです。繰り返し言いますがトランプ大統領は自分やアメリカに利益があることを好むので、その期待に応えさえすればとりあえずうまくいくのです。
そしてそれは石破政権の対中政策に大きな影響を及ぼします。昨年11月の記事で空前の親中政権ができたことに保守派は絶望するかもしれませんが、実は親中路線には地雷原ともいうべき外交ジレンマにぶち当たるリスクがあると予想しておりました。今回それが的中したのです。
発端は共同文章にあるこの部分。南シナ海での中国の軍事活動への批判と力を背景にした現状変更の反対、台湾の平和と安定の重要性についてです。
The two leaders reiterated their strong opposition to any attempts by the People’s Republic of China (PRC) to change the status quo by force or coercion in the East China Sea. The two leaders reaffirmed their strong opposition to the PRC’s unlawful maritime claims, militarization of reclaimed features, and threatening and provocative activities in the South China Sea.
The two leaders emphasized the importance of maintaining peace and stability across the Taiwan Strait as an indispensable element of security and prosperity for the international community. They encouraged the peaceful resolution of cross-Strait issues, and opposed any attempts to unilaterally change the status quo by force or coercion. The two leaders also expressed support for Taiwan’s meaningful participation in international organizations.
(訳:両首脳は、中華人民共和国(中国)が東シナ海における武力または威圧による現状変更のいかなる試みに対しても強く反対することを改めて表明した。両首脳は、南シナ海における中国の違法な領有権主張、埋め立て地の軍事化、威嚇的かつ挑発的な活動に対する強い反対を再確認した。
両首脳は、台湾海峡の平和と安定を維持することが、国際社会の安全保障と繁栄の不可欠な要素であることの重要性を強調した。両首脳は、両岸問題の平和的解決を奨励し、力や威圧によって一方的に現状を変更しようとするいかなる試みにも反対した。また、両首脳は、台湾が国際機関に有意義に参加することへの支持を表明した。)
(出典:United States-Japan Joint Leaders’ Statement,The White House,https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/2025/02/united-states-japan-joint-leaders-statement/)
この共同文章に案の定、中国は反発し噛みついてきました。中国外務省の劉勁松アジア局長が在中国日本大使館の横地晃首席公使に厳重な抗議をしたのです。言うまでもなく理由は台湾問題について力や威圧による現状変更に反対し、台湾が国際機関に参加することへの支持を表明したことです。ああ、尖閣諸島が日米安保第5条に適応されていることも気にくわないようです。
郭氏は、台湾問題については「中国の核心的利益の中の核心であり、いかなる外部の干渉も許さない」と猛反発した。日米首脳会談で日米安全保障条約第5条の適用対象に含まれることを確認した尖閣諸島(沖縄県石垣市)については、「中国固有の領土だ」と主張した。(出典:三塚聖平,中国が日米首脳会談に抗議、「強い不満」表明 日本側は「中国を巡る諸懸案」申し入れ,産経ニュース電子版,2025.2.10., https://www.sankei.com/article/20250210-4ZBVJN3YDZMQ5GURQKVYFC3S3Q/)
めでたく地雷発破です。これも昨年の記事で紹介しましたが、ペルーで開かれたAPEC首脳会議の際に石破首相は習近平国家主席と日中首脳会談を行い、考えもなしにアメリカの台湾政策という「挑発」に日中共に対処していく「約束」をしてしまいました。
日方在台湾问题上坚持《日中联合声明》所确定的立场没有改变。日方愿同中方加强在国际地区问题上的沟通,应对挑战。
(訳:台湾問題については、日本は日中共同声明で定められた立場を堅持しており、変更はございません。日本は国際問題や地域問題について中国との意思疎通を強化し、挑発に対処していきたい。)
(出典:中華人民共和国外務省https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202410/t20241010_11505060.shtmlより)
一応外務省の名誉のために補足しておくと二国間の合意文章で内容が異なるのはよくあることで、主に国内向けに脚色されるわけですが、あまりに内容がはく離しすぎるのも考えものです。そして日米と日中で合意文章が異なることにより、深刻な外交ジレンマによって日本外交(主に対中外交)が危機に陥るでしょう。白状すると私は日本の将来のためにこれを期待していました。だから日米首脳会談を評価するのです。
なお1月20日に岩屋外相がトランプ大統領就任式に参加した時、マルコ・ルビオ国務長官やインドとオーストラリアの両外相らとクアッドの閣僚会合を行ったのですが、その時も中国は反発していました。そして今回の首脳会談での逆上でもって石破政権の親中外交の命運がほぼ決まったと私は考えております。岩屋さんや国内の親中勢力の思惑と裏腹に日中関係は不安定になっていくでしょう。安部元首相とトランプ大統領によって塗布された金メッキが中国による日本赤化を弾くのです。