ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

イランが核保有を目指す理由

 皆さんこんにちはハトヤブと申します。家の事情などで更新が滞ってしまって申し訳ありません。不定期更新ですが、普段と異なる解釈や、独自の視点を皆さんにご提供し続けることができればと思います。

トランプ政権、イラン核施設攻撃

 いま世界は激動の時代を迎えつつあります。その一つに中東が挙げられます。2025年6月13日からイスラエルがイランの核施設や軍施設を標的とした攻撃を開始し、その一週間後の21日にはアメリカのトランプ政権がバンカーバスターによるイランの地下核施設への攻撃を敢行しました。

ドナルド・トランプ米大統領は21日夜(日本時間22日午前)、アメリカ軍がイラン国内3カ所の核施設を空爆したと発表した。ホワイトハウスでのテレビ演説では、「イランの主要な核濃縮施設は、完全かつ徹底的に抹消された」と述べた。アメリカ政府関係者によると、米軍のB-2ステルス爆撃機が攻撃を実施した。
(出典:トランプ氏、米軍がイランの核施設3カ所を爆撃し破壊と発表 フォルドなど,BBCニュース日本語版,2025.6.22.,https://www.bbc.com/japanese/articles/cvg9r4wyv4xo

 もし4月の頃に私のX(@hatoyabu)をご覧になっていたなら「トランプ氏はイランを攻撃しない」と予想していたことを拾い見た人もいるかもしれません(見てない人が大半でしょうが)。結果的に予想を盛大に外したことになりますが、予想にはちゃんとした根拠があり、それが攻撃後の停戦にもつながっているため、私のトランプ氏に対する認識が揺らぐことはありません。なぜ彼が攻撃に踏み切ったのかは後日考察すると致しましょう。

保有国になりたいイラン

 さてトランプ大統領がイラン攻撃に踏み切った理由として主張されているのはイランの核兵器開発でしょう。一部の人は未だ冤罪だと主張してますが、すでにウラン核燃料60%以上の濃縮能力を持っているのは確認されており、核兵器開発が可能であることは疑いのないことです。
 ことの発端は一期目のトランプ政権に遡ります。当時、イランとアメリカは「核合意」を結んでおりましたが、就任早々のトランプ氏はこれを破棄しました。同合意はイランに対し米英仏中ロ+独の六か国(六者会合)で取り決められたもので、その内容はイランの核開発能力を15年間だけ縮小する見返りに制裁を解除するというものでした。

 合意した「包括的共同行動計画」では、イランの核開発能力を大幅に抑制することで核兵器に必要なウランなどの蓄積に1年以上を要するようにする。国際原子力機関IAEA)が核関連施設を厳しく査察することで核兵器保有を封じ込める。イランは15年以上にわたり、核兵器向けの高濃縮ウランやプルトニウムを製造・取得しないと約束した。
 見返りに国連と米欧はイランが合意内容を履行するのを確認したうえで制裁を解除する。
(出典:イラン核協議 最終合意 制裁解除で原油輸出拡大へ,日本経済新聞電子版,2015/7/14,https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM14H5X_U5A710C1MM8000/

  当時世界のメディアでは「中東の安定につながる」とか「核拡散は阻止された」とか美辞麗句にあふれていましたが、唯一イスラエルだけはこれを批判しました。それもそのはず、15年経過すれば制限はなくなるわけですからそれまで謹慎よろしく待っていれば後は元に戻して自由にできるわけです。実際、米国の合意離脱後は徐々に濃縮総力を合意内容から逸脱させ、ついには無制限としました。

国営テレビが伝えた政府声明によると、今後はウラン濃縮に用いる遠心分離機の数や、濃縮能力、濃縮度、核開発活動などについて、先の合意で設けられたいかなる制限も尊重しない方針。「イランは技術的な必要に基づいて、ウラン濃縮を無制限に継続する」という。
(出典:イランが無制限のウラン濃縮表明、核合意からさらに逸脱,ロイター通信日本語版,2020年1月6日,https://jp.reuters.com/article/iran-nuclear-deal-idJPKBN1Z40X4

  この意図は至極単純明快でイランは核合意をまじめに守ってゆっくり核開発するシナリオを捨てて、合意を破棄して早期に核保有を実現可能な技術を得るシナリオへ転換したということです。実際、北朝鮮が同じような戦略で事実上核保有を達成してしまっています(六者会合から始まった点からも共通点がありますね)。特にイスラエルの攻撃が始まる直前、イランの高濃縮ウランの保有は過去三か月で50%も急増し、核兵器10発分になるほどに達していたとIAEAが報告しています。

 IAEAの報告書は、米トランプ政権とイランによる核協議開始以降では初めてとなる。それによると、イランの高濃縮ウランの貯蔵量は過去3カ月で約50%増加し、409キログラムに達した。イランが選択すれば、核兵器約10発の中核部分に相当するレベルに短時間で濃縮できる量だ。
(出典:イランの高濃縮ウラン貯蔵量、過去最大の増加-IAEA報告書,ブルームバーグ日本語版,2025.6.1.,https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-06-01/SX5BK9T1UM0W00

 ここまで来たら擁護のしようがありません。イランは核開発を「平和目的」と主張しておりますが、それなら核合意を守っていればよかったのであって、IAEAの査察を拒否するような行動もしないはずです。例えば我が国の場合、再処理工場操業時にIAEA査察官が24時間365日常駐しており、平和利用としての信頼性を確保しております。イランはそれを「主権侵害」とみなして受け入れませんでした。
 ネタニヤフ氏やトランプ氏の行動は稚拙ですが問題視する主張自体は間違っていないのです。イランは明確に核保有を狙っています。

最高指導者ハメネイ師の決意

 こう書くと中東情勢を聞きかじった方からこんな反論が来るでしょう。
「イランの最高指導者アリー・ハメネイ師は『イスラムの教えと大量破壊兵器の製造は一致しない』と仰っているじゃないか」
 確かにイラン政治にとって、かつてイラン革命を起こしたホメイニー師の遺志を継ぐハメネイ師の言葉は絶対的な影響力を持ちます。実際、彼は2019年6月に故安倍首相と会談しこのように述べております。

  ハーメネイー師は、イラン製核兵器拡散防止のアメリカの思惑に関する安倍首相の他の発言に言及し、こう付け加えた。「我々は核兵器に反対である。また私の出したファトワー[訳注:イスラーム法学に基づいて発令される教令]では、核兵器製造はハラーム[訳注:イスラーム法学に基づいた禁止行為]である」
   [出典:イランの最高指導者ハーメネイー師が日本の首相と会談(1).ハムシャフリー(東京外国語大学によって翻訳).2019/06/13,http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/news_j.html]

 ファトワーはイスラム法学に基づいて発せられる勧告で、時にイスラム世界では政治的効果を持ちます。過去にもハメネイ師の先代指導者ホメイニー師がイスラムの開祖ムハンマドを批判した「悪魔の詩」を執筆したサルマン・ラシュディと関係者に対して死刑をファトワーとして宣告しています。これは本人が取り消さない限り無効になりません。
 しかし逆に言えば本人が取り消せば無効になるということです。実際ハメネイ師はこうもおっしゃっていました。

「しかしこれは知っておいて欲しい。もし仮に我々が核兵器を製造する意図があったとしても、アメリカは何もすることはできないだろう。アメリカが許可しなくとも、何の障壁にもならない」(同上)

 つまり、現在は核保有を考えていないが、状況次第ではファトワーを取り消して核武装へ踏み切る考えもあるということです。そしてそれは米国に邪魔されてもやり遂げると。ではハメネイ師のファトワーが取り消される状況はありえるのでしょうか?

イランの置かれた状況

 それはありえます。それは中東におけるイランの立ち位置を考えればわかります。
 イランはイスラム国家ですがサウジアラビヤなど他のイスラム国家と必ずしも仲良くはありません。例えば2015年頃から始まったイエメン内戦では親イラン派の武装勢力フーシが軍事介入するサウジ軍と衝突しています。2019年8月にはフーシ派によるサウジ油田施設の攻撃が起こりました。

 中東イエメンの内戦でイランによる支援を受ける武装勢力フーシは17日、対立するサウジアラビアの油田施設をドローン10機をつかって攻撃したと発表した。サウジ側は「ガス処理プラントで火災が発生したが、被害は限定的だった」と指摘した。(出典:イエメン武装勢力、ドローンでサウジ油田を攻撃,日本経済新聞電子版,2019/8/17,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48688000X10C19A8FF8000/)

 そして2023年に起こったイスラエルのガザ戦争においてもフーシ派がサウジ軍を攻撃しております。レバノンのヒズボッラーも含め「抵抗の枢軸」と呼ばれる親イランテロリストたちはイスラエルだけを標的にしているわけではないのです。理由は「宗派」にあります。
 キリスト教カトリックプロテスタントがあるように、イスラム教にも宗派があり、代表的なものがシーア派スンナ派です。シーア派スンナ派は指導者選びに違いがあり、正統カリフ4代目アリーの子孫のみを指導者と仰ぐのがシーア派、アリー以前の代の正統カリフの子孫も指導者と仰ぐのがスンナ派です。
 実のところシーア派が優勢なのはイランのみで、他はイラクレバノン、イエメンに3割から4割ほどいるくらいで、他は少数派です。エジプトやリビアなどの北アフリカに至ってはほぼスンナ派が占めています。つまり圧倒的にスンナ派が多数派なのです。

中東・北アフリカ中央アジアでのイスラム教宗派分布(Wikipediaを参考に作成。緑がスンナ派で赤がシーア派。青はイバード派

「異端は異教より憎し」という言葉があるように宗派の違いは時に戦争の動機になりえます。キリスト教圏でもカトリックプロテスタントの対立があり、北アイルランド紛争などのような武力衝突も起きています。
 加えてイランでは1979年のイラン革命により米国と関わりが深かった王朝を滅ぼしています。この時亡命した皇帝の引き渡しを求めてイランアメリカ大使館人質事件が勃発、アメリカと断交状態になりました。同時に反イスラエルも掲げており、イスラエルと国交を結んだエジプトと断交し、レバノンやイエメンのシーア派を支援して「抵抗の枢軸」を作り上げました。
 現在イランとアラブ諸国との関係は改善の方向へ向かってはおりますが、反イスラエルと反米だけは変わっておりません。親米国家であり、なおかつ絶対君主国家でもあるサウジとしてはイランで起こったような革命が自国に伝播することを恐れ、米国との軍事的つながりを一層強固にしています。

米政府高官は21日、サウジアラビアとの2国間防衛協定で最終的な合意に近づいたと明らかにした。民生用原子力に関する協力などが含まれるという。
ただ、イスラエルとサウジの関係正常化に向けたより広範な地域的な取り決めについては障害が残っている。
同高官は2国間協定は「ほぼ完了した」としつつ、パレスチナ国家樹立への信頼できる道筋や、パレスチナ自治区ガザの情勢安定化に向けた措置などについて依然として完了する必要があると指摘した。(出典:米・サウジ、防衛協定で最終合意に近づく 原子力協力など=米高官,ロイター通信日本語版,2024.5.22.,https://jp.reuters.com/world/security/RGBIFCBSKZJDXJDYDOL6RU7LYY-2024-05-22/

 そしてここ最近影響力が低下してきているとはいえ、アメリカの存在はイランにとって脅威です。ここ数十年の間にもリビアアフガニスタンイラクのように反米を掲げた国はことごとく滅亡の道をたどっています。米空母打撃軍一個部隊さえ小国を滅ぼして余りある戦力を抱えているのです。
 だからこそ彼らは核技術を持ちたがるのです。核を保有できる国になれば、アメリカは容易に手出しができなくなります。またアラブ諸国で少数派にさらされているシーア派の地位も上げることもでき、イスラエルとも対等に渡り合えるようになるでしょう。場合によってはかつてのペルシャ帝国のような地域大国になることも可能になるかもしれない。以前このブログで書いた中国が覇権主義に突き進む理由にあるような欲・統・怒・恐がこの国にもあるのです。

イランが核保有を急いだ結果

 先ほどのブルームバーグの報道でふれたようにイランはイスラエルに攻撃される直前の3か月にウラン濃縮を加速させています。その背景はガザ戦争から始まったイスラエル空爆によってフーシ派やヒズボッラーが弱体化し、さらに幹部が殺害されたことで「抵抗の枢軸」が崩れたことがあげられるでしょう。もともとガザ戦争の原因となる2023年10月7日に起こったハマースによるイスラエルへの大規模なテロ行為も背後にイランがいると言われています。その真意は隠れ支援者だったサウジがイスラエルと国交正常化へ向かうことへの反発です。結果、イスラエルから倍返しを食らったイランは体制の保証のためにウラン濃縮にかけたのでしょう。
 イランが危ない橋を渡ろうとしたのは理由があります。それはトランプさんがその強面の言動に反して戦争には抑制的な指導者だからです。過去記事でも触れていますが、無人機をイランに撃墜されたときに一旦は報復措置を決定するものの、10分前に撤回する出来事がありました。また、イラン革命防衛隊司令官ソレイマニ氏殺害の報復によってイラクの米軍基地が弾道ミサイル攻撃を受けましたが、死者がしないことを理由に不問とし、幕引きを図ったのです。

トランプ米大統領は8日、米軍による革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害に対するイランの報復攻撃で米国人の死傷者は出なかったと明らかにした。また必ずしも軍事力を行使する必要はないと述べ、危機打開に向けた姿勢をにじませた。
 米国は(軍事力の)行使を望んでいない。米国が持つ軍事面と経済面における双方の力こそが最大の抑止力になる」と語り、イランへの軍事行動を巡って直接的な警告を避けた。
    (出典:トランプ氏、イランへの反撃明言せず 軍事力行使「望まない」,ロイター通信日本版,2020/1/9,https://jp.reuters.com/article/iraq-security-trump-idJPKBN1Z72KV

 だからこそ不詳私は「トランプはイランを攻撃しない」と予想したわけです。実際一期目では北朝鮮の核問題について、北朝鮮金正恩総書記を「ロケットマン」と呼んで強硬姿勢を見せましたが、会談した以降は核問題も解決しないばかりか、「俺は金正恩と友人だ」と言ってはばかりません。なら急いで既成事実を積み重ねた方がいい、そうすれば交渉を有利に進めることができるとイランが思っても不思議はないでしょう。結果的にそれが裏目に出たわけですが。
 その一方で「トランプは一線を越えた!」「イラク戦争の二の舞だ」とわめきたてるメディアの予想を裏切って、トランプさんは強引に停戦への仲裁を実行。イランとイスラエル双方が受け入れたことで実現となったのです。

トランプ米大統領は23日、自身のSNSで、イスラエルとイランが「完全かつ全面的な停戦」に合意したと発表した。24日午前(日本時間同日午後)に「停戦は発効した」と投稿したが、その後記者団に両国が停戦に違反したと不満を表明。特にイスラエル側に強く自制を促した。(出典:イスラエルとイラン「停戦発効」 トランプ氏、カタールと仲介―衝突停止予断許さず,時事通信,2025.6.24.,https://www.jiji.com/jc/article?k=2025062400737&g=int

 実際は記事にある通り、合意後も攻撃の応酬が続くオーバーランがあったようですが、ウクライナ戦争とは違い、取り合えずの停戦は実現できたようです。

トランプのイラン攻撃の本質

 今回のトランプ大統領の行動を客観的に理解するにはその言動を詳細にみる必要があります。冒頭に引用したBBCニュースの続きにはこうあります。

BBCアメリカで提携するCBSニュースによると、アメリカは21日の時点で「外交的」にイラン政府に接触し、米軍による攻撃は核施設の破壊のみが目的で、「体制転換の取り組みは計画していない」と伝えていたという。(出典:BBCニュース}

 御覧の通りアメリカはイランに核施設攻撃の旨を事前通告していたのです。一方、イスラエルのネタニヤフ首相はイランの体制転換を煽るような演説をしており、メディアにおいても「イスラエルの目標はイランの体制転換である」と指摘されています。タカ派で有名なボルトン氏も体制転換が必要だと主張しております。
 トランプ氏も攻撃直後「イランはなぜ体制転換しない?」とこれに同調するような発言はしたものの、上述のようにイランの体制転換を目的にしないと通告し、イスラエルハメネイ氏を暗殺することにも反対しております。

米政府高官は15日、ドナルド・トランプ大統領が、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の暗殺を狙ったイスラエルの計画を拒否したことを明らかにした。
高官は匿名を条件にAFPに対し、「イスラエルがイラン最高指導者を攻撃する計画であることが分かった。トランプ大統領はそれに反対し、イスラエルにやめるよう伝えた」と述べた。
(出典:トランプ氏、イラン最高指導者暗殺を拒否 米高官,AFPBB日本語版,2025.6.16.,https://www.afpbb.com/articles/-/3583450

 まぁ、その後にトランプさんはイランに「無条件降伏」を突き付け、反発した後に核施設攻撃という流れになります。外面を見ればダイナミックな展開になりますが、繰り返すように事前通告しているあたり、エスカレーションを回避する姿勢が強いと言えるでしょう。
 つまるところトランプさんにとってイランの核施設攻撃は2020年のソレイマニ氏殺害の延長線上のようなものであり、戦争を意図しない限定介入であるとして、彼の外交姿勢の一貫性を見出すことができます。実際、イランはカタールの米軍基地へ「報復攻撃」をしていますが、こちらも事前通告されたこともあって死傷者はゼロでした。

 米ニュースサイト「アクシオス」によれば、イランは基地攻撃を前にカタール側と連絡を取り、米国には事前通告されていた。トランプ氏は「イランが事前に通知してくれたおかげで、死傷者が出なかったことに感謝したい」と述べた。また、「世界よ、おめでとう。平和の時だ」とも表明し、さらなる報復は行わない姿勢を示した。
(出典:イラン、カタール米軍基地へミサイル 核施設攻撃に報復、死傷者なし―トランプ氏「事前通知あった」,時事通信,2025.6.24.,https://www.jiji.com/jc/article?k=2025062400055&g=int

 アメリカ側もイラン側も事前通告しているこの応酬。「茶番」のような印象を受けるのは私だけでしょうか?

分かれる戦果分析

 ところで米軍によるイラン核施設への攻撃の結果については、その評価が分かれています。トランプ大統領はイランの核計画を「完全かつ徹底的に抹消した」と主張しておりますが、国防総省の国防情報局(DIA)の「戦闘損害評価(DBA)」では「完全には破壊されていない」という初期評価を下していました。

初期評価に詳しい情報筋2人によると、イランの濃縮ウランは破壊されていないという。情報筋の1人は遠心分離機はほぼ「無傷」だと指摘し、「米国の攻撃でイランの核開発はおそらく数カ月後退した、というのが国防情報局の評価だ」と述べた。
(出典:米軍のイラン空爆、核開発の中枢破壊に至らず 初期評価,CNN日本語版, 2025.06.25.,https://www.cnn.co.jp/usa/35234682.html)

 これにトランプ氏は猛反発。国防総省の長、ヘグセス長官もCNNの報道をフェイクニュースだと言って作戦の成功を強調し、CIAのラトクリフ長官も攻撃によってイラン核施設が「深刻な打撃」を受けた証拠を掴んでいると主張しました。

詳細を提示することはなかったものの、ラトクリフ氏はCIAが入手した証拠について、「長年信頼している情報筋もしくは手法からの諜報(ちょうほう)を含む」と述べた。その内容によるとイランの主要な複数の核施設は破壊され、再建には数年を要するという。
(出典:イラン核開発に「深刻な打撃」、CIAが証拠ありと主張 米空爆の検証続く,CNN日本語版,2025.06.26.,https://www.cnn.co.jp/usa/35234772.html

 なまじトランプ氏のキャラクターが強すぎるために、周囲が合わせざるを得ないという「裸の王様」のような状態になっている疑念があります(現トランプ政権発足時、CIAでは全職員の早期退職推奨策がとられている)。なので現時点ではIAEAのグロッシ事務局長の見解を有力なものとして紹介させていただきます。

グロッシ事務局長は、アメリカが中東の現地時間22日未明にイランの主要核施設3カ所を空爆したことについて、深刻な被害をもたらしたものの、「完全な」破壊には至らなかったと述べた。この見解は、この空爆で核施設が「完全に抹消された」とするドナルド・トランプ米大統領の主張と相反する。
(出典:イランの濃縮ウラン生産、「数カ月以内」に再開可能=IAEA,2025.6.30.,https://www.bbc.com/japanese/articles/cy0wje82rwno

闇に隠れるイランの核

 結局のところターゲットが地下であるために、本当に破壊されたかは実際にイランへ行って確かめなければならないのですが、当のイランは攻撃を受けて以降、IAEAへの不信感を強めており、協力を停止する法案まで可決しています。

イランでは、イスラエルと米国による核施設攻撃について、IAEAが公式に非難しなかったとして反発が強まっている。反米の保守強硬派が多数を占める国会で先月25日、IAEAとの協力停止の方針を承認していた。
(出典:イラン、IAEAとの協力停止 法律施行、核施設攻撃で反発,時事通信,2025.7.2.,https://www.jiji.com/jc/article?k=2025070200790&g=int)

 したがって攻撃された跡地を調査するのは至難の業でしょう。仮に査察が実現しても、地下へ続く道が塞がって入れないというオチになるかもしれません。それはイランにとって、核施設が「破壊されたかもしれないし、破壊されていないかもしれない」という曖昧な状況の方が都合がいいからです。
 もっと問題なのは高濃縮ウランの行方でしょう。トランプ氏は「持ち出す暇はなかった」と主張しますが、周辺地域の放射線濃度に変化はないとの分析がIAEAやサウジから出ているので、良くて埋まっただけか、他へ移されたと見るべきでしょう。そして後者の可能性が高いとのことです。

濃縮ウランが空爆前に施設から運び出された可能性を示す材料も幾つかある。
IAEAのグロッシ氏は、イスラエルが最初にイランの核施設を攻撃した13日、イラン側から核物質と関連機器を守る措置を講じたと伝えられたと明かしている。
ある西側外交官は、まるでイランは攻撃を受けると分かっていたかのように、フォルドゥにあった濃縮ウランの大半を攻撃の数日前に移動したもようだと述べた。
(出典:アングル:イラン核施設空爆で謎に包まれる濃縮ウランの実態、IAEA検証困難か,ロイター通信日本語版,2025.6.30.,https://jp.reuters.com/world/security/2S2TKS4LSFL2XHHMSJ2U44F5WQ-2025-06-30/?rpc=122)

 先述の通り攻撃には事前通告されている上、ヘグセス長官の情報管理の杜撰さから考えても、イラン側が米軍の攻撃を受けることを予測するのは十分可能でしょう。そして衝撃的な情報を参議院議員青山繁晴氏が動画で話しております。

今回のその停戦合意だって言ってる前からサプライズアタックも実はサプライズとは言いきれなくて(ウランを)持ち出したのをアメリカ軍は知ってやったと。
だからあのファリティズリティズってだから施設は確かにダメージ受けて完全かどうかわかんないけど。
だってあのウラン濃縮施設って本当はそんな複雑なもんじゃないから、ガっと回していくっていうことが基本で、やる気になったら2日半ぐらいで、あの核爆弾レベルの濃縮もできるぐらいですから、プルトムと違って全く単純な話なんですよ。広島型の核爆弾ていうのは。
それであのウランそのものがなくなっちゃうとまた搔き集めんのはえらい事なんだけども、イラン金がないし、北朝鮮の連携があっても、北朝鮮の連携が非常に大きいんだけどイランって。
でも持ち出してればですね、なんちゅうことないわけだから、ある意味壮大な嘘攻撃を僕らは見せられてる。(ノーベル賞)のためにも、これが真相ですよ。
(出典:【ぼくらの国会・第983回】ニュースの尻尾「トランプ大統領 イランを攻撃してノーベル賞を狙う」,青山繁晴チャンネル・僕らの国会,2025.6.24.,12:35-13:45,https://www.youtube.com/watch?v=Pk_ZDngXYiY)

 まさかのノーベル平和賞狙いだったというのです。過去記事でも触れていますが、トランプ氏がノーベル平和賞を狙っているのは有名な話で、一期目では安部さんに推薦してもらって、現在は印パ紛争を仲介したということでパキスタンから推薦を受けています。リベラル志向のノルウェーの委員会が受け入れるかは謎ですが。
 そしてやはりイランには事前に察知されており、しかもウランが持ち出されていることを承知の上で「空っぽ」の施設を破壊したということです。真面目に考察すれば、爆弾で核物質を吹っ飛ばそうものなら、たちまち周囲が放射能汚染されて大惨事になるので、持ち出すのを黙認するしかないのです。ウランを安全に処分にするにはイランが自発的にやるか、ハメネイ体制を崩壊させて米軍やイスラエル軍が直接回収するかのどちらかしかありません。
 以上の状況から、イランが今後も核技術の保有と開発を継続し、国際社会との緊張状態は解消されない可能性が高いです。つまりイラン核問題は、今回の米軍の攻撃によって解決されるどころか、むしろその実態がさらに複雑化・不透明化し、中東地域の不安定要因として残存するでしょう。