ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

尖閣はこうして放置された

 皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。前記事では中国の戦略に焦点を当てて来ましたが、日本側は対抗できているのでしょうか? 今回は日本側の「守り」に焦点を当てて深掘りしていきます。

尖閣守れぬ日本、3つの限界

 結論から言うと、現時点では対抗できていますが、将来的には三つの理由によって苦しくなると思います。その三つは法体系、海保、行政における限界です。

法体系の限界

 一つ目は日本の法体系における柔軟性のなさです。前回述べたように中国は日本の海上保安法の第20条と第25条を利用した作戦を展開しております。おさらいすると、第20条は外国船への武器使用条件として「軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であつて非商業的目的のみに使用されるものを除く」ことを示し、第25条は「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」という「海保の9条」とも呼ばれる法律となっております。
 これらを純粋に解釈すれば、海保は中国海警を攻撃することができません。一応、政府見解で海警局の尖閣上陸は「重大犯罪」として「危害射撃」が可能だとしていますが、相手は海軍と同一の指揮系統を有した「第二の海軍」です。まともに戦えば勝ち目はないのは言うまでもないでしょう。そのために現在、海保と自衛隊の連携が進んではおりますが、その内容は主に情報の共有や国民保護であり、有事における海保の役割に変更があるわけではありません。そのためグレーゾーンにおける武力衝突自体に、切れ目のない対応ができるかは未知数です。
 なら法律を変えたらいいじゃないと思いますが、そうはいきません。実際、自衛隊との切れ目のない対応のために、自民党の国防議連から第25条の改正が提案されたことがありますが、海保や他の与党議員からの激しい抵抗にあっています。その背景には国家間の対立をエスカレートさせない緩衝材的な意義があるとともに、「日本は9条(戦争放棄)があって、他人を傷つけない国でやってきたから、変えたらイカン」という主張があったとのこと。市民運動家ならともかく、自民党内にもこんなイデオロギーを持った方がいらっしゃるんですね。

海保の限界

 二つ目は日本の海保と中国海警との間に広がる戦力差です。急速な経済発展を遂げた中国は海軍を著しく発展させてきたのみならず、海警局の艦船も劇的に増やしてきました。

図1、日本海保と中国海警の大型巡視船配備数の推移※

 

※参考:海保HP「海上保安能力強化の取組状況」,読売「急増する中国の大型海警船、10年で4倍157隻に…海保が保有する大型船の倍以上」,産経「中国海警船は4倍増、比国は6隻のみ 鹿児島で国内初の日米比合同訓練、結束確認」

 図1の通り、2012年には40隻ほどだった中国の大型巡視船が、10年間に4倍に膨れ上がり、海保の2倍以上になっております。そのすべてが尖閣向けではないにしろ、多数の大型艦船による物量作戦と威圧は効果絶大であり、南シナ海は事実上の内海にしてしまいました。
 方や海保の方はお分かりの通り、数では全く対抗できておりません。近年はできる限り予算を工面して数を増やしているものの、中国海警との差が開く一方です。こうした苦境を少しでも緩和しようと、先述の国防議連から海自の退役護衛艦の活用が提案されたことがありますが、長期運用ができないことやエンジンの仕様が違うことを理由に却下されてしまいます(一方海警局は中国海軍の退役軍艦を活用しております)。量より質を高める方針であると考えられますが、現場の奮闘と質だけで物量差を埋めるのは容易なことではありません。
 実際その弊害は現場にて起きることになります。2021年3月には尖閣諸島周辺で領海警備にあたっていた巡視船の一隻が故障し、一時航行不能に陥ったのです。

 尖閣諸島沖縄県石垣市)周辺で領海警備に当たっていた海上保安庁尖閣専従巡視船が1月、任務中に故障し、一時、航行不能状態に陥っていたことが21日、海保関係者への取材で分かった。老朽化が原因とみられる。(出典:尖閣巡視船、一時航行できず 昭和55年建造…老朽化で故障か,産経新聞電子版,2021.3.21,https://www.sankei.com/affairs/news/210321/afr2103210007-n1.html

 

 件の巡視船PLH04「うるま」は1980年竣工というご長寿船でした。海保は海自より船舶を長く運用する傾向があり、今年で退役予定のPLH01「そうや」は1978年竣工で、合計運用年数は何と最長の47年にもなります。すべての船を40年運用するわけではないでしょうが、このような長期運用は現在の厳しい情勢に対応できないのは言うまでもありません。
 また近年は人材不足にも悩まされており、ここ4年間連続で自己都合退職者が300人以上出ている状況です。しかも2024年には389人もの隊員が退職して実員が減少し始めたほか、退職者の多くが20代という、将来に不安を覚える状況です。

 海保によると、24年度の海保の自己都合退職者389人のうち、20歳代が243人、30歳代が93人で計336人(86%)を占めた。今年3月末の実員は、前年比6人減の1万4123人だった。(出典:海保の自己都合離職389人、若手中心に転勤を敬遠…初の実員減で尖閣対応への影響懸念,読売新聞,2025.5.6., https://www.yomiuri.co.jp/national/20250505-OYT1T50082/

 

 その背景は2~3年年ごとの転勤が敬遠されていることが指摘されており、対策を打たなければ量どころか質でも、中国に及ばない事態になりかねません。

行政の限界

 3つ目は日本政府が尖閣諸島は日本固有の領土だと主張しながら、中国との対立を避けるために、事なかれ主義に徹していることです。

1.灯台新築に消極的
 尖閣諸島魚釣島には1978年から日本の有志らが建てた簡易的な灯台があります。まず最初に暴走老人こと石原慎太郎氏が立ち上げた議員集団「青嵐会」が日曜工作で作ったような「灯台」を設置し、その後日本の右翼団体日本青年社」が1000万円ほどの資金を投じて、より頑丈な灯台を建立します。その後、1988年に一度改装し、2005年には政府へ譲渡されて、それ以降は海上保安庁が管理することとなっております。

図2,魚釣島灯台海上保安レポート2005年,https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2005/topics/p005-1.htmlより)

 

 図2が魚釣島に建てられた灯台の画像です。一般的に知られるものより、とても簡素で小さいことがわかります。しかしこれが過去に遭難しかけたフィリピン籍の貨物船を助けたり、中国や台湾の漁民に重宝されたりと重要な施設となっております。ただ47年も経って老朽化が進んでいる上、建てられている場所も島の西側であり、全方位をカバーするには山頂に本格的なものを立てる必要があります。
 しかし政府は本格的な灯台を建設する予定はないとのこと。それどころかこの灯台を航路標識として許可するのも、渋りに渋ってきた過去があるのです。明らかに重要性が高いにも拘らず、このような矛盾した対応をしている理由は、中国の反発を避ける以外に考えられません。(参考:宮田敦司,石原慎太郎氏らが建てた「尖閣諸島灯台」を、いまこそ強化すべきだ ,PRESIDENTオンライン,2021.2.24., https://president.jp/articles/-/43478

2.実地調査はさせない
 尖閣諸島を法的に管轄しているのは石垣市ですが、政府は同市が固定資産税の実地調査することを禁じております。以下は2011年の記事です。

 総務省は7日、固定資産税課税のために尖閣諸島に上陸調査ができるよう求めていた石垣市の要請に対し、上陸は認めないとの方針を決め、市に回答した。市がこれまでにも上陸調査せずに課税してきており、島の現況に変化がないことや、国の機関を除き上陸を認めないという所有者の意向を踏まえた。
(出典:尖閣諸島への上陸認めず 総務省が市の要請に回答,八重山毎日新聞,2011.1.8.,https://www.y-mainichi.co.jp/news/17500/)

 所有者の意向とありますが、この後2012年9月に国が買い取った以降もその方針が変わってませんから、借り入れていた政府の意向の反映である可能性が高いです。2021年10月、石垣市尖閣諸島の字名を「登野城」から「登野城尖閣」に変えた時に、新たな標柱の設置を政府に具申しましたが、許可されませんでした。そして魚釣島では前述の日本青年社が持ち込んだヤギの食害が問題になっていますが、その調査も認められておりません。
 これは事実上、日本の行政が尖閣諸島に対する「日常的な統治行為」を自ら妨害している状態であり、まるで中国のサラミスライス戦略に呼応する「行政の委縮」と言わざるを得ません。

3.遺骨・慰霊祭に無関心
 石垣市にとって尖閣諸島は自分達の管轄であるだけでなく、悲しい歴史を内包する島です。それは第二次世界大戦末期の1945年7月に、同島の住民が台湾に疎開するために乗った民間船が、米軍機に爆撃された事件にあります。多くの溺死者を出しながらも、魚釣島へ漂着した住民たちは少ない食べ物を分け合って耐え、有志達が難破船から小舟を作って救助を要請しに海に出ました。結果、遭難から50日後に救助が来ましたが、それまでの間に多くの方が餓死してしまい、その遺骨が今も魚釣島に埋められているのです。
 この悲劇的な事件の犠牲者に対する慰霊祭が毎年細々と行われているのですが、なんと政府の官僚は詳細をほとんど知らず、慰霊祭どころか遺骨収集にも一切関与しない姿勢を堅持しております。中国を刺激することを恐れるあまり、自国民の歴史的悲劇さえも軽視しているこの姿勢は、もはや領土どころか、自国の歴史や自国民の尊厳にさえも無頓着であるといっても過言ではないでしょう。

政治と官僚の病理、漁師の勇気

 以上のように日本の実態は法体系においても、海保の戦力においても、行政の動きにおいても限界が近く、現状を維持するのが精一杯な状況です。一方で、中国との直接的な摩擦を恐れるあまり、この厳しい現状を「放置」している側面があるとこがわかります。具体的な対策や行動を避けることで、問題解決を先送りし、結果的に尖閣諸島の日本の主権を曖昧にする中国の戦略を助長するこの構造は、「政治と官僚の病理」と言えるでしょう。
 当面は現場の海保隊員達が過酷な領海警備を続けることになりますが、今後中国がさらなるエスカレーションを望んだ場合、日本政府は紛争を覚悟するか、現状変更を容認するかのどちらかを選ぶことになります。そして「病理」が改善されない限り、後者を選ぶ可能性が非常に高いのです。いかに自衛隊が離島奪還訓練の練度を上げたとしても、肝心の政治や行政の決断がなければ宝の持ちぐられにしかならないからです。
 過酷といえば現地で漁を営む漁家の方々も、強いプレッシャーにさらされていることでしょう。日々中国海警(警察の仮面をかぶった第二海軍)に追い回され、沖縄メディアからは「活動家」扱いされる始末。特に心に刺さったのが宮古島の漁師の次の言葉です。

「中国は日本の漁船を尖閣に寄せつけないようにして、実効支配を奪うつもりだろう。漁師が行かないと『尖閣は中国のもの』という既成事実ができてしまう。僕は頑張って行こうと思っている」(出典:「偽装漁船」中国海警局船から執拗な接近と追尾 漁師を嘆かせる尖閣海域の異常、行かないと「中国のもの」という既成事実が,ZAKZAK,2021.4.7.,https://www.zakzak.co.jp/soc/news/210407/pol2104070003-n1.html

 彼の心意気に頭が下がる思いです。褒められもせず、同情すらされず、もし何かあっても補償がないだろう状況で踏みとどまるのは、利益も注目も求めていない、純粋な地元への愛があってこそでしょう。彼らの身の安全を切に願うばかりです。

尖閣防衛は国民の意識次第

 前回から二回に渡って、中国がいかに巧妙な戦略で尖閣諸島に「攻め」てきているかを明らかにしたうえで、日本側の「守り」の弱点、特に「政治と官僚の病理」について解説してきました。総括すれば、日本側は自分から動くことができず、動けば中国に付け入られ、動かなくてもじりじりと侵食されている現状を、伺い知ることができます。
「ならどうするのか?」と思われるでしょう。嘆いていても仕方ありません。日本の「病理」の原因は政治や官僚の「事なかれ主義」にありますが、大本をたどれば私たち国民の関心の薄さにあります。国民が尖閣諸島に関心を持たなければ、政治家は票にならないため動こうとしませんし、官僚も政治が決めない以上は働きません。尖閣のみならず、今の日本の厳しい安全保障環境は、「戦争の反省」と称して国防から逃げてきた日本国民の責任でもあるのです。

 じゃあどうするのか?このまま中国の意のままになってしまうのか?いいえ!勇気ある漁師のように、こんな現状でも抵抗する動きは確かにあります。昨年2024年4月26日から二日間に渡って、石垣市尖閣諸島の科学調査を実行しました。

 3回目となる石垣市尖閣諸島海洋調査を実施した民間のサルベージ船が26日午後6時半ころ、石垣港に帰港した。2023年1月の前回調査では確認できなかった魚釣島北側をドローンで空撮。夜間に赤外線センサーを使い、生物の生息を確認した。市と東海大学は映像の詳細な分析を進める。同船は国会議員団やメディア関係者を乗せ、午後10時ごろ再び出航した。(出典:生態系懸念「上陸が必要」 尖閣の調査船、石垣帰港,八重山日報,2024.4.27., https://yaeyama-nippo.co.jp/archives/23144

 記事にもありますが、調査には青山繁晴氏を始めとした国会議員の有志が参加しております。なおも上陸は禁止されているものの、科学調査を実現できたのは、石垣市の強い意志と、尖閣に関心を持つ票に支えられた議員の存在あってのことだと思います。私たちができることは、こうした彼らの努力に関心を持ち、支持することでしょう。

 何より世論が関心を示さなかったら、今この瞬間も領土防衛のために命を懸ける海保や自衛隊が浮かばれません。もしも衝突が起こった際に、中国のプロパガンダに乗せられて、彼らを犯罪者扱いしてしまったら、もう誰もこの国を護らなくなってしまいます。それは果たして「国」と言えるのでしょうか? 別に「極右になれ」と言っているのではありません。日本の末端で起こっている出来事を自分事として考える時間を、ほんの少しだけでもあなたの日常に加えてほしいのです。

「辺境の島など俺には関係ない」とか「尖閣なんてあげちゃえばいい」という態度が、日本の主権を弱体化させます。それは中国にとってこの上なく嬉しいことで、労せず尖閣諸島を手に入れた彼らは、さらなる拡張路線を推し進めて、南シナ海諸国や台湾に対して強硬姿勢を強めるかもしれません。ゆくゆくは米軍をアジアから排除し、アジアを支配する野望にも突き進むことでしょう。

 

 そうですこれはただの南方の無人島の問題ではないのです。
 日本とアジアの将来に関わる大きな課題なのです。