皆さんこんにちは、今回も日中関係で相互不信が増大する本質を解明していきましょう。
それでも日中関係に“春”は来ない
2025年9月8日に石破首相が退陣を表明して、自民党で臨時の総裁選が行われることになりました。この候補者の中で有力視されているのが、前回石破氏と決選投票までこぎつけた高市早苗氏と、小泉純一郎氏の息子である小泉進次郎氏です。彼らのどちらかが総裁にふさわしいかは世論が揺れており、保守派は高市氏を応援する一方、リベラルを標榜するメディアや野党は小泉氏を推しています。その理由は高市氏の歴史認識にあり、特に親中の公明党や中国専門家は「彼女が首相になったら日中関係の改善は遠のく」と主張しております。
確かに高市氏が日中関係を改善するのは難しいかもしれません。しかし、「親中」であれば日中関係が改善するとも限らず、直近15年ではむしろ親中政権の方が日中関係を悪くしているという、逆説的な仮説さえ浮かび上がります。例えば、2009年に自民党から政権を奪取した民主党は親中派が多いことで有名ですが、2010年に尖閣諸島沖事件、2012年には尖閣国有化による大規模な反日デモなど、戦後最悪と言えるほどに関係を悪化させております。逆に再登板した安倍政権の方が、一時的とはいえ改善へ向かわせた事実は、日本外交に大きな転換をもたらしました。
そして2021年10月に就任した岸田首相は伝統的なハト派の宏池会の代表を務める政治家でした。そのため当時メディアや中国専門家は日中関係の進展を大いに期待していたのです。事実、岸田さんは対中関係を重要視しました。しかし、結果として日中関係に“春”が来ることはありませんでした。なぜでしょうか?本稿では岸田政権の対中外交で起こった二つの懸案「ビザ問題」と「処理水問題」に焦点を当て、その経緯と真相について、掘り起こしていきたいと思います。
ビザ問題に隠された中国の警告
2022年12月、習近平政権はそれまで厳格に進めていた「ゼロコロナ政策」を終了させ、国内の移動制限を撤廃します。その背景は厳しすぎる制限に対する人民の言葉なき反抗、「白紙運動」があるとされる一方、冷え切った経済を活性させる意図もあると言われています。国外に観光客があふれ出し、インバウンドをあてにしていたタイなどは、わざわざ首相が出迎えるほどの歓待ぶりでした。
しかし朝令暮改な政策転換は感染拡大という副作用をもたらします。中国政府による感染者数の発表は不透明なものも多く、各国は懸念を持って対応しておりました。日本もその一国であり、それまでは特定地域に限定していたのを拡大し、中国全土から入国する中国人全員に、出国前検査や入国前検査を実施することにしました。
これに中国政府が「科学的根拠に基づかない、差別的な措置」と強く反発し、対抗措置として2023年1月10日に、中国に入国する日本人ビザの発給を一方的に停止したのです1。
日本人ビザ発給停止の真相
こうした中国政府の振る舞いに、日本メディアは「習近平のメンツの問題」「同じような水際対策をする国々に対するけん制」であると見なしていました。確かに中国人はメンツを重んじますが、彼らのビザ発給停止措置は、日本側の検査の義務化に対して、明らかに釣り合っておりません。 またビザ発給自体は1月末には解禁される一方、2020年から停止している短期滞在ビザ免除に関しては、他の国が解禁される中、日本だけが停止させられたまま、石破政権に交代する2024年11月まで続くことになります。これは明らかに「日本」であることを理由とした差別的な措置です。
なぜ彼らがこうした行動に出たのか、中国問題グローバル研究所の遠藤誉氏が次のような興味深い見解を紹介しております2。彼女が言うには、ビザ発給停止措置には中国政府側の次のような政治的意図があったのです。
1.G7歴訪した岸田首相に“お灸をすえる”ため
ビザ発給が停止される前日の1月9日から、岸田首相はG7メンバー国を歴訪しておりました。これは同年5月に開催された広島サミットの議長国としての責務を果たすためのものでしたが、各首脳との議題にはウクライナ戦争のほかに、台湾の武力併合を辞さない中国への懸念も含まれていました。これは歴訪の目的の一つとして、中国の軍事力増強などを念頭に置く連携強化の確認があり、安部外交時代の資産を有効活用したものでした。 しかしこれに中国政府は反発。中国メディアは「岸田が中国脅威論を欧州に売り込み、さらには反中連結(反中で連携すること)を実行しようとしている」とし、日本が欧米に追随してアジア太平洋地域の平和を乱していると強く非難しました。ビザ発給停止は、岸田政権に「お灸をすえる」意図があったと考えられるのです。
2.日本の新たな安保政策への反発
2022年12月に岸田政権は「安保関連3文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を閣議決定しました。そこには戦後日本で初めて「反撃能力」の保有が明記され、GDP比2%を目標とした防衛費増額が決定されます。背景はロシアのウクライナ侵攻に伴う国民の安全保障意識の高まりを受けたもので、ハト派であるはずの彼が実現した歴史的大転換に、日本共産党をはじめとする国内の左翼達は反発します。 当然、中国政府も強く反発し、中国メディアは「日本は再武装して攻撃の牙をむき出しにした」と表現。近隣諸国や地域の平和を脅かすものだと非難しておりました。ビザ発給停止は、こうした日本の防衛政策の転換に対する不満を、直接的な行動で示した一環であると言えるのです。
以上のように中国政府が行った日本人ビザ発給停止措置は、単なる武漢熱(新型コロナウイルス)対策への対抗措置ではなく、岸田政権の外交姿勢と安全保障政策の転換に対する政治的な警告であったと遠藤氏は指摘しております。
すれ違いだった日中首脳会談
これまでも日本の防衛力強化に中国政府が反発することはありましたが、具体的な制裁を実施してくることはあまりありませんでした。私は岸田首相が親中であったことが、彼らの強硬な措置の背景にあるとにらんでおります。過去記事でも言及した内容ですが、改めて解説します。
安保改定直前の11月にタイのバンコクで3年ぶりの日中首脳会談が実現します。日中友好50周年などという美辞麗句に支えられたこの会談では、一度は外された日中の「戦略的互恵関係」の推進で一致、「日中安定へ向けた協力」で合意しました。印象的だったのは岸田首相が「安定」を強調したのに対し、習近平国家主席が「変革」という言葉を使っていたことです。そして「新時代の要求に合致した建設的で安定した日中関係の構築」すべきと提案しています(同じ提案を石破首相にもしています)。その提案の真意について中国メディアが詳しく報じております。
習主席はまた「中日両国は社会制度や国情が異なる。双方は互いに尊重し合い、相互信頼を深め、疑念を解消するべきだ。海洋や領土の紛争問題においては、これまでの原則的合意を厳守し、政治的な知恵と責任感をもって、溝を適切に管理・コントロールする必要がある」と指摘。 (中略) 両国は各々の長期的な利益と地域の共通利益に着眼し、戦略的自律性と善隣を堅持し、衝突や対立を拒絶し、真の多国間主義を実践し、地域統合を推進し、共同でアジアをしっかりと発展させ、建設し、グローバルな課題に対処するべきだ」と強調した。(出典:習近平国家主席が日本の岸田文雄首相と会談,人民網日本語版,2022/11/18,http://j.people.com.cn/n3/2022/1118/c94474-10173295.html)
ここで注目するのは次の3つの言葉「溝を適切に管理・コントロール」「衝突や対立を拒絶」「真の多国間主義」です。まず一つ目の「溝を適切に管理・コントロール」は領土問題の対立継続を示唆するともに、主に日本側に配慮を要求していると解釈できます。また直前の原則的合意は日中間の4つの基本文書を示しており、台湾問題における中国への配慮も求められています。 二つ目の「衝突や対立を拒絶」は欧米との連携の拒絶を意味していると考えられます。当時は特に香港やウイグル問題、台湾問題など、欧米と中国との対立が激しくなっていた頃なので、中国政府は日本が味方になることを期待していました。 そして三つ目の「真の多国間主義」はアメリカ一極体制の否定であり、それも日本に協力するように求めていたと解釈できます。さりげなく地域統合の推進も言及されており、新しい「アジアの一極」を作るビジョンまで描いていることが伺えます。
しかし、岸田首相は無批判でそれに応じ、それでいてバランスを取ろうと「安保関連3文書」閣議決定やG7歴訪を実行したのです。「経済は中国、軍事はアメリカ」の典型ですが、それを習主席は「裏切り行為」と見なしました。つまり、中国政府による日本人ビザ発給停止措置は、習主席から岸田氏に対する「二度と裏切るな」という警告であったと結論付けることができるのです。そしてこれは後述する処理水問題で、中国の強硬姿勢がさらにエスカレートする序章でもありました。
処理水問題という名の『報復』
2011年の東日本大震災の津波によって、福島第一原子力発電所の原子炉冷却システムが停止し、炉心溶融事故を起こしました。事故後、施設内の水に放射性物質が溶け出し、汚染水ができてしまいます。さらに雨水と地下水が流れ込み、その量は日増しに増えていきました。
日本政府と東京電力は東芝、日立、三菱重工業など複数の企業の協力で多核種除去設備(ALPS)を建設し、この汚染水からトリチウム以外の62種類の放射性物質を除去することに成功しました。しかしトリチウムが除去できないことと、風評被害への懸念から、処理した水は敷地内のタンクに一時保管されました。10年以上にわたるタンク増設の結果、その数は約1000基、処理水総量は129万トンにまで膨れ上がったのです。
この問題に対し、政府は2021年4月に処理水を希釈して海洋放出する基本方針を決定。その後、2年間にわたる国際原子力発電所(IAEA)の安全審査を経て、放出計画が国際的な安全基準に準拠していることが確認され、2023年8月24日に海洋放出が開始されました。年間排出されるトリチウム総量は、22兆ベクレル未満を維持する方針です。
これに中国政府が国を挙げて激しく反発します。中国外務省は処理水を「核汚染水」と呼び、放出を決断した日本政府を「極めて利己的で無責任」と非難し、日本産水産物の輸入を全面的に禁止しました3。
科学を否定する中国の矛盾
中国政府の行動を論じる前に、放出される処理水に含まれるトリチウムの、科学的見識に触れていきましょう。トリチウムは三重水素とも呼ばれる水素の同位体の一つで、自然界にもわずかながら存在する放射性元素です。その化学的性質は水素と同じであり、体内に入ってから排出されるまでの日数は10日であり、放射するベータ線のエネルギーも非常に低いのが特徴です4。
もちろん全くのゼロリスクとまでは言い切れませんが、十分に希釈して国際基準以下にすれば、海へ放出しても問題ないとされております。実際、海外の原子力設備においても、各国の法令に基づいて排出が行われており、例えばフランスのラ・アーグ再処理施設では、年間約1京500兆ベクレル(2022年)ものトリチウムを排出しております5。日本の排出基準は国際基準より厳しめに設定されており、IAEAの安全審査や査察も積極的に受け入れております。
しかし、中国政府はIAEAの評価を「免罪符にするな」と一蹴し、放出の中止を求めた上にさらなる透明性を要求しました。ところが日本の報道で、中国の原発から日本の基準以上のトリチウムが排出されている実態が明らかとなり、ダブルスタンダードだと批判が出ます6。また中国政府は日本産水産物を禁止する一方で、国内の漁家に日本周辺での漁を禁じていませんでした。
この明らかな矛盾は、中国政府の行動が単なる環境問題に起因するものではないことを示唆しております。イギリスを拠点にしているデータ会社「ロジカリー」によると、中国メディアは2023年1月からFacebookやインスタグラムに様々な国の言語で、処理水の危険性を訴える有料広告を流していたそうです。中国専門家ハムシニ・ハリハラン氏は、それらが政治的動機によることは明確だと指摘しております7。
習近平のメンツをつぶした岸田外交
では激しい日本非難を繰り広げた中国政府の政治的動機とは何だったのでしょう?実はそこにも親中である岸田首相が深く関わっているのです。二人の識者の見解から、その真相を探ってみましょう。
1.ウクライナ訪問した岸田首相潰し
まずはジャーナリストの加賀孝英氏の見解です。夕刊フジの「スクープ最前線」を寄稿していた彼の論説は扇動的で突飛なものもありますが、次に紹介する視点は、とても興味深いです。 加賀氏の見解は中露が岸田政権潰しで手を組んだというものです8。その理由は2023年3月21日に、岸田首相がウクライナの首都キーウに電撃訪問したことにあります。インド外遊中だった彼は極秘にポーランドに飛び、列車でキーウに向かい、ゼレンスキー大統領と会談します。そしてロシアを強く非難し、ウクライナへの支援を表明しました。 彼のその行動は中国とロシアにとって非常に都合が悪いものでした。というのもほぼ同じ日に、モスクワでは習近平国家主席とプーチン大統領が首脳会談をしていたからです。習主席は会談でロシアとウクライナで和平協議を行うように提案しており、「平和の建設者」として国際的影響力を広げようとしていました。しかし、欧米メディアでは岸田首相のキーウ訪問と対照的に報じられます9。これは彼のメンツをひどく傷つけるものでした。 一方、プーチン氏にとっても岸田首相の非難は、ロシアの軍事作戦の正当性を否定するものであり、メンツを失うものでした。そのため両氏は岸田氏への報復を決意し、共同宣言の中には日本の処理水放出への懸念が盛り込まれたということです。実際、ロシア政府も10月には日本産水産物を輸入禁止にして中国と歩調を合わせてきました10。
2.対米追従政策への報復
次に紹介するのは前章でも引用させていただいた遠藤誉氏の見解です。彼女は1941年に中国に生まれ、第二次国共内戦を経験して日本へ帰国した経緯があり、他の中国専門家にはない独自の視点を持っております。 遠藤氏によると、中国政府の輸入禁止措置は、日本がアメリカの対中包囲網に追随していることへの報復です11。具体的には「インフレ抑制法(IRA)」や「CHIPS・科学法」といったアメリカの保護主義的な法律に、日本が追従・便乗していることや、アメリカが要求する対中半導体製造装置の輸出規制に従っていることが挙げられます。これらは中国がEV車やIT産業を躍進させていることを念頭に、米国国内産業の保護と、中国依存を低減する目的で実行された政策です。しかし中国政府は強く反発し、台湾問題をめぐる日米同盟の連携にも、抗議しております12。 報復としては尖閣諸島の領海侵入や、東シナ海での軍事演習などの実力行使も、選択肢として考えられました。しかし、2024年1月の台湾総裁選に影響を与えたくないので、日本産水産物の全面禁輸に踏み切ったと考えられるわけです。
以上のように、中国政府の禁輸措置は科学的な懸念ではなく、岸田政権の外交政策に対する報復という側面が強いことがわかります。さらに前章のビザ問題と繋げて考えれば、習主席は岸田首相のことを裏切りを繰り返したペテン師と認識していても不思議ではありません。その証拠に、日本人向けの短期ビザ免除も、日本産水産物の輸入再開も、岸田首相が辞任した後に動き始めております。
親中派の幻想が崩れる日
ここまで岸田政権での日中関係に焦点を当てて、その懸案の背景と真相について深掘りしてきました。そこから見えるのは、岸田氏が親中派であるにもかかわらず、逆に中国側を怒らせて理不尽な強硬策を誘発し、かえって日中関係が不安定になってしまったという客観的な評価です。勘違いしてはいけないのは岸田首相には中国を騙す意図はなかったという事実です。彼は彼なりの考えで日中関係の改善に尽力し、それが日本の国益になると信じていました。しかし、その思惑とは逆の結果を招いたことは、皮肉としか言いようがありません。
なぜ思惑通りに事が進まないのか?それは親中派が中国に配慮しすぎるあまり「弱腰」になってしまっていることにあります。
日本を叩く中国の基本戦略
なぜ弱腰が日中関係の改善とは逆の現象をもたらすのか?それは過去2作で解説したことを踏まえて考えると理解することができます。
1.反日ナショナリズムの強化
前々作の反日の深層では、中国共産党が如何にして反日思想を作り上げ、それを統治機構の維持に役立ててきたかを解説しました。それが意味することは「日本には甘い顔ができない」ということです。彼らにとっては「日本に勝っている」ことが何よりも重要であるため、弱腰であればあるほど、さらに日本を叩いて自分たちの優位性を誇示しようとするのです。
2.毛沢東の戦略思想
もう一つは前作の地政学と戦略思想が暴く日中関係の真実から読み解くことができます。具体的には毛沢東思想における「敵が進めば我は退き、敵が留まれば我は乱し、敵が疲れれば我は打ち、敵が退けば我は進む」が影響します。すなわち、日本政府が弱腰の時は「退いている」状態であるため、中国政府としては国益を最大化するためにより踏み込むことになります。それに日本側が懸念を表明しても、それは「疲れている」状態とみなされ、決して譲歩することはないのです。
岸田首相が失敗したのは日本の立場を脇に置いて、日中関係改善に前のめりになってしまったことです。そのため習主席は優位な立場を得て日本に注文を付け、期待した動きをしなければ強硬姿勢を見せたのです。
『解決』の裏で中国が得た『外交的戦果』
それでも親中派の方々は「ビザ問題」も「処理水問題」も今は解決したとおっしゃることでしょう。確かに日本人への短期ビザ免除は再開され、日本産海産物の輸入は一部再開されてはいます。しかしそれは外交的解決を一面的に評価しただけに過ぎず、中国政府は外交的戦果をしっかりと得ています。
1.訪日ビザ緩和
まずはビザ問題ですが、ビザの発給停止自体はすでに解禁されてたものの、武漢熱萬栄によって停止されていた短期ビザ免除の再開は、2024年11月まで実現しませんでした。その背景は岸田政権への不信があるのは本稿で解説した通りですが、もう一つの事情として、中国政府が相互主義として日本側のビザ免除も求めていたことが挙げられます13。 もともと中国政府はビジネス活動を円滑にするために、訪中する日本人に短期ビザ免除を認めていました。一方で日本政府は不法滞在や治安の悪化への懸念から、訪日中国人にはビザ審査を行い、入国目的や経済状況などを事前に確認する体制をとっています。相互主義の観点からすれば、中国側の主張には一理あります。しかし、近年訪日客によるオーバーツーリズムの発生や国内の反発から、日本政府が受け入れることは困難でした。また中国固有の問題として、指導者の意思ひとつで、何時でも観光客を差し止めることができるため、外交圧力の手段にも使われてしまうリスクがあるのです。 しかし最終的には日本政府が一定の譲歩をし、訪日中国人の入国ビザ緩和を約束してしまいます14。総じていえば、中国政府は武漢熱対策と岸田政権へお灸をすえただけで、日本側から外交的戦果を得た状態といえます。この件は今自民党内で問題視されており、青山繁晴氏を筆頭にした保守派によりビザ緩和手続きを差し止めている状態です。
2.中国独自のサンプル調査
前章で説明している通り、中国政府は政治的動機から日本の処理水問題を取り上げ、IAEAによる安全審査と査察を全否定します。しかし、日本を孤立させようと仕掛けたプロパガンダの甲斐もなく、国際社会での同調の輪が広がらず、IAEA総会で日本非難を展開したのは中国だけという、逆に自分が孤立する事態になりました 15。 すると彼らは輸入再開の条件として中国独自のモニタリングを要求してきました16。その意図はメンツを保つための出口戦略という見方が一般的ですが、その交渉を通じて、日本の原子力政策に直接干渉できる立場を得ようとする魂胆も透けて見えます。 交渉の末、IAEAのモニタリングの枠組みに中国の調査員が参加し、サンプルを採取する形17になりましたが、政治的動機から始まった問題で、中国政府が一定の戦果を得たことに変わりはないでしょう。今後も日本の政策が気に入らない時は、突然サンプルが異常な値を示していると主張し、輸入禁止を仕掛けてくる可能性が高いです。
こうして日中の外交的実情を俯瞰すると、まず中国側が問題を引き起こし、日本側が最終的に譲歩するという、一定のパターンが見えてきます。そしてそれは大なり小なり、中国側に一定の戦果を与えております。それはまさに中国政府の戦略思想「敵が引けば我は進む」の再現であり、日本は常に敗者として譲歩することを強いられているのです。
「日中関係の改善のために譲歩は仕方がない」と割り切る主張もあることでしょう。確かに譲歩は外交における重要な解決手段の一つです。しかしそれは短期的なものでしかなく、何度も多用するべきものではありません。なぜなら、あまりに譲歩を繰り返していくと、次第に日本側に譲れる余地が無くなるリスクがあるからです。
中露の共同宣言:日本への最後通牒
なぜ日本が譲れる余地がなくなってしまうのでしょうか?それは中国政府にとって「日本の譲歩」が当然のものとなり、反日ナショナリズムの影響で後戻りができなくなるからです。また毛沢東思想においても「強く出れば相手は退く」成功体験を重ねることで、日本の事情を全く考慮することなく、敵対的に突き進む姿勢が基本戦略となってしまいます。
その兆候はすでに表れております。2025年5月8日、モスクワで開かれた中露首脳会談で、習主席とプーチン大統領は共同声明を発表し、日本に対して「歴史問題で言行慎め」と宣言しました。
中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は8日のモスクワでの会談後、戦勝80年に関する共同声明を発表した。「第2次大戦の歴史の改竄(かいざん)」は許さないと主張し、日本政府に対して「靖国神社など歴史問題で言動を慎み、軍国主義と決別する」よう求めた。(出典:中露首脳、日本に「歴史問題で言動慎め」共同声明で要求 林長官「他国批判に興じるな」,産経新聞,2025.5.10., https://www.sankei.com/article/20250510-MBU3KRNDJ5PLLJ7MQP3ZP3G43E/)
その意図は戦後80年談話で紹介した通り、自国の政治対立場を強化するために、日本の戦争犯罪を強調しているのですが、隠れた要求として「防衛費を上げるな」と「日米同盟を強化するな」が含まれている可能性があります。実際その直後に、日本政府がアメリカとの2プラス2協議を見送りました。理由は防衛費増額の要求を避けるためと言われており、中露から圧力を受けた石破首相が、アメリカと距離を置いた見ることもできます。
石破政権について一部の専門家は「中国政府が好意的である」と論じておりますが、その実態は石破外交への積極的評価というよりも、日米関係を停滞させた事への消極的評価であると思います。実際、石破外交は2月の日米首脳会談以降、トランプ関税への対応に追われ、日米の防衛協議は滞ったまま辞任を迎えました。習主席からすれば日米同盟の揺らぐ様が見られて、さぞ愉快だったことでしょう。
しかしながら今後また親中政権ができるとしても、日米同盟が日本の安全保障の根幹である限り、いずれ日米同盟を強化し、防衛費増額の求めに応じることになります。なぜなら中国政府の長期的目標はアジアからの米軍排除であり、第一列島線と第二列島線を防衛ラインとしたアジア勢力圏の掌握だからです。だから国家の存立のために否が応でも対応せざるを得なくなります。
そんな日本の苦境をあざ笑うかのように中国政府は居丈高に反発し、ロシア政府と組んで容赦ない圧力と制裁をかけてくるでしょう。そしてまた何らかの譲歩を強いられ、彼らはますます増長する、そんな無限のループとジレンマに親中政権は追い込まれます。そして遠くない将来中露から「日米安保からの離脱」を要求されるかもしれません。
その最後通牒が突き付けられた時、彼らの幻想は完全に崩れ去ります。ふさわしい言葉は絶望の一言でしょう。
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