ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

次期首相が直面する地雷だらけの日本政治と外交

 皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。まもなく新たな自民党総裁が決定されます。前回は一般論でのリーダー論を述べさせていただきましたが、今回は新総裁が首相になる場合において直面する問題に迫っていこうと思います。

 

 疑惑の総裁選

 過去の総裁選が自民党の正当な代表決めとして厳かに進んだのに対し、2025年の総裁選は党の延命と国民の失望を象徴する戦いとして歴史に刻まれるかもしれません。9月22日に公示された同選挙は、疑惑の影と派閥の暗躍が囁かれる、異色の熱気を帯びております。

 ある候補はネガティブキャンペーンの餌食に曝され、またある候補は「どんな手段」を使ってでも首相の座を狙うかのような動きを疑われました。ただでさえ国民の7割から「期待できない」と冷ややかな視線が注がれるこの状況で、そのような不祥事を見せれば、自民党への信用がさらに失墜するのは確実でしょう。

 それだけならまだしも実際に総裁選を制して晴れて首相になった者には、税制問題、中国問題、関税問題という地雷というべき懸案が一気に押し寄せます。新首相に求められるのは党内の権謀術数などではなく、時代の転換期を迎えた日本を導く覚悟とビジョンです。そのようなものもなしに、首相の黒い椅子に座った者は、一日と立たずして後悔の淵に立たされることになるでしょう。

 本稿では新首相が直面する「地雷」についてまとめていこうと思います。それらはいづれも誰かによる、日本政府に何かを許さない姿勢によって仕掛けられたものなのです。

 増税を許さない国民

 まず最初に新首相が直面する問題は税制問題でしょう。過去数十年において日本では、少子高齢化に伴う社会保障予算の増加に対応するために、国民から徴収する社会保障費の増額や消費税の増税が行われてきました。しかし近年のインフレによる物価の上昇により、国民の生活費が圧迫され、税制に対する不満が表面化しております。その国民の不満は自民党への憎悪に代わり、選挙に影響を与えました。

 自民敗北、立民伸び悩みの真相

 よく自民党が選挙で負けた理由として「安倍派(清和政策研究会)の裏金」ばかりに焦点が当たりますが、赤旗のスクープがあった2022年11月より前から政権の支持率は急落しており、単なる「政治と金」の問題ではないことは明らかです。

図1.内閣支持率推移グラフ[1]

 実際、裏金事件以降に政権側は徹底して安倍派の影響力排除を行っており、それが政策にも影響を与えます。積極財政派の旧安倍派を排除したことで、財政健全化志向が強まったのです。特に後述する野党の減税論には徹底した慎重論に終始し、幹事長が消費税を守ることに政治生命をかけると公言するほどに硬直化しました。もし「安倍派の裏金」が唯一の要因なら、その後の長期にわたる支持率低迷や、参院選での敗北の説明がつきません。

 また2024年の衆院選、2025年の参院選のいずれにおいても特徴的だったのは、立憲民主党は伸び悩み、対照的に「国民の手取りを増やす」ことを掲げた国民民主党が躍進したことです。これは従来の野党が鉄板としていた「自民党のスキャンダルで党勢拡大を図る」戦略が陳腐化していることを示唆しております。また、立憲民主党の伸び悩みは、2012年で三党合意で消費税増税を方向づけた野田氏が党首であることと無関係ではないでしょう。

 野党圧力と政権の内圧

 躍進した国民民主党は国民の手取りを増やすために、、実効性のある改革を推進しております。特に2025年前半では103万の壁の引き上げを求めたことで話題になりましたね。また参院選で注目を集めた参政党も減税を掲げており、それまで減税には慎重姿勢だった立憲民主党さえも、給付付き税額控除を提案するようになりました。

 自民、公明、立憲民主3党の政調会長は30日、所得税減税と現金給付を同時に実施する「給付付き税額控除」の制度設計を巡り、初の協議を国会内で開いた。自民の新総裁が10月4日に選出されることを踏まえ、次回協議を自民の新体制下で実施することを確認した。(出典: 税額控除、総裁選後も協議 自公立政調会長が確認, 東京新聞, 2025.9.30., https://www.tokyo-np.co.jp/article/439263?rct=politics)

 一方で財政健全を重視する思想は、政権内では根強く存在し、財務省の影響力も非常に強いです。その背景は安易な減税が「将来世代への負担」に繋がりかねないという考えがあるからです。現在日本は低成長状態にあり、今後人口減少によって市場が縮小する可能性があります。その長期的不安が財政規律の安定を優先する志向を生み出し、前述の幹事長の硬直化につながります。

 つまり次期首相が誰であれ、容易に「増税」も「減税」も打ち出せる状況ではないということです。今後、防衛費増額などで政府支出が増えるのは確実な為、扶養控除の廃止やケアサービスの有料化など、見えない増税を模索する必要に迫られるかもしれません。ただ、国民はそういった政府の手口にもう気づき始めているので、うっかり地雷を踏めば政権支持率が下がることは間違いなしです。

 対米協力を許さない中国

 次に次期首相が直面する地雷が対中外交です。かねてから過去記事で指摘しているように、中国政府は日本側に「新時代の要求に合致した建設的で安定した日中関係の構築」を求めています。これは日本の親中派が考えているような従来の日中関係の復元ではなく、日本の外交政策や安全保障政策にまで干渉しうる提案です。具体的には台湾問題への不関与、対米追従の拒否、防衛強化の放棄です。

 要求1:台湾問題への不関与

 一つ目の要求は台湾問題への不関与です。具体的な言葉としては「日本が台湾問題における政治的な約束を厳守することを希望する」というもの。これは日本が中国との国交正常化時に「台湾が中国の不可分の領土であることを尊重した」という、日中間の基本文書「日中共同声明」を指しております。あくまで尊重であって承認ではないのですが、習近平政権は「必ず中台統一する」と公言しており、台湾周辺で軍事圧力を高めている状態です。

 これにアメリカが懸念を高めており、オバマ政権からアジアシフトの方向へ向かっております。特にバイデン政権では「台湾を守る」と具体的な名言もしており、米中での駆け引きが活発化しております。地理的に日本はアメリカの台湾防衛、東アジアの安定維持に重要な位置にあるので、中国政府としては日本が不関与を表明すれば、圧倒的に有利な立場を勝ち取れます。

 要求2:対米追従の拒否

 二つ目の要求は対米追従の拒否です。これは台頭する中国を封じ込めようとするアメリカの政策に日本が追従しないように求めるもので、一つ目の台湾問題もその範疇にあります。加えて米国はITやAI、軍事産業で躍進する中国の製造業を抑制するために先端半導体の規制を行い、半導体関連品を手掛ける日本やオランダにも協力を求めております。中国政府としては、自国の発展を妨害する動きになるため、協力するなと日本に突き付けているのです。

 もっとも対中抑止政策の原点は日本側にもあり、自由で開かれたインド太平洋戦略や日米豪印クアッドは今は亡き安倍元総理が提言して始まったものです。その背景は中国の拡張戦略への対抗があり、その是非が日本の存立や尊厳にも直結します。詳しくはオバマ・トランプ・バイデン3代政権が飾る超大国の終焉(2)を読んでもらえるとよいのですが、これは単に日本が米国従属から脱却する是非を問う問題ではなく、アジアの地政学ダイナミクスに関わる重大な要求であることを、日本人は理解する必要があります。

 要求3:防衛強化の放棄

 最後はより直接的な内政干渉で、日本が平和憲法を守って軍拡をしないというものです。これは一見、平和主義的で正しい主張のように見えますが、中国の軍拡が飛躍的に進んでいることを無視したものです。

図2.中国の公表国防予算の推移[2]

 地域の不安定化は一国の軍拡の是非だけで決まるのではなく、隣国との軍事バランスの偏りから始まります。一部の国だけが軍拡に励めば、周辺国は圧力にさらされることになり、抑止力を強化する必要に迫られます。日本も同じ経緯でバランスを保とうと防衛費を上げているのですが、それを中国は止めろと言っています。

 その背景はアジアの地政学ダイナミクスに関わるものです。詳細は日中相互不信のメカニズム(2):地政学と戦略思想が暴く日中関係の真実で解説していますが、要は中国がアジア地域を自国の勢力圏にする大戦略を実行しており、日本には抵抗するなと圧力をかけているのです。日本がこれを受け入れる場合、人民解放軍の支配に曝されることになります。

 岸田外交の末路

 こうした要求によって近年の日本外交は迷走を強いられました。特に岸田前政権では、対中融和姿勢の甲斐もなく、中国政府から強硬な制裁を科されています。これも日中相互不信のメカニズム(3):親中派を追い詰める対中外交の真実 にて詳しく解説しているのですが、従来の親中派が考えるような「経済は中国、軍事はアメリカ」が通用しなくなっていることを岸田氏は理解していませんでした。石破政権は後述する関税問題で日米関係が停滞したため、消極的に評価されただけにすぎません。

 新首相はこれをよく理解して対中外交に挑む必要があります。決して日中改善に前のめりになって譲歩を行ってはいけません。さもなくば、日本の存立を犠牲にしかねない約束をしてしまい、それが新たな「地雷」となって、より強い反発と不信を誘発してしまいます。特に岸田政権で外相を担っていた林芳正氏が立候補していますが、日本国内の評価とは裏腹に、中国政府内では「また裏切るのでは?」と警戒されているかもしれません。

 日本独り勝ちを許さない米国

 最後は石破政権が残した地雷です。2025年1月20日に再登板したトランプ大統領による全世界への相互関税で、日本に課された関税を低減するために交渉に挑むことになりました。7月に交渉妥結したときは、メディアを上げて評価されましたが、その内容が明らかになるにつれ、大きな禍根を残すことになります。具体的には15%の関税、80兆円の対米投資、そして農産物市場の開放です。

 15%関税の影響

 一つ目は15%の関税です。2025年4月にトランプ大統領が大々的に打ち出した「相互関税」政策は、世界に衝撃を与えました。中でも最大24%の関税を突き付けられた日本は、アメリカとの貿易依存度が高いことから、その影響を直接的に受ける立場にありました。赤沢経済再生担当相による紆余曲折の交渉で、同年7月に両国は「相互関税率15%」で合意に至ります。

 一時は関税35%の急場を凌いだとはいえ、従来の2.5%から一挙に12.5%引き上げられたことを考えれば、安堵の声とは裏腹に、実質的な負担は極めて大きいと言えます。大和総研の分析によれば、この15%関税の導入により、日本の実質GDPは短期的(2025年)には0.5%、中期的(2029年)には1.2%の押し下げ圧力を受けると見込まれています[3]。これは、関税によって輸出入コストが上昇し、企業利益や消費活動が抑制されることによるものです。

 また自動車などの特定品目への関税措置や、中国などへの国別関税も考慮すると、影響はさらに大きくなり、実質GDPの減少は短期でも1.1%、中期では3.2%にまで拡大する可能性があるとされております[3]。「最悪シナリオ」は回避しても、日本の製造業と輸出産業は、今後数年にわたり構造的な対応を迫られることになりそうです。

 80兆円の投資

 二つ目は交渉妥結において日本が行うことになった5500億ドル(80兆円)の対米投資です。この巨額な投資公約は、外交的には「日米経済協力の促進」と謳われていますが、実質的には35%から15%に関税を“引き下げる”ための「通商上の献金」としての性質を帯びています。その内枠はアメリカ国内のインフラ整備、半導体工場の建設、エネルギー分野への資本注入など多岐にわたり、トランプ氏の政策に則って資金を拠出する構造となっております。

 ここで問題となっているのは80兆円という額の大きさです。これは2024年度の日本の実質GDP 558.7兆円[4]の14%にも及び、すでに米国に投資した累計額にも匹敵する数字です。日本政府は政府系金融機関国際協力銀行JBIC)による融資枠や、外国為替資金特別会計を用いるとしていますが、JBICの2024年の融資額は1.5兆円、外国為替資金特別会計も1.3兆円程度であり、数十年計画ならともかく、トランプ政権の間に全て賄うのは容易なことではありません。必然的に民間の出資も促されることになり、国内の設備投資や研究開発費が圧迫されることで、日本企業の競争力が低下するリスクが指摘されています。

 さらに、投資の成果の還元や裁量権についても物議をかもしました。合意当初はトランプ大統領がTruth Socialで、80兆円の資金を「我々の金だ」「利益の90%がアメリカの利益になる」と発信し、日本側の説明との剥離が散見されました。最終的に融資返済中は50:50とし、完済後に9割がアメリカ側に還元される仕組み[5]に収まったものの、裁量権においては、依然としてアメリカ側に有利なことが不安要素となっております。

 農産物市場の開放

 三つ目は日本の農産物市場の開放です。特にコメ市場において国産米が高騰する中、外国米の輸入拡大の圧力が内外からかかっておりました。そこにトランプ氏は畳みかけ「米国産コメの輸入を75%拡大する」ことで合意したと発表しました。日本政府側はミニマムアクセス(MA)枠の拡大はしないと表明しており、若干の食い違いが見られます。

 合意の詳細には未だ不確実性があるものの、国内コメ農家と国際貿易の双方に深刻な影響を及ぼす可能性があります。MA枠内で米国産コメのシェアを意図的に増やす場合、タイやオーストラリアなどの第三国の供給国が市場機会を奪われ、WTO最恵国待遇(MFN)原則違反として提訴される可能性があるでしょう。一方でMA枠外の輸入拡大を意味する場合、国内のコメ農家への影響が懸念されます。

 いずれにしても日本のコメ農業は大きな転機を迎えており、いかに持続的な農業政策を実施して、食糧安全保障を守るかが喫緊の課題になってくるでしょう。

 70年代の確執と暗い影

 上記三つの他にもボーイング旅客機100機の購入や、米国製兵器の購入を年間数十億追加するなど、大盤振る舞いを繰り広げました。その背景はトランプ氏がこだわる対日貿易赤字の解消があります。日米の貿易収支ではアメリカの日本への輸出額が790億ドル、輸入が1513億ドルであり、およそ723億ドルの赤字です。1970年代の日米貿易摩擦に象徴されるように、日本の製造業が躍進したことで、アメリカの国内産業が危機に陥り、中間層が没落しました。79歳であるトランプ氏はその時代を経験しており、日本への確執が少なからずあると考えられます。

 そしてトランプ氏は選挙戦で中間層の票を集める過程で、国内の製造業復活を公約しております。その原資としてファンドを建設する計画がありますが、債務が膨らんだ米国政府では十分な資金を確保できません。そこで関税を交渉材料にすることで、日本をはじめとした複数の国から莫大な投資を引き出したのです。まさに不動産業を営んでいた彼らしい「ディール外交」と言えます。

 交渉が妥結したことで、短期的には日米関係の安定化に寄与しますが、関税という「脅し」で譲歩を強いられた日本の経済主権に暗い影を落とします。円安を追い風にしたデフレ脱却に水が差され、本来、国内の産業振興に振り向けられるはずだった資金が海外に流出し、日本文化の象徴である稲作が危機にさらされるのです。新首相はこの特大級の「地雷」に向き合い、経済的な自律性と外交上のレバレッジを回復させる必要があります。

 地雷原に立つ新首相

 2025年の自民党総裁選は、単なる党代表の選出だけではなく、日本の政治的・経済的な主権が試される戦いに挑むリーダーの選出を意味します。にもかかわらず、総裁選をめぐる疑惑や権謀術数は、既存の自民党構造の「延命」策に終始しており、国民からの信頼を失っております。

 本稿で詳述した通り、新首相が座る椅子はすぐにでも爆発しかねない3つの特大級の地雷が仕掛けられた地雷原の中心にあります。税制問題、対中外交、米国関税の3つは単なる政策課題ではなく、従来の日本のやり方を許さないという内憂外患の圧力が表面化したものと言えるでしょう。これらに共通するのは日本の外交上のレバレッジの低下と、国民生活を犠牲にした短期的・場当たり的な対応のツケです。

 次期首相に求められるのは、党内の権力バランスに配慮する能力ではなく、この地雷原を歩き切る戦略的胆力です。それはすなわち、国内では「増税か」「減税か」議論の硬直化を打破し、社会不安を払しょくする財政の自律性と国民生活改善を両立させること。外交面では、米中の圧力の板挟みにあいながらも、日本の存立と尊厳を守り抜く外交的自律を確立することです。

 もし、この覚悟なく首相の座に就き、安易な人気取りや場当たり的な外交的譲歩を繰り返せば、地雷は瞬時に爆発し、政権は明日もわからぬ低支持率の淵に立たされるだけでなく、日本の国益全体を著しく損なうことになりかねません。新首相は聞き触りのいい政策ではなく、転換期にある日本を導くビジョンを示さないといけないのです。

参考情報
[1]:朝日テレビHP, https://www.tv-asahi.co.jp/hst/poll/graph_naikaku.html
[2]:防衛省, 防衛白書, https://www.mod.go.jp/j/press/wp/index.html
[3]:久後 翔太郎, 秋元 虹輝, 対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDP
の影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-, 大和総研レポート, 2025.7.23., 1頁, https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20250723_025225.pdf
[4]:内閣府HP, https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
[5]:対米80兆円投融資が決着 認識食い違いも日本の説明通りに, 時事通信, 2025.9.5., https://www.jiji.com/jc/article?k=2025090500787