ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

台湾有事は日本の宿命(1)

皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。今回は「台湾有事」と日本の関係について取り上げます。『日中相互不信のメカニズム』シリーズの集大成ともいうべきエッセイです。

「台湾有事」と日本の距離感

 2025年において台湾をめぐる軍事的緊張は新たな局面を迎えようとしております。中国人民解放軍の活動は、台湾周辺での航空識別圏(ADIZ)侵入や大規模な演習はかつてない頻度と強度で展開されており、もはや台湾有事が単なる「危機」ではなく、いつ発生してもおかしくない「事態」へと移行していることを示唆するものです。

より実戦を意識した訓練

 特筆すべきは2025年4月に実施された一連の演習が、2024年に行われた演習とは一線を画していたことです。2024年5月の演習は就任した頼清徳総統への威嚇や、台湾周辺の封鎖能力の誇示という側面が強く、同年10月は規模を拡大し、夜間戦闘や上陸作戦を意識した示威的なものでした。

 しかし、2025年4月に実施された「海峡雷霆-2025A」では、より実戦的な封鎖作戦の具体化へ重心を置いております。具体的には「警告隔離、阻止、差し押さえ」といった行動科目を明確に公表し、UAVやロケット軍による精密攻撃やサイバー戦への要素を強調し、先進的な打撃力能力を誇示するようになっております。

グレーゾーン戦略の強化

 さらに今回は軍だけでなく、中国海警局(CCG)や海上民兵の動員も大々的に行われており、台湾周辺での臨検・法執行訓練を並行して実施させました[1]。これは台湾海峡におけるグレーゾーン戦略の一環で、これを軍事行動と融合させることで、台湾のライフラインを断つ能力を実証しようとする意図が透けて見えます(図1)。

図1.2025年4月演習で海警局が公表したパトロール図[2]

 台湾問題については台湾問題について考える(1), (2), (3)で扱ったことがあり、台湾問題の本質や中国の台湾攻略のシナリオを考察しております。特に(3)では台湾周辺を準封鎖状態にして台湾国民の抵抗意志を挫き、対中融和政権の成立を狙うアプローチがあると解説しました[3][4][5]。

 今回の演習はまさにそれの体現であり、ADIZ侵入の常態化も併せて、中国軍の行動が単なる政治的なメッセージから、台湾へのアクセスを実効支配する段階へシフトしているのは疑いようがありません。それは台湾本島と地理的に近い日本にとっても、決して傍観できない事態のはずです。

未だに「対岸の火事」な日本

 しかし日本国内では安全保障への意識は高まりつつも、いまだ台湾有事について「対岸の火事」という意識が色濃く存在します。先日の自民党総裁選では専ら国内問題に終始し、台湾問題への言及は全くありませんでした。中国の軍事的台頭を警戒する安全保障専門家でさえ「米中戦争の危機」という認識で、日本がそれに巻き込まれるリスクばかりを語っておられます。

 そしてコメンテーターの古賀茂明氏に至っては「日本は台湾有事に際して完全中立を守り抜こう」などと、独善的思考に振り切れた主張さえしております[6]。

 こうした危機意識のズレは、台湾問題の真の構造が見えていないことに起因します。本エッセイは、これまで書いた「日中相互不信のメカニズム」という視点から、台湾有事が単なる他国の問題ではなく、日本の安全保障と地政学的運命に深く結びついた宿命であることを論じます。

 中国の対日戦略、日本の地理的要衝としての役割、そして究極の選択を迫られる日本のジレンマを分析することで、古賀氏も含めた日本の皆さんに「中立」という選択肢がもはや幻想であることを示し、この危機にどう向き合うべきかを考察します。

なぜ日本は台湾有事から逃れられないのか?

 まずは台湾問題が日本の安全保障に直結する「地政学的宿命」であることを明らかにしていこうと思います。これを知れは日本が台湾問題に際し、超然とした立場でいられないことが理解できるでしょう。

グローバルな経済の中の日本

 歴史上、日本は大陸側(中国)と交流した時期もあれば、疎遠になっていた時期も多くあります。これは日本国内において経済の循環が完結していたからで、外部との交流に一定の制限をかけることが可能だったからです。古賀氏をはじめとした日本左翼や、一部の保守層において中立論がまかり通るのも、その歴史的背景が強く影響していると言えるでしょう。

 しかし近年はグローバル化が進み、一国だけでの経済が成り立たなくなっております。これは戦前の日本から既に始まっていた傾向で、工業化と経済成長により、外国からの資源輸入、特に石油や鉄鉱石などの鉱物資源が国内経済の生命線になっているからです。

 また、戦後においては工業製品の輸出が国内の基幹産業の一つとなっており、自動車などの輸送機械、原動機などの一般機械、通信機などの電気機器を含めた「機械類及び輸送用機器」の輸出額は年間61兆6331億円(2024年)にもなります[7]。これは日本のGDPの10%を超える金額です。

台湾の傍を通る日本の大動脈

 こうした日本の産業と経済を支えるためには、海外との交易を結ぶ航路「シーレーン」の確保が重要になります。海だからと言ってどんな航路でもいいわけではなく、地理的要因や経済的要請を考慮しなければなりません。

 その結果、シーレーンの中でも「チョークポイント」と呼ばれる関所のような要所が特に重要視されるようになります。これらの地点は国際貿易や軍事戦略において不可欠な役割を果たしており、海外との貿易を考える以上軽視することはできません。

そして日本にとって最も身近なチョークポイントが、台湾とフィリピンに挟まれたバシー海峡なのです。

図2.日本のシーレーン

 図2を見ればわかるように、バシー海峡は日本近海と南シナ海を繋ぐ要所です。この海峡を経由する航路は、東南アジア諸国から中東、欧州にまで繋がっており、日本が輸入する原油液化天然ガスLNG)の約8割、そして全貿易量のうち約4割が通過する、まさに経済的な大動脈です。

 そんなバシー海峡ですが、かつて輸送船の墓場と言われていた時代があります[8]。第二次世界大戦時に敵対していたアメリカの潜水艦によって、日本の輸送船の多くが沈められていたからです。その結果、日本は深刻な物資不足に陥り、国民の生活は困窮化しました。戦後日本では「二度と戦争を繰り返してはならない」というフレーズばかりが強調されていますが、安全保障の知識層では「シーレーン防衛の重要性」の教訓となった出来事です。

台湾有事で絶たれる日本の生命線

 もし台湾有事が発生し、中国軍が冒頭で触れた「海峡雷霆-2025A」のような封鎖作戦を決行した場合、バシー海峡は真っ先に航行不能となります。それはすなわち日本が輸入するエネルギー資源の供給途絶を意味し、経済活動は数週間で麻痺して、社会は深刻な混乱に陥るでしょう。これは事実上、日本の生命線が絶たれる事態であり、武力攻撃を受けるのと同義の「存立の危機」に値します。

 加えて台湾は世界有数の半導体製造拠点であり、特に高性能なロジック半導体の分野で高いシェアを占めています。日本は台湾からの半導体輸入に依存しているので、有事により半導体の生産や輸送が途絶えれば、国内の幅広い分野で供給不足が発生し、やはり日本経済に深刻な打撃となります。

 つまり「台湾有事は日本有事」という言葉は決して嫌中や右翼のイデオロギーではなく、現代日本が自国の生命線を守れるかどうかの問題なのです。例え日本が「中立」を表明したとしても、中国が日本の経済事情に配慮する保証はなく、軍事的戦略・外交的戦略からしても、中国海警局の臨検による通航制限は免れないでしょう。

 日本の親中派の間では日中関係の深さとして「一衣帯水」という言葉が好んで用いられますが、それは日本と台湾の関係にも言えることであり、日本がこの問題から絶対に逃れられない理由でもあるのです。

第一列島線の「最前線」となっている日本

 これだけ説明してもなお、親中派は「中国と敵対しなければ日本は大丈夫」と主張することでしょう。ここから中立という選択肢が地政学的にありえない理由について、さらに明確にしていきましょう。

 台湾問題における日本の立場は、単に経済的な動脈の確保だけでなく、地理的な要因によっても決定づけられております。それは国際安全保障の議論で頻出する「第一列島線」という概念にあります。これは九州から沖縄の西南諸島、台湾、フィリピン、ボルネオ島へとつながる列島群であり、元々はアメリカが中国の海洋進出を封じ込める戦略上の防衛ラインとして位置づけられてきました。

図3.現在の中国の勢力圏と列島線(台湾と与那国島

 図3を見てわかる通り、台湾は第一列島線の中央に位置しており、その北部一帯を日本の西南諸島が構成しています。特に与那国島は台湾からわずか110kmしか離れておらず、日本の最西端が事実上の最前線なのです。実際、台湾周辺での活動を活発化させる中国人民解放軍が、与那国島と台湾の間や、沖縄本島宮古島の間などを通過する事例が増えており、防衛関係者の間で危機感が高まっております[9]。

 また台湾問題について考える(2)で取り上げたように、アメリカの戦略国際問題研究所CSIS)はシミュレーションにおいて、日本の積極的な協力があれば中国の台湾併合は失敗し、逆に協力を拒否すれば中国軍の作戦が成功するという結論を出しております[4],[10]。

なぜ中立が許されないのか

 こうした地政学的事情を考慮すれば、日本が台湾有事に一切無関与でいられる余地は限りなくゼロです。つまり、日本が「中立」を表明し、戦闘行為への一切の参加を否定しても、日本の領土、特に与那国島先島諸島といった離島と周辺海域、そして領空は、否応なく軍事戦略上の要衝となり、戦闘空間の一部として扱われるでしょう。

 中国側から見れば、米軍に基地や空域を使用させることは、当然ながら日米同盟を介した台湾支援と見なされます。それに、戦闘に参加しなくとも、自衛隊の動向には警戒を続けますし、日本の民間船や旅客機の動きも、統一作戦においては「不確実な要素」として扱わざるを得ません。

 仮に日本が「中立」を徹底するため、対米関係悪化覚悟で基地の使用を拒否した場合、中国にとっては武力行使へのハードルが下がるため、かえって有事を誘発する可能性が高いです。その結果、図4のように台湾武力併合が実現し、第一列島線の一部を中国軍に掌握されます(尖閣諸島も奪われる可能性があります)。

図4.台湾併合直後の中国軍の活動範囲

 地政学と戦略思想が暴く日中関係の真実でも解説したように、中国の長期的軍事目標はアジアからの米軍排除であり、第一列島線第二列島線の突破です[11]。台湾東部沖は急速に水深が深くなっているので、ここに潜水艦基地でも建設すれば、中国は日米の監視を掻い潜って潜水艦を太平洋に展開できるようになります。その結果、神出鬼没の中国潜水艦がフィリピン海を席巻し、日本の安全保障環境は一層厳しさを増すことになるでしょう(図5)。

図5.太平洋に進出する中国潜水艦の勢力図

 以上のように、日本はすでに米中二つの大国のパワーゲームに「」の一つとして組み込まれてしまっているのです。そして台湾有事は日本に「駒」としての役割が最も強く求められる事態であり、中立論は事実上の思考停止、軍事的野心を持つ大国に自国の命運を委ねる危険な選択に他なりません。

中国から見た「日本の役割」と「戦略の核心」

 日本が大国の「」であると言われて、少なくない日本人は反感を覚えたことでしょう。実際、古賀氏は日本がアメリカの駒にされていることに強い反抗心を抱いており、それが「中立論」や「対米追従からの脱却」を提唱する動機になっていると思われます。

 しかし、残酷な現実を申し上げれば、今の日本に駒以外の選択肢はありません。例えアメリカに反旗を翻し、独自外交を志向したとしても、実態は別の大国の「」となって動く羽目になるからです。

 その最たる例が日本の親中派でしょう。彼らは日中戦争での贖罪意識や同じアジア人としてのシンパシーから、日中友好こそが日本の国益と信じ切っており、世界情勢の変化や異論を受け付けない傾向にあります。特に日本の政治中枢にはびこる親中派は1970年から2010年まで大きな役割を果たしました。1972年に日中国交正常化を実現し、長期間にわたる政府開発援助(ODA)を実施し、数々の技術移転と投資を繰り返して中国の成長を手助けしました。

 その結果、中国は日本どころかアメリカにも挑戦する超大国になったわけですが、日本には感謝の代わりに終わりのない歴史問題と軍事圧力をかけてきます。ここからは台湾統一という中国の核心的利益にとって、日本が戦略的にどのような役割を期待されているのか分析していきましょう。

反日レバレッジ日米安保弱体化

 アジア最大の軍隊を手に入れた中国共産党にとって、台湾統一を阻む最大の障害は台湾軍ではなく日米安全保障条約です。特に台湾に近接した第一列島線上に在り、在日米軍基地という巨大な兵站・指揮統制能力を提供する日本の存在が不確実要素となっております。

 そのため現在の中国の対日戦略の核心は、日米安保体制の強化を阻止するとともに、弱体化させて有事における台湾支援を阻止・遅延させることにあります。そしてこのアプローチには「日中相互不信のメカニズム」シリーズで論じた反日の深層や、親中派を追い詰める対中外交の真実とも深く結びついております[12],[13]。

 まず中国共産党が歴史問題を常態的に持ち出し、日本非難を繰り返す「反日」と台湾有事との関係を掘り下げてみましょう。「反日の深層」では共産党権力の維持やイデオロギーの事情があると論じましたが、対日政策としては次の効果も狙っております。

1.政治的威圧の免罪符:日本に侵略の贖罪意識とともに、「中国に逆らってはいけない」という従属意識を植え付けます。それを象徴させる出来事として挙げられるのが、2024年5月21日の呉江浩駐日大使による「(日本の)民衆が火の中に連れ込まれる」発言です[14]。この野蛮な発言にも関わらず、居合わせていた鳩山由紀夫氏は抗議一つしませんでした。

2.外交的レバレッジとしての活用:過去の「歴史問題」を道徳的優位性として活用することで、第三国との価値観の共有と連携を強め、中国に対抗しようとする日本をけん制します。具体的な例として挙げられるのは、2025年5月8日にモスクワで開かれた中露首脳会談で、日本に対し「歴史問題で現行慎め」という主張が共同宣言に盛り込まれたことです[15]。

 このように中国は歴史問題を利用した反日レバレッジを最大限活用し、日本を政治的に威嚇し、外交的圧力をかけることで自律的な政策を抑制させます。日米安保体制は「矛と盾」の関係で成り立っているので、「盾」である日本を無力化させれば日米安保は弱体化し、有事における作戦で中国軍は優位に立つことができるのです。

親中派が担う「中立思想」の流布と世論戦

 次に親中派と台湾有事の関係について分析してみましょう。例えば序論の最後に触れた古賀氏の「中立論」は、日本の平和主義の変質に警鐘を鳴らし、「抑止力の論理」や「アメリカ=善、中国=悪の二元論」、「台湾有事=日本有事」や「日米安保=命」を国民に刷り込まれた洗脳と断定しています。そしてCSISのシミュレーション結果を引き合いに出して日本が完全中立を守れば中国軍が勝つため、台湾は独立を諦めるから戦争は起きないと論じております[6]。第1章で述べた通りこれはあまりに楽観的かつ独善的な主張であることは言うまでもありません。

 こうした日本国内の親中派の論調を見ると、彼らが既に中国の戦略に組み込まれている実態が改めて伺い知れます。というのも中国側から見れば、日本の親中派は「友好」の名の下に、中国の国益を代弁してくれる極めて有用な道具だからです。

 例えば親中派を追い詰める対中外交の真実では米中のバランス政策を是としてきた親中派が追い詰められる様を論じたのですが[13]、そもそも彼らが追い詰められるのは、自分たちが長年、日中友好のために尽くしてきた努力を否定できない「心理的な負い目」があるからです。それは中国側からすれば、いざという時に日本を動けなくさせる「トラップ(罠)」として利用できることを意味します。

 一方で親中勢力には古賀氏のように、政府中枢にいる人たちと違って安全保障の現実から目をそらし、外部から言いたい放題に批評できる人も多く存在します。今後、中国が期待しているのは彼らが「日本は中立を表明すべき」「対米従属から脱却せよ」という主張を世論に訴えかけることです。この勇ましく、一見日本を自立させるかに見えるこの主張が世論に支持されれば、日米同盟を強化する政府にとって圧力になります。その結果、意思決定が遅れたり、米軍への基地提供を制限する決断を下させられれば、中国の軍事活動は極めて有利になります。

 これぞ中国が得意とする世論戦心理戦の最たるものです。古賀氏は日本国民が洗脳されていると主張しますが、彼こそ「中国=善、アメリカ=悪」の二元論にはまっており、日本が超然とした平和主義を必ず守らなければならないという思い込みに囚われています。それは結果的に彼が意図するしないにかかわらず、中国の対日戦略の「」として、最も重要な役割を演じることになるのです。

自発的に分断工作に加担する親中勢力

 親中派が中国の国益にかなうもう一つの行動として「分断」があります。地政学と戦略思想が暴く日中関係の真実で取り上げたように、分断工作は中国の戦略思想である毛沢東思想の得意分野です[11]。習近平政権も国際社会では欧州との独自外交で西側の分断を図る戦略をとっています。

 分断の動きは日本国内でも明確に現れました。その一例こそ、2025年10月10日、公明党が26年間続いた自民との連立解消です。その背景は「自民党の裏金問題や企業献金問題」ということになっていますが、真相は4日に新総裁となった高市氏の対中姿勢にあるのではないかと別記事で考察しました[16],[17]。斎藤代表は中国との関係を否定していますが、6日に中国大使と会談しており、高市氏の話題が出たことが示唆されています[18]。

 こうした政治の分断は台湾でも見られており、頼清徳政権の対中姿勢をめぐる対立は先鋭化を増しております。特に立法院では野党の国民党が与党の民進党を上回るねじれ状態になっており、7月に国民党委員24名に対するリコール投票が行われたものの、全面否決となってしまっております[19]。

 ここで公明党と国民党で共通しているのは、あくまで中国の直接的指示を受けていないということです。彼らは中国への融和姿勢が国益と地域の平和になると考えており、ここに党利党略と政局が加わることで、自発的に分断を深める行動へ向かうのです。民主主義体制において、政治の分断は政策の遅れをもたらすため、やはり中国に利する戦略的な「駒」としての役割を演じることになります。

これから激しさを増す「認知戦」

 これまでの分析で明確なのは、意図するしないにかかわらず、親中派が国内において中国に利する重要な役目を担っているということです。こうした構造は一朝一夕で作られたものではなく、国境をこえた経済協力、文化交流を経て形成されたものです。一般的に経済関係の深化と文化交流は二か国間の相互理解を深め、対立の解消をもたらしますが、対中関係の場合に限っては逆に不信感を高め、こちらが分断を深める皮肉な結果となっております。

 それは中国側の特異な統制システムに原因があります。中国国内では民間の動きはすべて共産党の統制下にあるため、党に都合の悪い言動はすべて封じられております。すなわち、日本への融和を訴える勢力は存在しません。この非対称状態があるからこそ、中国政府は強硬姿勢を続けることができ、軍事力拡大を一方的に行うことができます。

 今後、中国政府の政策が変わる可能性は低いので、現在日本で起こっている「中立論」や「分断」は一層激しさを増すことが予想されます。公明党の件で明らかなように、親中派にとって高市氏は日中友好のために排除すべき敵であり、ここに自称リベラル派も加わって政治的な攻撃が繰り広げられるでしょう。そして「平和主義を守れ」「対米従属を脱却せよ」と主張して、防衛力強化や日米同盟の強化にも反対します。有事が起こればシーレーンが閉ざされて経済が麻痺するにも関わらず、です。

 つまり中国の対日戦略において、日本は既に軍事的な「敵」としてだけでなく、外交戦と認知戦を繰り広げる「戦場」として扱われております。いかに親中派日中友好を謳ったとしても、それは変わりません。中国が理想とする日本の役割は「役立たずで無能な敵」になることであり、それが戦略の核心となっているのです。

日本が突きつけられる究極の選択

 これまでの議論を通して、私たちの国は二つの残酷な現実を突きつけられています。一つは、日本が台湾有事に無縁でいられない宿命であり、国民の生命線に直結しているという現実。もう一つが、日本国内の「中立論」や親中派の言動が、意図せず中国の戦略に組み込まれている現実です。

 すなわち、日本が台湾問題を「対岸の火事」として傍観し、「完全な中立」を保つという選択肢は存在せず、あるのは中国の意のままに台湾攻略に協力する「無能な敵」としての役割です。そしてその後はますます軍事的勢力圏を広げる彼らを前に立ち尽くすのみとなります。

 中立が許されないなら、日本はどうすればいいでしょうか?古賀氏や親中派を突き動かしている「対米追従への反抗心」には、自国主権への強い希求が含まれています。それは中国の影響力拡大を脅威と見なす保守派や親米派にも言えることです。つまり対立している両者には一致点があります。

 しかし今目の前にある道は、中国の駒になる道か、アメリカの駒になる道しかありません。どちらを選べばいいでしょうか?正解は「アメリ」です。それは自由と民主主義という価値観が合うからというだけでなく、大局的にアメリカは影響力を失っていく「衰退期」にあるからです[20],[21]。それに乗じて少しずつ「普通の国」になることが、自立国家になれる唯一の道です。

日本が直面する三つの選択

 それはさておき、台湾有事において日本が直面している選択肢は、是か非の二元論ではなく、協力の「範囲」「深さ」「タイミング」をめぐる複雑で重い「三つの選択」です。台湾への思いを込めて全面的な支援をすれば中国からの報復も激しくなりますし、一方で中国に気を使いぞんざいな協力に留めると「身勝手な味方」の烙印を押され、日台関係どころか日米関係にもヒビが入ります。

 ここからは日本に突きつけられる究極の選択について具体的に論じ、日本政府、そして国民がどのような覚悟と判断をすべきか考察していきます。台湾有事における日本の行動は、以下の三つの選択肢に集約されます。

1.選択肢A:全面的な協力:日米同盟の下、米軍への基地提供と後方支援、現行法の許す限りの共同作戦、および台湾への直接・間接的な支援を行う。

2.選択肢B:限定的な協力:米軍への基地提供と後方支援は行うものの、中国の反発を最小限に抑えるため、協力の範囲や自衛隊の行動を厳しく制限し、表立った台湾支援も控える。

3.選択肢C:非協力(実質的な中立):中立表明こそしないが、中国の意向を酌んで外交的に沈黙する。親中派や中立派の意見を尊重し、台湾支援はせず、後方支援もサボタージュする。

 選択肢Cは中国の求める「無能な敵」であるため、日本が取るべき行動は選択肢AとBの間のどこかを探ることになります。しかしこの両者の境界は曖昧で、政治的にも激しい議論を生むことでしょう。下手をすれば平行線のまま有事を迎える羽目にもなりかねません。

 この難題について、台湾有事の最も現実的なシナリオである「封鎖作戦」への対応から考えてみましょう。

封鎖作戦への備えと日本の役割

 大規模な武力攻撃と上陸作戦を伴う本格的な台湾侵攻は、台湾の抵抗だけでなく、国際的な非難と大規模な制裁を招くリスクがあるため、中国が最初に取りうる行動は、序論で言及した、軍事と準軍事を組み合わせた「封鎖作戦(台湾の隔離)」である可能性が高いです。

これは台湾周辺のシーレーンを中国軍の演習や、海警局と海上民兵による臨検で「準封鎖」状態にし、台湾経済を困窮させ、国民の精神的抵抗意志を挫くことも主眼としています。そしてこの「封鎖作戦」こそ、日本が最も早く、かつ深く巻き込まれるシナリオとなります。このシナリオで求められる対応は以下のようになります。

1.経済的・人道危機への対応

 中国が台湾周辺のシーレーンを準封鎖状態に置けば、日本行きの船舶の航行も影響を受け、日本の大動脈が寸断の危機に瀕します。この危機に対応するため、日本は以下の準備を緊急に行う必要があります。

人道回廊の確保と邦人・住民退避  約2万人もの台湾在留邦人の緊急退避が必要になります。中国の軍事演習や封鎖によって空路や航路が閉ざされる中、自衛隊機や民間機による輸送をどのタイミングで、どのルートで行うかの具体的な計画が不可欠です。また不測の事態に備えて、与那国島など台湾に近い離島の住民避難計画も必要になります。

代替航路と備蓄拠点確保  閉ざされたバシー海峡を迂回する航路の確保が必要になります。バシー海峡及び南シナ海の通過が困難な場合、フィリピンの東側を通過しインドネシア南部のロンボク海峡やスンダ海峡を経由する航路が考えられるので両国との連携が不可欠です[22]。また迂回に伴う経済損失に対応する他、物資不足に陥った時に活用できる備蓄拠点の整備も必要となります。

2.グレーゾーン戦術への「法執行」的対応

 封鎖作戦の特徴は、軍事行動ではなく「法執行」の名の下で実行されることです。中国海警局による日本のEEZ内での活動や、中国民間船による妨害活動に対して、自衛隊ではなく海上保安庁(JCG)が対応の最前線に立つことになります。

海保の能力強化  中国海警局は2018年の組織改革で中央軍事委員会の武装警察の隷下となっており、大型艦艇を就航させるなど事実上の第二海軍となっております。そのような組織を相手に、海上保安庁国際法に基づき毅然と対応できる能力を持たなければなりません。

海自・同盟国との連携強化  より切れ目のない対応を可能にするために海保は自衛隊との連携も強化すべきです。また米沿岸警備隊(USCG)との情報共有や共同訓練を常態化させ、「法執行」の顔を持つ中国のグレーゾーン戦術に国際的な「法の支配」で対抗する必要があります。

3.台湾との連携

 1,2までは日本の自衛的措置が中心ですが、それでも中国は日米同盟を介した台湾支援を警戒し、圧力をかけてくるでしょう。ここで日本が選択肢B(限定的な協力)に偏重し、米軍との協力を制限したり、曖昧な態度を取ったりすれば、中国への抑止力にならないばかりか、「身勝手な味方」として米台からの信頼を失い、その後の国際秩序での立場を危うくすることになります。そのため、次のような対応が最低限必要になります。

議員交流と民間交流  日本と台湾は正式な国交がありませんが、日華議員懇談会による交流は継続されています。これを強化するとともに、民間レベルでの交流も深化させれば、国民にとって台湾が身近に感じられ、有事の危機に対応するコンセンサスも得やすくなります。

日台CG合同訓練  海保はUSCGとの連携に並行して台湾海巡署(CGA)と連携し合同訓練することが必要です。実は既にこの動きは始まって[23]おり、これによって日本EZZからバシー海峡までの切れ目のない対応が可能になります。

次回は中国が武力行使に踏み切った時に起こる究極のジレンマ、すなわち日米同盟の枠内で実施される日本の協力と「防衛の限界」について考察します。

参考情報(※は過去記事) [1]:中国の軍事演習で海上民兵の連携が深化 国基研が分析、海上封鎖はシーレーンにまで拡大,産経新聞,2025.4.25.,https://www.sankei.com/article/20250425-MHNYYYKLSBKVNPGQKNZPKE6TJQ/

[2]:防衛省,中国の台湾周辺における軍事演習について(令和7年4月),https://www.mod.go.jp/j/surround/pdf/ch_exchange_202409.pdf

[3]:※台湾問題について考える(1), https://hatoyabu.hatenadiary.jp/entry/2024/06/03/205326

[4]:※台湾問題について考える(2)https://hatoyabu.hatenadiary.jp/entry/2024/06/10/021716

[5]:※台湾問題について考える(3)https://hatoyabu.hatenadiary.jp/entry/2024/06/10/025614

[6]:古賀茂明,習近平国家主席石破茂首相は「第5の日中間の重要文書」を作成せよ! 日本は台湾有事に際して完全中立を守り抜こう,AERAデジタル,2025.8.19., https://dot.asahi.com/articles/-/263184?page=1

[7]:日本の概況品目別・国別輸出額 (2024 年),アセットマネジメント・コンサルティング株式会社,2025.2.2.,https://www.am-consulting.co.jp/amc_pdf/econ-mini-ministry-of-finance-trade-statistics-2024-export.pdf

[8]:野嶋剛,〈忘れられた戦没者〉「輸送船の墓場」と言われたバシー海峡、なぜ日本兵にはこんなにも「海没死」が多いのか?,Wefgeオンライン,2025.8.15.,https://wedge.ismedia.jp/articles/-/38565

[9]:沖縄など南西地域で中国艦艇の活動が活発化 中谷防衛相「強い危機感」,産経新聞,2025.2.14.,https://www.sankei.com/article/20250214-I3NCENGEX5JVVCHODSOSGMVAUQ/

[10]Mark F. Cancian他,The First Battle of the Next War‐Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan‐,Center for Strategic and International Studies (CSIS),2023.1.,https://www.csis.org/analysis/first-battle-next-war-wargaming-chinese-invasion-taiwan

[11]:※日中相互不信のメカニズム(2):地政学と戦略思想が暴く日中関係の真実,https://hatoyabu.hatenadiary.jp/entry/2025/09/09/210711

[12]:※日中相互不信のメカニズム(1):反日の深層, https://hatoyabu.hatenadiary.jp/entry/2025/09/09/210711

[13]:※日中相互不信のメカニズム(3):親中派を追い詰める対中外交の真実,https://hatoyabu.hatenadiary.jp/entry/2025/09/21/074048

[14]:中国大使の「日本の民衆が火の中に」発言に鳩山元首相「基本的に同意する」,産経新聞電子版, 2024.5.21.,https://www.sankei.com/article/20240521-46IYWPVPPBLHTIWKZLOYJ5NEYA/

[15]:中露首脳、日本に「歴史問題で言動慎め」共同声明で要求 林長官「他国批判に興じるな」,産経新聞,2025.5.10., https://www.sankei.com/article/20250510-MBU3KRNDJ5PLLJ7MQP3ZP3G43E/

[16]:※公明党連立離脱の真相考察,https://note.com/hatoyabu/n/n9ed0f02a82eb

[17]:※公明党連立離脱の真相再考察,https://note.com/hatoyabu/n/n786aa9925060

[18]:連立離脱直前に中国大使と面会の公明党・斉藤代表、高市氏についての内容は「そ、それは、あのー…控えさせて」,よろずーニュース,2025.10.12.,https://yorozoonews.jp/

[19]:台湾のリコール投票は国民党「全面勝利」 中国の浸透工作進展も 小笠原欣幸・清華大教授,産経新聞,2025.7.26.,https://www.sankei.com/article/20250726-45KJCEHUOZMCRBMML23ZKG653A/

[20]:※オバマ・トランプ・バイデン3代政権が飾る超大国の終焉(1),https://note.com/hatoyabu/n/n025affbeec7c

[21]:※オバマ・トランプ・バイデン3代政権が飾る超大国の終焉(2),https://note.com/hatoyabu/n/n610d051d3f7e

[22]:台湾有事発生で南シナ海シーレーン途絶も、重要となるインドネシアとの関係強化,実業之日本フォーラム,2025.7.15.,https://forum.j-n.co.jp/narrative/8445/

[23]:日本と台湾の海保、合同訓練を定例化へ…今年6月に先島諸島沖に大型巡視船を派遣,読売新聞,2025.10.3.,https://www.yomiuri.co.jp/national/20251002-OYT1T50199/

(本文の執筆にはGoogle Geminiの協力を得ています。図2~5はGoogle Earth を使用し著者が作成) (10/27 与那国島と台湾の位置がわかるように図3を差し替え。尖閣諸島への言及を補足) (10/29 「台湾国民党」の記述を「国民党」へ変更。正式名称は中国国民党であるため)