皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。前回は台湾問題と日本の関係について取り上げました。当初はあそこまで強い警鐘とメッセージを込めた内容にするつもりはなかったのですが、中国が台湾を攻略(非軍事も含む)するシナリオ、同国の長期戦略、日本への認知戦とその効果などを統合して考えた結果、あのような形となりました。今回はさらに厳しい懸念点を伝えることになります。杞憂であることを祈っています。
真の日米黄金時代か、それとも?
2025年10月28日、高市早苗新首相とドナルド・トランプ米大統領による日米首脳会談が開かれました。高市氏がレッドカーペットでトランプ氏を迎え、「日米黄金時代」の合意文章に署名するとともに、アメリカの力の象徴たる原子力空母「ジョージ・ワシントン」で演説する様は日米の結束を内外に示すインパクトがありました。日本史上初の女性宰相であることも大きなアドバンテージとなっております。
「共同声明なし」の背景に米中首脳会談
国内メディアの多くが「日米同盟の深化」を評価する一方で、批判する声もあります。自称リベラルや反米左翼はいつものこととして、興味深い視点を提供したのが、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏です。彼は同会談で共同声明が出ていないことを問題視し、「歴代最低の日米首脳会談だろう。かつてなくお粗末だ」と酷評しております[1]。
佐藤氏とは世界観(主にロシア関係で)が合いませんが、「共同声明がなかった」という指摘は重要です。彼は外務省の不努力と指摘しますが、トランプ政権側の強い意向による可能性も考えられます。というのも、2日後に米中首脳会談が開かれて、米中間の対立が一時的に緩和されたからです。日米の共同声明には、「尖閣の安保5条適応」など、中国に都合の悪い内容が多く盛り込まれています。トランプ氏としては、交渉前から中国の機嫌を損ねたくない思惑があったかもしれないのです。
それが功を奏したのか、米中首脳会談ではトランプ氏と習近平国家主席が始終友好な雰囲気で対話し、米中の懸案だった関税戦争やレアアース規制問題が一時的に停戦・猶予される結果となりました。報道や識者によって「トランプ氏の勝利」「習近平氏の勝利」と評価が分かれる中において、これまで両国の最大の懸案であった「台湾問題」についての言及が一切なかったことが憶測を呼びます。
台湾危機は「去った」という早合点
中国問題グローバル研究所の遠藤誉氏は、トランプ氏が「中国を倒すのではなく、協力することでアメリカは強くなる」と発言したことを歓迎し、「これで戦争は避けられる」とまで断言しております[2]。拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏は、トランプ氏が台湾を交渉カードにする可能性を指摘し、「“台湾有事は日本有事”が宙に浮くのでは?」と予想しております3。
果たしてそうでしょうか?彼らは重大な視点を見逃しているのではないでしょうか?「予測不能」と呼ばれるトランプ氏ですが、彼の外交の本質は、常に「アメリカ・ファースト(自国第一主義)」であり、彼自身とアメリカに最大限の利益をもたらす「ディール(取引)」を行うことです。筆者はトランプ氏が一期目に行った「対中政策の大転換」や「安倍路線の日米共有化」を高く評価しているため、あまり事を荒立てる憶測を言うのを控えていました。しかし、ウクライナ問題で欧州にウクライナ支援のコストを押し付けたように、台湾問題における外交的・軍事的コストを日本に押し付ける可能性を密かに懸念していたのです。
そして今回の日米・米中首脳会談、2月の石破前政権下での日米首脳会談、高市政権の発足という一連のパズルを組み合わせた結果、その懸念が非常に現実味を帯びているという結論に至ることになります。今回のエッセイでは、トランプ政権が台湾問題を事実上日本に押し付ける戦略のメカニズムについて解説していきます。ぜひ最後までお付き合いください。
トランプ氏の対中戦略の本質
まずはトランプ氏の対中戦略について分析してみましょう。彼の対中姿勢は複雑で、識者によって解釈が異なり、米国専門家(古森義久)なら「対中強硬派」、中国専門家(遠藤氏)なら「対中融和派」と映ります。その背景はトランプ氏の言動の不一致が影響しております。
トランプ氏の強硬面と融和面
一つはマルコ・ルビオ氏のような対中強硬派を布陣に加え、半導体や人工知能(AI)といった先端技術分野で中国とのデカップリング(切り離し)を推進する強硬面です。一期目の時も当時副大統領だったマイク・ペンス氏や、国務長官だったマイク・ポンペオ氏がそれぞれ中国非難を行い、従来の関与政策からの転換を宣言させています。
しかしもう一つはトランプ自身がことあるごとに「私は中国が好き」と発言するパーソナリティーと、ツートップでの取引(ディール)を優先する融和面です。彼は過去に習近平国家主席と「馬が合う」と発言しており、香港の民主化デモが起こった時も、議会から上がってきた人権法は通すものの、中国当局の強硬な対応にも理解を示すなど、煮え切らない態度をとってきました。
また台湾に関しても言動が一貫しない傾向にあります。一期目の時は台湾旅行法や台湾保障法など、支援を強化するアプローチをとっていました。しかし二期目では一転して「台湾がアメリカから半導体産業を奪った」と発言し、高い関税を課すとともに多額の防衛費を負担するように圧力をかけております。
アメリカ・ファーストでひも解く「二面性」
これらの不一致性はトランプ氏の「予測不能」を体現する一例でもありますが、彼の心情である「アメリカ・ファースト」を念頭に考えれば、一定の理解が可能になります。すなわち次のように解析することができます。
・中国は技術的・地政学的競争相手である(強硬面)
これは過去に書いた米中世界覇権戦争を理解しようで解説したように、米中間で技術競争が始まり、地政学的な覇権競争に発展している背景に基づきます。トランプ氏もこれを理解しており、むざむざ中国に覇権を握らせるつもりはないため、それが日米同盟や「台湾周辺海域の安定」へのコミットメントとして表れております。
・習主席との友人関係と巨大市場の魅力(融和面)
これはトランプ氏が発言する「私は中国が好き」や「(習近平氏と)馬が合う」という発言の背景です。自己顕示欲の強い彼は権威主義国の指導者と友人でいることを自慢し、自分が特別な人間であることを誇りに思っています。そしてアメリカの国内産業や投資家にとって、14億人もの巨大市場は捨てがたい魅力です。
トランプ氏が特に重視しているのは対外貿易赤字の解消で、米中貿易戦争が始まった原因であり、前述の技術競争・覇権競争に発展した要因でもあります。その一方で批判の対象は台湾、日本などにも向けられており、「台湾がアメリカから半導体産業を奪った」という発言はその表れです。
・ディール外交の魅力(融和面)
トランプ氏が好むのは国家指導者同士でのツートップ対話を通した取引(ディール)外交です。これは国家間の外交において、彼自身が外交的成果を出したことを示すことで、さらなる自己顕示欲を満たすことができるからです。
以上のことから、トランプ氏は台湾問題を安全保障上重視しながらも、中国市場へのアクセスの継続を希求しつつ、貿易赤字を解消させるための交渉カードとしても活用したいという、リスキーかつ矛盾した動機を持っていたことがわかります。
関税戦争「敗北」からの「切り札」
二期目からより激しさを増した米中貿易戦争ですが、その顛末がトランプ氏をディール外交へ傾倒させた可能性があります。彼が中国に高い関税をかけたのに対し、中国側は対抗関税やレアアース輸出規制で反撃したのです。特にレアアースは中国が圧倒的世界シェアを占めるため、これを規制されるとアメリカの軍事ハイテク産業は立ち行かなくなります。関税合戦自体もアメリカ国内の物価高を深刻化させ、トランプ政権を追い詰めます。
こうした事情からトランプ氏は最大の外交レバレッジとして隠し持っていた「台湾カード」を切らざるを得なかったと考えられます。しかし、ウクライナと違い、台湾はアメリカにとって歴史的関係が深い上に、地政学的にも重要です。ストレートに見捨てようとすれば、国内外の反発により政権さえも危うくなる危険があります。
ならどうすればいいのか?それこそ「話題にしない」ことが、中国への隠れたメッセージになります。中国政府としては、アメリカ側から「台湾独立に反対する」という発言を引き出すのは確かに重要です。しかし、その本質は台湾問題について沈黙させることなので、話題にしないだけでも十分な成果なのです。
またホワイトハウスのホームページに掲載された米中首脳会談の写真の中に、トランプ氏がハガキ大サイズの紙を見せて、習主席らを大笑いさせている場面があります[4]。普通に予想すれば両氏が初めて会談した思い出の写真か、最近流行りとなっている自身の画像生成コラージュ[5]かと思われます。
しかし、もしも仮に、4月の中国軍の演習で東部戦区が公表したような「頼清徳総統を揶揄したAI風刺画[6]」だった場合、より強力なメッセージとなります。中国政府の現在の台湾攻略作戦の主軸は「頼総統の排除」なので、それを「好きにしろ」と伝えられれば、大喜びするのは間違いないでしょう。
二つの日米首脳会談に隠れた「押し付け」戦略
台湾について「話題にしない」ことで、米中両国関係の緊張を解いたトランプ氏ですが、それだけではまだ「妥協した大統領」という烙印を押されるリスクがあります。「強い指導者」を志向している彼にとって、それは何としても避けたいことです。中国の増長も抑える必要もあります。
米中首脳会談後の11月2日、米CBSニュースの報道番組「60ミニッツ」のインタビューにてトランプ氏は、中国の習近平国家主席は人民解放軍が台湾に侵攻しようとすれば「何が起こるかを理解している」と発言し、自身の任期中に台湾有事は起こらないと主張しました[7]。この発言に筆者は「自身が大統領ならウクライナ戦争は起こらなかった」という発言を思い出しました。なおトランプ氏が続投していた場合、ウクライナ戦争は防げたかについては過去記事で検証しております。
ではトランプ氏ははったりを仕掛けたのでしょうか?いいえ、彼には大きな「手札」がありました。それは我が国「日本」です。ここからは2月7日に行われた日米首脳会談から今回の首脳会談に至るまでに、巧みに仕込まれた「押し付け戦略」について、解明していきましょう。
「外交責任」という頸木をかけられた石破政権
2024年10月に首相に主任した石破茂氏は長年の悲願を達成した余韻に浸る暇もなく、外交上の試練に直面しました。アメリカの次期大統領にトランプ氏が選出されたのです。トランプ氏が故安倍晋三元首相と親しくしていたことは有名で、「党内野党」として安倍政権を批判してきた石破氏としては、うまく関係を築けるかが課題となっていました。
苦節4か月、安倍昭恵夫人の助力もあって、ようやく2月7日に日米首脳会談が開かれます。「日米の黄金時代」という華々しいスローガンも掲げられ、石破氏は「予測不能」なトランプ氏から見事「日米同盟の強化」と「安保5条の尖閣適応」を勝ち取った……と、考える方が少なくありません。これに関する考察については金メッキの日米黄金時代で書きましたが、要はトランプ氏が石破氏に「政敵の政策(安倍路線)」を自発的に継承させたのが実態です。
そして過去記事でも言及しているように、共同声明では中国の南シナ海・東シナ海での軍事的威圧行為を批判し、台湾海峡について力を背景にした現状変更に反対、そして台湾の国際機関への参加を支持することで合意しました。つい3か月前にペルーで石破氏が習主席と会談した際に、日本は台湾問題に関して「一つの中国」を堅持すると共に、(アメリカによる)挑発に日中共同で対抗すると約束していたにも関わらずです[8]。当然、中国政府は烈火のごとく怒って抗議し、石破氏の対中外交は事実上暗礁に乗り上げることになります。
つまり全体を俯瞰してみれば、トランプ氏は日本の対米安保依存と、石破氏の政治的な「負い目」を最大限活用したことがわかります。会談中、彼はことあるごとに「シンゾウ」を連呼し、「安倍政権の成果」を石破氏に認めさせています[9]。そして「安倍路線の継承」と「台湾支持」を外交責任という名の「頸木」として石破政権にかけ、中国への融和外交路線を実質的に封じたのです。
そして4月から始まった関税交渉では、容赦なく圧力をかけて80兆円もの対米投資を約束させます。しかも「日本の合意履行に不満があれば25%関税」という圧倒的な外交レバレッジも確保し、赤字貿易解消のための経済的負担を固定化しました[10]。9月に石破氏が辞意表明した時に、トランプ氏が「好きだった」と言ったのは、単に「扱いやすかった」からでしょう。
「安倍の継承者」たる高市政権を大歓迎
10月の総裁選の結果、高市早苗氏が総裁に就任し、公明党が離脱するトラブルに見舞われながらも首相就任に漕ぎつけました。欧米では日本が「ガラスの天井を破った」と大いに話題になります。
トランプ氏も高市氏の首相就任を歓迎しました。彼はヒラリー・クリントン氏やカマラ・ハリス氏を抑えた「ガラスの天井側」ですが、女性が指導者になること自体を嫌っているわけではありません。何より彼にとって最大の関心事は高市氏が「安倍氏の継承者[11]」を自任していること、そして親台湾・対中強硬派であることでした。
高市氏は首相就任時から日本の防衛力強化を積極的に宣言し、新たな連立相手である維新と連携して具体的な方針まで決めます。2025年内でのGDP比2%の防衛費引き上げを表明し、国家安全保障戦略など安保関連3文書を前倒しで改定することを目指します[12]。他にもVLS搭載潜水艦を含めたスタンドオフ防衛の整備、防衛装備移転三原則の見直しなど、盛りだくさんです。
また総裁就任間もなく頼総統に「親書」を送る[13]など、台湾との関係構築にも積極的です(おかげで公明党に連立を離脱されました)。韓国で開かれたAPECでは台湾代表とも会談しており、その様子をSNSで発信し、中国から抗議されております[14]。
こうした石破政権から高市政権への「受け手の変化」はトランプ氏にとって、この上ない「追い風」になったはずです。何しろアメリカ側が何も要求しなくても、台湾防衛における日本の役割に自発的に踏み込んでくれるからです。首脳会談で共同声明が出されなかったのも、石破氏のように「頸木」をかける必要がなかったからとも言えます。
そしてレアアースのサプライチェーン再構築の協力に合意したことも大きいです[15]。かつて民主党政権の時に、日本は中国からレアアース輸出規制をかけられて以降、資源のリサイクルやレアアース依存を減らす試みで対抗した経緯があります。日本の協力を取り付けることで、トランプ氏は中国が持つ外交レバレッジを相対的に弱体化させたのです。
米中協力表明でコスト転嫁完了
以上のように、トランプ氏は日本の石破・高市両政権から、貿易赤字解消の経済的代償と、台湾をめぐる外交的・軍事的責任のコスト負担を引き出し、有利な交渉ができる環境を整えて米中首脳会談に挑みました。結果、台湾問題を話題にせず、中国側が望む「外交的沈黙」を守ることで、レアアース規制の停止や米国産穀物輸入増加という、アメリカの国益に直結する「経済的勝利」を手に入れたのです。
トランプ氏の外交スタイルは、相手に大きな要求を突き付けてショックを与え、譲歩を迫るゼロサムゲームに基づいています。しかし一方で相手が非常にタフな場合は、慎重に動く側面もあるのです。この一連の経緯も見ても、彼が最初から中国と取引するために、周到に動いていたことは明らかです。政権内を対中強硬派で固めたのも、実務的な強硬政策を部下に任せ、自分は融和的姿勢を維持する意図があったと考えれば、辻褄が合います。
本エッセイで度々引用させていただいている、中国問題グローバル研究所の遠藤誉氏は、中国を非難しながらもアメリカの狡猾さを警戒しています。特にバイデン政権時においてはウクライナ戦争の背後にアメリカが関わっていると主張し、同じシナリオで台湾有事を引き起こし、日本にコストを払わさせようとしていると警戒しておりました[16]。
トランプ氏とバイデン氏は政治思想は正反対ですが、国際社会におけるアメリカの軍事的負担を減らし、同盟国に肩代わりさせるという点においては一致しております。米中協力が再構築されたところで、両国の技術的・地政学的競争がなくなったわけではありません。トランプ政権は何食わぬ顔で、日本の防衛力強化と台湾へのコミットメントを支持し続けるでしょう。それは米国製兵器を購入させるビジネスチャンスでもあるからです。
「日本が台湾を守り、その日本をアメリカが守る」この構図なら台湾関係法を棄損したことにはなりません。そして台湾問題の一線から退いたアメリカが中国と友好的に取引し、利益を得るという「良いとこ取り」ができるようになります。かつて日本の親中派が志向した「軍事はアメリカ、経済は中国」を逆手に取られたのです。
向き合うべき日本の「宿命」
以上がトランプ政権の掲げる「アメリカ・ファースト」を起点として、2月と10月の日米首脳会談、そして米中首脳会談の結果をもとに導き出した結論です。トランプ氏の外交戦略は、高市政権の政治姿勢というパズルのピースと完全に嵌りあったことで結実し、台湾問題をめぐる米中の緊張を解くとともに、その外交的・軍事的コストを日本に支払わせる流れを作りました。これは日本と高市政権に大きな試練を与えるものです。
宿命を背負う高市氏
現在の中国の台湾攻略の主軸は「頼清徳総統の排除」であり、軍事圧力や政治的圧力、認知戦による世論の分断を仕掛けている状態です。台湾問題の一線からアメリカが手を引くとなれば、それらはより一層苛烈なものとなり、台湾を政治危機に陥れ、中国に融和的な政権にすげ替えるシナリオがより現実味を帯びます。
当然、それに関与しようとする高市政権も同様の攻撃に晒されることになります。すでに筆者は台湾有事は日本の宿命(1)で台湾が日本にとって経済的・地政学的に無関係でいられないことを指摘し、(2)で台湾支援に伴うリスクやコストについて解説しております。特に防衛力強化については「軍国主義の復活」というレッテルを張られ、平和活動家や護憲団体の総攻撃を受けることになるでしょう。自称リベラルと保守の対立や親中と嫌中の分断も激しくなり、深刻な社会問題と化すかもしれません。沖縄の反基地活動も活発化することでしょう。
すでにリベラルを標榜する界隈では高市氏への徹底した攻撃が始まっております。テレビジャーナリストの田原総一朗氏は野党の女性議員への「助言」として、「あんなやつ(高市氏)は死んでしまえと言えばいい」と暴言を吐きました[17]。日本共産党の池内沙織元衆院議員はトランプ氏を迎える高市氏について「現地妻」と揶揄したコメントを投稿しました[18]。これらの根拠なき理不尽な個人攻撃は、大局面において中国による日本への「認知戦」の一角として、今後より強化される可能性があります。
高市氏じゃなくても同じ
では仮に高市氏が首相にならなかったら、この事態は避けられたのでしょうか?残念ながら、石破氏が続投していたとしても、小泉進次郎氏が対中融和首相として引き継いでも、大きな違いはなかったと考えられます。
まず石破氏は2月の共同声明で「安倍路線」と「台湾支持」という外交責任を既に負っている状態です。上半期は参議院選を理由に防衛協議を延期できましたが、もう先延ばしにできる状況ではありません。実際、水面下では防衛費GDP比3.5%への増加を要求されていました[19]。日米関係の信頼を維持するために、10月の会談で石破氏は防衛費増加を約束せざるを得なかったでしょう。そしてトランプ氏の「台湾棚上げ」のディール外交は、アメリカの内政判断ですので、日本の事情に関係なく進められます。
一方、小泉氏が首相になった場合も、トランプ氏から石破氏と同じ外交責任を負うように圧力が加えられた可能性が高いです。仮に小泉氏がそれを突っぱねて「安倍路線脱却」と「対中融和」を強行させた場合、トランプ氏は「日本の不作為」を非難して、中国とより融和的なディール外交に突き進み、これを正当化しようとするでしょう。そして慌てて信頼を取り戻そうとする日本政府に対し、さらなる対米投資や防衛費増額を要求します。結果、小泉政権(仮)はより屈辱的な形で合意を結ばされ、短命で崩壊するかもしれません。
なぜこうなるのかというと、過去記事でも繰り返し述べていることですが、日中の戦略的互恵関係に陰りが見えているからです。かつては中国が安い人材と巨大市場を提供し、日本が技術や投資を提供することでウィンウィンの関係を構築してきました。しかし中国が超大国になって高度経済成長期も終わったことで立場が逆転し、中国の躍進した製造業(例:BYD)に日本メーカーが脅かされ、中国人富裕層が日本の土地を買い漁っています。
それらは結果的に日中相互依存のバランスを崩し、中国に依存する日本という従属的構造を作り出しました。中国の長期目標は第一列島戦と第二列島戦の突破と米軍排除なので、これを利用して日米離間をさせようと政治的・軍事的圧力をかけてきます。これに抵抗するためには日米同盟を強化するしかなく、最終的に同盟国であるアメリカにも大きな外交的レバレッジを与えることになるのです。
「宿命」を逆手に取る日本
今回の件のようにアメリカの圧力や都合で、日本が振り回されている現状に不満を持つ方も多いと存じます。しかしながら日本の歴史を紐解けば、こうした外圧や理不尽な状況を日本人が逆に利用してきた構図を見いだせるのです。
例えば幕末のペリー来航はアメリカが捕鯨のための中継基地として日本に開国を要求したものでした。しかしその結果、日本の政治は大きく転換し、近代的な国家への歩みを進めたのです。また第二次世界大戦敗戦後は、GHQが日本を武装解除させ、それを固定化する憲法を発布させました。しかしその結果、日本は安全保障をアメリカに担わせ、急速な復興と経済発展を遂げることができました。
今回も同じようなものです。アメリカはアジア地域と台湾海峡の安定を担う負担を日本に求めております。これを受け入れることで、日本は自分で自国を守れるようになり、自立した国家として新たな道へ踏み出すチャンスを得るのです。
そうした点を踏まえれば、むしろ高市政権のように積極的に防衛力を強化し、台湾問題に関与する方が、国家としての尊厳を失わず、将来を見据えた最良の選択をしたと言えます。防衛産業を軸とした技術開発の推進も、競争力の落ちた日本メーカーを再興させる起爆剤と成り得ます。
無論、それは平たんな道ではなく、前述したようなリスク(日本の分断や中国の認知戦)を伴うものです。そしてただトランプ氏の言いなりに動くのではなく、安倍政権がやったように利益主義のアメリカも動かす戦略を構築することが、日本の国益を守る鍵になります。
高市首相は今回の会談で満足せず、トランプ氏とのコミュニケーションを続けなければなりません。特に今回は無かった極小数人数会談(首脳以外通訳だけの非公開会談。テタテとも言う)を実現させ、安倍路線を進化させた「サナエ路線」を作り上げれば、真の日米黄金時代を築くことができるでしょう。
参考情報 [1]:評価相次ぐ日米首脳会談も…「歴代最低」「かつてなくお粗末」元外務官僚の佐藤優氏、酷評,産経新聞,2025.11.2., https://www.sankei.com/article/20251102-BHYKEC2TQRDWPF7RM6RMYVXSMY/
[2]:遠藤誉, トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言! これで戦争が避けられる!,中国問題グローバル研究所,2025.11.5., https://grici.or.jp/6854
[4]:President Donald Trump participates in a bilateral meeting with Chinese President Xi Jinping,The White House,https://www.whitehouse.gov/gallery/president-donald-trump-participates-in-a-bilateral-meeting-with-chinese-president-xi-jinping/
[5]:トランプ米政権が「Halo」を題材にしたAI生成画像を投稿 ファンの猛反発を招くもマイクロソフトは沈黙を続ける,IGN Japan,2025.10.29., https://jp.ign.com/halo-campaign-evolved/81439/news/haloai
[6]:中国、台湾への軍事圧力「常態化」を強調 頼清徳氏を「寄生虫」に見立てたイラストも公表, 産経新聞,2025.4.1., https://www.sankei.com/article/20250401-B2O6N2MKDBMIBCVIZD5JBDUOVI/
[7]:トランプ氏、中国は台湾攻撃の「結果を理解」-軍事介入には明言せず,ブルームバーグ日本語版,2025.11.3., https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-11-03/T54P7WGP9VCW00
[8]:遠藤誉,犯人は日本の外相か? 日中首脳会談「石破発言」隠し,中国問題グローバル研究所,2024.10.20., https://grici.or.jp/5699
[9]:トランプ氏、首相との記者会見で「シンゾウ」連呼,日経新聞,2025.2.8., https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0839N0Y5A200C2000000/
[10]:日本が貿易合意順守しなければ関税率25%に=米財務長官,ロイター通信日本語版,2025.7.24., https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/MIFZXIZRDFMHLLNUVMJAYIW7NY-2025-07-24/
[11]:高市氏、安倍路線の継承強調…保守層への浸透狙うが「後ろ盾」死去で支持拡大に懸念,読売新聞,2024.9.10., https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240909-OYT1T50265/
[12]:高市首相、防衛費GDP比2%実現を表明へ 25年度中に前倒し,毎日新聞,2025.10.22., https://mainichi.jp/articles/20251022/k00/00m/010/322000c
[13]:台湾総統に高市氏の親書 日本議員団が面会―台北,時事通信,2025.10.10., https://www.jiji.com/jc/article?k=2025101001126&g=int
[14]:中国が日本に抗議 高市早苗首相のAPEC台湾代表との会談に反発「SNSで騒ぎ立てた」,産経新聞,2025.11.2., https://www.sankei.com/article/20251102-KHKLEDY4R5KSLCGOPZCLHKS2DY/
[15]:日米、重要鉱物・レアアース供給確保で枠組み 両国首脳が文書署名,ロイター通信日本語版,2025.10.28., https://jp.reuters.com/world/us/CIG247F6SVP37MVIMMRSMJITNM-2025-10-28/
[16]:遠藤誉,ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?―米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!,中国問題グローバル研究所,2022.5.12., https://grici.or.jp/3125
[17]:田原総一朗氏が高市早苗氏を「死んでしまえと言えばいい」 23年前「下品で無知」で謝罪,産経新聞,2025.10.21., https://www.sankei.com/article/20251021-5LGYD3H2K5BVHH7E3JUFYCK7XA/
[18]:共産・池内沙織氏「誤解だ」「高市総理が現地妻だと意図しない」釈明も…「あなたの本音」,産経新聞,2025.11.5., https://www.sankei.com/article/20251105-2OMNACKSCRCNZP52XMCGETOS3M/
[19]:米が防衛費3.5%要求、日本は2プラス2会合見送り 英紙報道,ロイター通信日本語版,2025.6.21., https://jp.reuters.com/world/us/UB2FBLK5SBPNPJ7RQZYHUNCDF4-2025-06-21/