皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。年の瀬も近づく中、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
2024年11月に発足した第二次石破内閣は少数与党ということもあって前途多難であり、当面内政では国民民主党や立憲民主党との駆け引きが繰り広げられると予想します。外交面においても11月15日にアルゼンチンで2日間にわたり行われたAPEC首脳会議では礼節を欠く行動が散見されるなど、まるで「地雷」というべき醜態を表しております。もともと党内野党としてブイブイ言わせてきたこともあって首相としての品格を磨くのを怠っていたと言われても仕方がないでしょう。
一方で石破外交において日中の接近が明確になっています。10月10日のラオスで開かれたASEAN会議において中国の李強首相と会談し、APECでは晴れて習近平国家主席と会談できた石破さん。その後かねてから懸案になっていた日本人の中国短期ビザ免除が実現したこともあって、それらを「成果」を自画自賛しております。また多くの日本メディアも「今がチャンスだ!日中関係改善へ」と主張し、方や保守派は「中国がにじり寄っている、気をつけろ!」というスタンスをとっています。
懐疑的な専門家たち
しかし私の見方は違います。あくまでイメージですが、すり寄っているのは「国家観と外交戦略が欠如した石破政権」であり、中国はそれを警戒しながらも取り込みを図っているのが実情です。はっきり言って今後の日中関係は不安定さを増すことが確実に予想されるので、この「改善空気」は早くて一か月、遅くても半年くらいで崩壊するでしょう。これは決して嫌中論ではなく、大局的な考察の結果導き出された推測です。
それを語る前に日中関係の専門家の意見をご紹介します。それも嫌中論客ではなく、むしろ親中派と呼ばれた論客や、アメリカと距離を置く人たちです。驚くことに彼らは一句同音で日中関係が安定することに懐疑的な考えを示しており、その不穏な行く末を感じ取っているのです。
まずは拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授から。一時期中国崩壊論寄りであった彼は2012年に転向し、今は欧米の没落を予想した上で対米追従の日本を批判する親中論客となっております。そんなは彼は11月のAPECでの日中首脳会談について日本のメディアを「自意識過剰」と突き放した上で、中国中央テレビでの報じられた国の順番を指摘しております。
まず韓国の尹錫悦大統領との会談を長い時間を割いて報じた後、チリのガブリエル・ボリッチ大統領との会談が流れた。続く3番目にはタイのペートンターン・シナワット首相との会談。4番目はシンガポールのローレンス・ウォン首相。5番目にはニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相との会談で、6番目にやっと石破首相だったのだ。
信じられないことに最後尾だ。
(出典:富坂聰,自意識過剰の日本を尻目に、本格的ジャパン・パッシングに走る習近平政権,yahooニュース,2024.11.23., https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7f10d9b8286852c1b81db4185992a8b3cd883400)
富坂氏によればこの順番こそが「中国が重要視している国」の順番とのこと。日本が韓国よりも後に報じられていたことに彼はショックを隠せないようです。
次に中国問題グローバル研究所の遠藤誉教授です。彼女は親中とは違う中国観を持っておりますが、アメリカにも批判的な立場を持つ論客です。遠藤氏もまた中国メディアでの報道順番で日本の重要度が低く扱われていることを指摘した上で、習近平国家主席の表情に着目しました。
石破首相の一貫した仏頂面は、くり返すまでもないが、当然のことながらCCTV4の報道をご覧になれば明らかなように、会談中に習主席が一度も笑みを見せなかったのは石破首相との会談の時のみである。両脇を固める中国政府高官も、険しい表情を見せたのは石破首相との会談の時のみだった。(出典:遠藤誉,習主席にとって石破首相の重要性は最下位 ペルー2国間首脳会談,中国問題グローバル研究所,2024.11.17., https://grici.or.jp/5792)
石破首相が仏頂面なのは事前の外務省のブリーフィングで笑わないように言われていたからで、それを意識しすぎた結果です。冒頭で触れた「地雷」の結果にも見えますが、問題はもっと深いところにあると思います。それを理解すればこんな扱いになるのは当然だし、むしろ今後を考えると下手に好かれるよりマシだと私は断言します。
考えなしの安請け合い
それはラオスで行われた首脳会談にあります。この時初めて対面した石破首相に対し、中国の李強首相は日中関係について「両国の発展は互いにとって挑戦ではなく、重要なチャンスだ」と訴え、対話と協力の強化を訴えました。一見すると和気藹々に見えるかもしれませんが、笑顔の裏でキッチリとくぎを刺す姿勢を見せています。
李氏は、日中両国の戦略的互恵関係の推進を日本側に求めたほか、サプライチェーン(供給網)の安定やグローバルな自由貿易システムを「ともに守る」と意欲を示した。米国が同盟国などと半導体の輸出規制など対中圧力を強めている中で、中国側への歩み寄りを求めた形だ。(出典:中国の李強首相「両国の発展は互いにチャンス」 石破首相に対話・協力強化を呼び掛け,産経ニュース電子版,2024.10.10., https://www.sankei.com/article/20241010-36AADIRQUVL4LPLGY7EVPK63VQ/)
前回言及したようにアメリカは中国への高精度な半導体輸出への規制を強めており、日本はそれに協調している段階です。それに乗じるように台湾の半導体メーカーTSMCの工場を熊本に誘致したり、日本独自の半導体産業の再興を目指したりしているわけですが、日中友好のためにこの流れに逆らえと言われているのです。例によって日中改善を演出したい石破首相は考えもなしにこれを受け入れていますが、とんだ安請け合いになりかねません。もうすでにアメリカ議会から半導体製造装置の対中輸出規制の強化をするように圧力がかけられています。
米国の有力議員が日本に対し、半導体製造装置の対中輸出規制の強化を求めた。日本が行動しない場合、米国は日本企業に独自の規制を課したり、中国に輸出するメーカーが米国の半導体補助金を受け取れないようにする可能性があると警告している。(出典:日本に米議員が圧力、半導体製造装置の対中輸出規制強化求める,ブルームバーグ日本語版,2024.10.19., https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-10-18/SLKLJ5DWLU6900)
こうした状況で日本側がどれだけ抵抗できるでしょうか?ほとんど難しいのではないでしょうか?一応何社か中国企業の例外を決めるように求めているらしいですが、それはレームダックのバイデン政権のうちであって、第二次トランプ政権では反中強硬派の布陣が作られているので通用するとは思えません。となれば指導者同士の直接対話しかありませんが、石破さんではとてもじゃないけど説得はできないし、少数与党である時点で相手にもされないでしょう。
こんな状況だから中国側がにじり寄っているとみなすのはおかしいと思います。だいたい日本側の要求である日本産牛肉や精米の輸出再開はほぼスルー、中国軍情報収集機の領空侵犯についてもゼロ回答、蘇州や深圳で日本人が襲われた事件もはぐらかし、ALPS処理水の海洋放出に対する日本産水産物輸入規制については日本の報道では「再開で一致した」ことになっていますが、中国側は「順次回復させる」と言っているだけで未だに処理水を「核汚染水」と呼んでいるのが実態です。にも拘らず「日中は改善へ向かっている」とどうして言えるのでしょうか?大本営発表の間違いではないでしょうか?
やっぱり出た台湾問題
そして決定的なのが台湾問題です。前回石破さんにとって重い問題になると予想したのですが、案の定でした。まず、外相同士の電話会談では戦狼の名手である王毅外相が岩屋毅外相に対してはっきりと「台湾を支援するな」と突きつけました。
中国の王毅(おう・き)共産党政治局員兼外相は9日、岩屋毅外相との電話会談で「日本が台湾問題における政治的な約束を厳守することを希望する」と述べた。中国国営中央テレビ(電子版)が伝えた。台湾の頼清徳政権への支援を行わないようクギを刺した形だ。(出典:中国外相、台湾問題で日本側にクギ 「日本は政治的な約束厳守を」,産経ニュース電子版,2024.10.10., https://www.sankei.com/article/20241010-ZYYXYAQ6OFPQ7O7FXBWFGCFVGM/)
政治的な約束とは一つの中国問題について日本が中国との国交正常化時に「台湾が中国の不可分の領土であることを尊重した」というわけですが、そもそも日本は「中国の主張」は尊重しても「台湾を力づくで併合する」ことに同意したことはありません。それはアメリカも同じであり、台湾の独立を支持したことがない一方で、力による現状変更を認めない姿勢をとっています。
しかし中国側は習近平が「必ず中台統一する」と公言しており、一つの中国イコール「中国が台湾を併合する」という認識を既成事実化して台湾周辺で軍事圧力を高めている状態です。地理的に日本はアメリカの台湾防衛、東アジアの安定維持に重要な位置にあるので、片手で経済協力を深めつつもう片方の手で「アメリカとの連携を絶て」と脅しているわけですね。
そんな中国に対して国家観無し、戦略無しの石破政権はその場しのぎのために新しい地雷を作ってしまいました。遠藤氏によると石破首相は日本は日中共同声明で定められた立場(一つの中国政策)を堅持する」と言っただけでなく「中国とともに挑発に対抗する」と約束してしまったそうです。問題の個所を引用します。
日方在台湾问题上坚持《日中联合声明》所确定的立场没有改变。日方愿同中方加强在国际地区问题上的沟通,应对挑战。
(訳:台湾問題については、日本は日中共同声明で定められた立場を堅持しており、変更はございません。日本は国際問題や地域問題について中国との意思疎通を強化し、挑発に対処していきたい。)
(出典:中華人民共和国外務省https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202410/t20241010_11505060.shtmlより)
この「挑発」とはアメリカの台湾政策であり、日中共同でそれに対処するという意味になります。つまり石破政権は事実上アメリカの反中同盟から離脱すると中国に約束したことになります。
アブナイ二枚舌
あまりに衝撃的なこの内容は日本のメディアでは全く報じられません。それは日本外務省が伏せているからであり、その主犯は岩屋毅外相であると遠藤氏は喝破しております。
日本国民に対しては、「日本はあくまでもアメリカと台湾の側に立っている」ことを明示するために、日中首脳会談の翌日に、李強首相に対する「石破発言」を相殺すべく、特に「日本は日台関係を重視している」旨、強調して見せた。だから実際の「石破発言」を日本の外務省ウェブサイトから削除させたと推測される。
岩屋外務大臣は、そして石破首相は、日本国民を騙したのだ。
(出典:遠藤誉,犯人は日本の外相か? 日中首脳会談「石破発言」隠し,中国問題グローバル研究所,2024.10.20., https://grici.or.jp/5699)
もはや二枚舌というのも情けない大本営発表以外の何物でもないでしょう(薄々その傾向があると思っていましたが)。日本国民は騙せても他国にはすべてお見通しです。台湾はこのことに多いに失望を表明しております。政権に上がる前と後では言っていることが変わることがあると皮肉を込めて。
对此,前立委沈富雄11日在《少康战情室》表示,政治人物上台前讲一番话,上台之后又是另外一面貌。石破茂的名字里面有「破」字,但日中关系是斗而不破,不但不破,而且非常「茂」,非常友好。
(訳:これに関連し、元立法会の沈福雄氏は11日の「少康戦争室」で、政治家は壇上に上がる前には何かを言うが、壇上に上がった後の表情は違うと述べた。石破茂氏の名前には「断絶」という言葉が入っているが、日中関係は争っていても切れていないだけでなく、非常に「高く」友好的だ。)
(出典:石破茂会李强喊坚守中日联合声明 台日关系危险了?(訳:石破茂氏と李強氏は日中共同声明の堅持を叫ぶ 台日関係は危機に瀕しているのか?),中時新聞網,2024.10.11., https://www.chinatimes.com/cn/realtimenews/20241011005009-260407?chdtv)
何を隠そう日本国民に対しても「総裁選後すぐに解散しない」と騙しているわけですから、驚くほどのことではないですが、この二枚舌はどう考えてもうまくいかないのは明白です。遠藤氏は中国は石破政権を操り易いと思っていると考えていますが、先述の「重要度の低い」扱いから考えても慎重的姿勢、もっと言えば「全く信用していない」のが本音だと思います。だって日本がアメリカの「挑発」に対して中国と共同で対処する?なら東シナ海での日米軍事訓練を拒否しますか?ただでさえトランプさんに会えなくてあわあわしているのに、そんな日本にとってもリスクとなるような行動はできないでしょう。
この先、日米2プラス2が開かれた折には高い確率で「台湾海峡において日米は力を背景とした現状変更に反対する」と宣言することになります。その時こそ地雷発破! 岸田政権がそうであったように「中国の顔に泥を塗った」と大いに怒られることですね。日本人の短期ビザ免除も吹き飛ぶかもしれません。考えなしの親中には良い薬です。