ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

中国はなぜ覇権主義に突き進むか(2)

 皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。中国はなぜ覇権主義に突き進むか、その考察をしてまいります。

 前回は主に資源や経済的事情を中心に考えてみました。14億人を食わせるのだから何かと大変なのは想像できます。それを知った皆さんの中は「石油のために喧嘩するくらいならあげちゃったらいい」とか「中国製は安いんだし、むしろ物が安く買えて便利だ」と考える方もいるでしょう。実際日本は自国周辺で資源開発することに消極的で、遠く中東から買ってきた石油に執着しています。また欧米も初めは中国の製造大国としての台頭に寛容でした。

 それは彼らにとって中国市場こそがすべてであり、日本を含めた自動車メーカーも中国市場中心に動いていたのです。急速な発展を遂げた中国ですがまだ富裕層と中間層は14億のうち3億人と呼ばれ、これから先さらに成長すればより大きな需要が見込める「金の生る木」だったのです。軍事転用可能な産業でさえ、かつてのアメリカは惜しげなく資金と技術を提供していました。

 しかし中国のとある特徴が欧米を常に悩ませます。中国共産党一党独裁です。ソビエト連邦のそれに影響を受けた同党は社会主義イデオロギーによる統治をおこなうために「党の指導性」を憲法に明記しています。これは憲法の上に党が存在する状態で「法の支配」を掲げる西洋の価値観と隔たりがあります。国内事情はさることながら国家間でもその影響が出ていました。

 中国の戴秉国・元国務委員は米ワシントンで5日講演し、フィリピンが南シナ海の領有権問題を巡り国連海洋法条約に基づき申し立てた仲裁手続きで、仲裁裁判所が12日に示す判断は「ただの紙くずだ」と批判、中国は受け入れないとの姿勢を強調した。
(出典:仲裁判断「ただの紙くず」 中国元外交トップ、南シナ海巡り,日経新聞電子版,2016.7.7.,https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM06H6N_W6A700C1FF1000/)

 中国が南シナ海において主張している「赤い舌」は国際法上の根拠がないと突きつけられた判決ですが、不服ならともかく「紙くず」と言って切り捨てるのは「法の支配」を拒絶すると言っているようなものです。5年後も同じことを繰り返し述べているので、これが公式見解なのでしょう。

 欧米は当初、中国も豊かになれば民主化へ向かうだろうという期待を抱いておりました。しかしその期待は裏切られ、習近平政権は逆に統制を強める方にアクセルを踏んでおります。特に2019年逃亡犯条例改正に端を発した香港の民主化運動には警察力で弾圧、2020年5月に「香港国家安全維持法」を制定して事実上の香港政治への干渉を行いました。香港には返還後50年の間は高度な自治を維持する中英共同宣言がありましたが、イギリス政府は同法案が香港の自由を大きく制限しており、宣言が反故にされていると報告書をまとめました。

 ラーブ氏は10日の声明で「われわれは中国が共同宣言を順守していない状態にあると結論付けた」と述べ、国安法は中国政府が主張しているように一部の犯罪者を対象としたものではなく、「異なる政治的見解を示す場を大幅に減らし、表現の自由と正当な政治的議論を抑え込むために利用されている」と指摘した。
(出典:国安法、香港の自由を大きく制限 中英共同宣言に違反=英政府,ロイターニュース日本語版,2021.6.11.,https://jp.reuters.com/article/hongkong-security-britain-idJPKCN2DN06J/)

 前回は経済的台頭による競争に覇権主義を見出しましたが、こうした政治的台頭も覇権的な側面があることは否めません。けれどなぜ彼らは共産党と強権体制にこだわるのでしょうか?それにもちゃんと理由があるのです。前回私が表現した四つの漢字
     欲・統・怒・恐
の二番目の統が関係しています。

 ~国が国である理由

 時に皆さんは国が国であることに必要な三大要素を考えたことがありますか?国家論によって様々ですが、基本的には領土、国民、権力の三つが国の要素であるとされています。では権力についてこれを裏付けるのは何でしょうか?それは正当性です。

 正当性には武力による暴力的なものや選挙による民主的なもの、歴史的継続性によるものがあります。簡単に言うと国民が「納得する」または「納得せざるを終えない」形で個人や集団が政治的な力を得る方法です。国の正当性がなければ国民が納得できないため国の体をなさなくなります。

 例えば米国では四年に一度の大統領選挙によって国民に選ばれた者が大統領として正当性を得ています。欧州やアフリカ、南米の共産国でない共和国はほとんどがこの制度を採用しています。一方、イギリスなど王が存在する国家は王族の世襲による歴史的継続性が正統性になっています。

 因みに皆さんは普段意識したことはないでしょうが、日本の正統性は建国以来天皇による歴史的継続性で成り立っています。当然現在もそれは日本国憲法によって裏付けられており、国会の召集や内閣の任命、法律の施行も天皇がそれを行うことによってはじめて効力を持ちます。

 なら中国はどうでしょうか?かの国では選挙も行われず、世襲する王族も居ません。辛亥革命で1912年に清王朝が滅んで中華民国が、国共内戦で1949年に中華民国が台湾に追いやられて中華人民共和国が成立した経緯を考えれば、その正当性は武力による暴力的なものであるとわかります。他でもない共産党の初代指導者毛沢東が「政権は銃口から生まれる」とおっしゃってますからね。

 とはいえ常に暴力のみで支配し続けるのは無理があります。北朝鮮のような小国程度ならともかく中国のような広い領土に多様な民族が存在する国家では強大な軍事力が必要となります。しかし強大な軍事力は国民の協力があってこそ成り立つので、暴力以外の方法で正当性を得る必要があります。

 正当性が変節する国

 これは私の考察ですが中華人民共和国という国は時代に応じて正当性を変化させています。

 まず建国の父毛沢東は暴力的な正当性を確立することに腐心しました。「政権は銃口から生まれる」を実行したのです。最初は国民党軍に劣勢に立たされていたものの長期戦に持ち込み、我ら日本軍との戦争では国共合作を持ち掛けて裏では国民党内に浸透工作を進めていました。そして第二次世界大戦後に国民党を台湾へ追いやって天下を取るに至ります。

 この暴力的な正当性の補強として彼は共産主義を用いました。これはソ連をはじめとした東側諸国に多く見られた政治手法で、「革新的な経済政策」による平等で豊かな国を理想として掲げて大衆を味方につけ、その過渡期たる政府の独裁的権力を正当化していたのです。

 しかし現実は経済力で資本主義陣営に水をあけられ、国内では生産性も品質も退廃し一部の人だけが富と権力を握る前近代的専制政治に成り下がってしまいます。その結果ソ連を含めた多くの東側諸国の共産党政権の正当性は揺らいでいき、1989年のベルリンの壁崩壊をきっかけに次々と崩壊・民主化していきました。当然、大躍進政策で大失策を犯した中国共産党も例外ではありませんでした。

 そこで時の指導者鄧小平は共産党体制を守るために新たな正当性に鞍替えしました。それが「経済成長」です。共産党の名前はそのままに西側の膨大な投資と技術支援を呼び込み、形式的な市場経済を導入したのです(改革開放政策)。豊かになれば民主化すると甘い期待を抱かせて。これが今日につながる空前の高度経済成長をもたらしました。その反面、中国の民主化運動は徹底的に弾圧しています(六四天安門事件)。 

 しかし、高度経済成長は永遠に続くものではありません。それに西側に門戸を空ける以上、どんなに情報統制しても自由や民主主義といった思想が入り込んできます。そこで1993年に就任した江沢民国家主席は学校教育を通して愛国心、つまりナショナリズムを強化することにしました。

    (前略)2002年の中国共産党第16期全国代表大会(16大)は 、愛国主義を中心とする中華民族の民族精神の発揚と育成を国民教育全体に取 り入れるこ と、ならびに中華民族の復興が中国共産党の使命であることを確認した。(中略)注 目すべ きは、中国共産党が 「民族精神の継承者と創造者」として位置づけられ、また革命伝統教育では、社会主義共産主義を象徴す るプロレタリア闘士よりも、中華民族の独立解放と発展をもたらした民族 英雄のイメージが前面に押し出されていることである。(出典:武 小燕,中国における愛国主義教育の展開,此較教育学研究第36号,2008年,p25-38)

 上文の引用元は名古屋経営短期大学准教授の武 小燕氏の大学院生の時の論文です。教育論を志すだけあって中国の学校で行われる「愛国教育」を端的に示しています。つまり中国の指導者たちは自分を”「民族精神の継承者と創造者」として位置づけ”ることで歴史的継続性による正当性を得ようとしたのです。

 なお、愛国といえば現在香港では「愛国者」重視の選挙制度が既に成立しています。中国政府寄りの委員会が「愛国者」と認めた者しか立候補が認められない制度です。

条例案によると、香港では今後、選挙委員会によって指名を受けた人だけが立法会の選挙に立候補できる。選挙委員会は現在、行政長官の選出が主な役割。
議員のほか選挙委員、行政長官などについても、委員会が候補者を事前審査することになったため、中国政府に批判的な人物を簡単に排除できるようになる。
さらに、立法会自体のあり方も変わる。選挙で選ばれる議員は35人から20人に減る一方、立法会の議席数は70から90に増えるため、民主的に選ばれた議員の影響力は薄まる見込みだ。
(出典:香港議会、「愛国者」重視の選挙制度改正案を可決,BBCニュース日本語版,2021.5.28.,https://www.bbc.com/japanese/57277972)

 同条例に先立って民主派議員は4名資格をはく奪され、残りも抗議の意を込めて辞職しているのでスムーズに可決されたとか。そして半年後の議会選挙ではみごと親中が圧勝したようです。まさに翼賛選挙極まれり。

 ここで習近平にとっての「理想的な愛国者」をご紹介しましょう。香港の衣料品会社員、朱偉強さんです。一時期「嫌中」だった彼は「祖国」の目覚ましい発展に魅了されて「愛国者」になります。記事は有料記事ですが前文で十分です。

 香港の衣料品会社員、朱偉強さん(57)は、かばんにいつも中国国旗「五星紅旗」を入れている。「どこにいても掲げられるように」との思いからだ。

(出典:「嫌中」捨て愛国者に 繁栄に魅了され 「香港国安法は必要」,毎日新聞,2020.7.25.,https://mainichi.jp/articles/20200725/ddm/012/030/125000c

 いかがです?これ日本人なら日章旗旭日旗をカバンに入れて「どこにいても掲げられるように」しているような人ですよ。「うわっ、やべぇ右翼じゃん。近寄らんとこ」と誰もが思うでしょう。これが中国共産党が人民に求めている「愛国者」です。もう、こんな国は極右国家以外の何物でもないでしょう。

 皇帝になる習近平

 国家主席である習近平もまた国の正当性を強く意識しています。彼は自分を毛沢東と重ね合わせ鄧小平路線からの回帰を図っているのです。政策もそうですが、中でも活発なのは自身の概念の確立です。2021年11月11日、彼は第19期中央委員会第6回全体会議で40年ぶりとなる「歴史決議」を採択しました。

 この歴史決議は、共産党の100年間の歴史を統括するもので、主要な成果や今後の方向性を示している。党の創立以降、歴史決議が採択されたのは1945年の中国建国の父・毛沢東氏、1981年の鄧小平氏以来3度目。今回の採択は、習氏に毛氏と鄧氏に並ぶ地位を確立するためのもの。
 今回の動きをめぐっては、鄧時代に始まり、江沢民氏らほかの指導者に引き継がれてきた、数十年に及ぶ地方分権化を覆そうとする習氏の新たな試みで、中国がいわゆる個人崇拝へと逆行しつつある表れだとの見方もある。
(出典:習主席の地位、毛沢東らと同列に 中国共産党が歴史決議を採択,BBCニュース日本語版,2021.11.12.,https://www.bbc.com/japanese/59244715

 これに先立った2018年に2期10年としていた国家主席の任期を撤廃していたことから、西側では3期目続投へつなげた地盤固めと分析されました。実際3期目に無事(?)突入したわけですが、正当性という観点で見ればむしろこれは必然の流れといえるでしょう。経済成長頼みから愛国主義を盛り立てて国家元首をやっていくのですから、毛沢東から続く中国指導者の正統な後継者を名乗るのが一番有効なのです。無論習近平個人の自己掲示欲もあるでしょうが。

 なお彼の自己掲示欲の強さは宗教にも及んでおります。中国国内の各種宗教は基本的に共産党の管理下にあるのですが、習近平体制になってからこれが過激なものになっております。

 中国の国政助言機関、人民政治協商会議(政協)の委員で、中国仏教協会会長の演覚氏は9日、政協の全体会議で、習近平国家主席が掲げる「宗教の中国化」を推進することは「主要な任務だ」と述べ、宗教界は自覚を高めるべきだと訴えた。経典や思想、儀礼の中国化で「社会主義に適応した中国の宗教を建設すべきだ」と強調した。
(出典:「宗教の中国化は主要任務」,47NEWS,2024.3.9.,https://www.47news.jp/10631156.html)

 宗教の中国化とは信仰よりも共産党政府への忠誠、厳密には習近平への忠誠を優先させるというものです。ぶっとんだ発想ですが何と7年前からこうした動きがありました。評論家の石平氏は2017年10月に開かれた中国共産党第19回全国代表大会(19大)に乗じて中国全土で「19大精神を学ぶ」なるキャンペーンが展開されていたといいます。産官学を巻き込んだ一大ブームは宗教界にも及びました。

例えば中国仏教協会は10月29日、会長である北京龍泉寺住職・学誠法師の下で「拡大会議」を開き、「19大精神」の学習を協会第一の活動方針と決めた。そして11月、協会は北京で「19大精神研修会」を開催し、全国の有名寺院の住職や協会の地方幹部を集めて「19大精神」を徹底的に叩(たた)き込んだと報じられている。
(出典:共産党に媚びる宗教界 大和尚の発言に筆者は吐き気を催した,産経新聞電子版,2017.12.28.,https://www.sankei.com/article/20171228-3YUXIAQ4QZMDTJ3M5IKAWJDG3Q/)

 19大といえば習近平政権が二期目に突入した大会です。中国の仏教といえば教科書では日本伝来に関わったとされていますが、今は政権に媚びを売る利権団体となり果ててようです。そんな仏教界に触発されてか中国土着の伝統的宗教である道教も研修会を開いて「19大精神」を学び、習近平が党大会で行った「政治報告」を絶賛し、党への忠誠を誓いました。

 共産党支配ではこうするのも仕方ないかと一見思われますが、彼らの媚び入りようは度を越えていました。特に海南省仏教協会を率いる深セン弘法寺住職の印順大和尚の演説には石平さんも吐き気を催したそうです。

 習主席が19回党大会で行った「政治報告」、それはすなわち現代版の仏経であり、中国共産党は現代における生きた菩薩である。大和尚はさらに、自分はすでに習主席の「政治報告」を3度も「写経」したと告白した上、全国の僧侶と信徒に対し「政治報告の写経」を呼びかけたのである。(同上)

 ここまで来たらもはや習近平の神格化です。こういった宗教改革は異教にも及びキリスト教に対しては聖書の書き換え、十字架の撤去を強制する事例が報告されています。「歴史決議」よりも前に起こっていることです。極めつけは礼拝堂に据えたあった聖母マリアと幼子キリストの像が撤去されて習近平本人の肖像画がかけられています。

(出典:Xi Jinping Portraits Replace Catholic Symbols in Churches,BITTER WINTER,2019.11.25.,https://bitterwinter.org/xi-jinping-portraits-replace-catholic-symbols/)

 実はこうした動きは毛沢東が引き起こした文化大革命でも行われていたそうですが、あの時は学生主体の紅衛兵だったのに対し、今実行しているのはれっきとした行政官という違いがあります。文革は味噌もくそもみんな壊していましたが、今回は国家統制の強化として進められているので、最悪、中国内の宗教はすべて「中国教」ないし「習近平教」となり果てるかもしれません。

 台湾統一に執着

 そんな国内では神のごとき存在感を持ちつつある習近平ですが、一つだけ致命的な欠点があります。毛沢東にあって彼にはないもの。それは「戦績」です。国民党軍に打ち勝って国を建てた国父に比肩する実績が彼にはないのです。これは愛国心をよりどころにした新中国の元首としては立つ瀬がない。彼が事あるごとに台湾統一に言及する理由の一つがこれです。最近も1月に行われた総統選に先立って「再統一」は「不可避」と演説しました。

中華人民共和国を建国した毛沢東の生誕130周年を記念する演説の中で述べた。習氏は「母なる国との完全な再統一の実現は、発展に向けた不可避の道筋であり、正しい流れだ。人民が望んでいることでもある。母なる国は再統一しなくてはならず、またそうなるだろう」と強調した。
習氏はこれまでにも同様の発言を通じ、台湾の掌握を土台として中国の「活力を取り戻す」とする自らの目標を明らかにしている。
(出典:習氏、台湾の「再統一」は「不可避」 総統選迫る中で主張,CNNニュース日本語版,2023.12.27.,https://www.cnn.co.jp/world/35213297.html)

 雄弁なのは結構ですが肝心の総統選では推しの国民党がみごとに敗れて、民進党新総統を迎えての3期目に突入してしまいました。

 ここで台湾の歴史をざっとおさらいしておきます。日清戦争で勝利した日本は1895年に清国から台湾の割譲を得て統治下におきます。しかしWW2で我が国が敗北すると同時に蒋介石率いる中華民国の国民党軍が支配下に置きました。その後間もなく中国で国共内戦が再発し、敗れた国民党は台湾に拠点を移しました。アメリカの介入によって共産党は台湾征服を一旦断念するも、中原を支配下に置いたことから自らが正統な「中国」であると主張し、アルバニア決議で中華民国を追い出し、同国が得ていた常任理事国の席を手に入れました。その後、李登輝氏が初の総統選を実施して台湾を民主化して今に至ります。

 普段中国のプロパガンダを聞いていると勘違いする人が多いのですが、台湾は中国共産党の施政下に入ったことは一度もありません。国名としては中華民国であり、辛亥革命以降ずっと自立した政府です。それゆえ共産党にしてみれば国の正当性を争った相手がいまだに存在しているようなものなので、是が非でも潰そうとしてきました。1971年に国連を脱退して以降、日本をはじめとする多くの国から断交されて現在国交があるのはわずかに13か国。これは台湾との断交が国交の条件とする共産党政府の陰湿な外交工作の結果です。そして隙あらば「台湾は我が国の領土」という文言を相手国に受け入れさせます。

 他方で台湾はアメリカや日本との非公式の交流は継続してきました。自由と民主主義もすっかり定着し、既に国民の多くは台湾人としてのアイデンティティを意識するようになっております。近年急成長した中国の経済的影響下にあることは事実ですが、2014年当時政権を担っていた国民党の馬英九元総統が中台両国におけるサービス貿易の制限撤廃を謳った協定を発効しようとしたところ国民の反対にあっています(ひまわり学生運動)。その後は二期にわたる蔡英文政権、そして間もなく発足する頼清徳政権へとつながります。

5月20日に発足する台湾の頼清徳新政権の主要メンバーが25日固まった。蔡英文政権を支えた中核メンバーが外交・安全保障部門を担うことが決まり、中台関係を巡り独立も統一も求めない「現状維持」を基本とする蔡路線の継承を鮮明にした。
頼氏は台北市内で25日記者会見し、外交・安全保障部門の閣僚などを発表。中国に対し「自信を持って台湾人民の付託を受けた合法政府に向き合うことを望む」と述べ、民主進歩党民進党)政権との対話に応じるよう求めた。
(出典:外交安保で蔡英文路線継承 台湾の頼清徳新政権メンバー固まる 外交部長に林佳竜氏,産経新聞電子版,2024.4.25.,https://www.sankei.com/article/20240425-LMEBZM23S5M6RKLU5BG3UNW6RM/)

 以上から見るによく言われている「中国が経済で台湾を絡めとる」平和統一は著しく困難であると考えられます。無論懲りることなく国民党ら親中派を駆使して引き込みを図るでしょうが、それで台湾が自ら中国の手に堕ちてくるのを待っているほど習近平は気長ではありません。中国の正当性がかかっている戦いですから「いける!」と思った瞬間を見逃さずに最終手段に打って出るでしょう。それは彼らが南シナ海東シナ海で主張する支配圏を見てもわかります。

(出典:GoogleEarthより)

 勘がいい人ならもう気付いていると思いますが、南シナ海東シナ海支配下に置けば台湾を南北から包囲することができるのです。尖閣諸島は彼らにとって東シナ海の要所の一つなのです。ここを完全に抑えれば南シナ海のように瞬く間に要塞化して、有事に米軍が近寄らせないように対空・対艦火器を配備するでしょう。

  自己目的化による覇権主義

 以上、国の正当性という着眼点で中国の覇権主義を解剖してみました。共産党=共産イデオロギーだけで見るとかの国を理解することは難しくなります。歴史的継続性に正当性を見出す以上、中国の指導者たちは共和国設立以前の歴史を無視することができないからです。その歴史として最も注目されるのが華夷秩序による中華圏の存在です。

(歴代中国王朝に引き継がれてきた世界観)

 実はこうした華夷思想そのものは愛国教育ではあまり触れられていないそうです。しかし、過去に強大な国として君臨していた歴史があるならば、その「継承者」と称する中国の指導者たちもそれに準拠すべしとなるのは容易に想像できます。

 だからこそ習近平国家主席は「中華民族の偉大なる復興」を掲げたのです。そしてその政策は国内的にも対外的にも大国的ないし高圧的にならざるを得ません。当然軍拡を推し進めますし、グローバルな投資や支援も植民地政策のような強引なものになってしまいます(一帯一路政策)。そしてアメリカ一極体制を突き崩した暁は、自国を中心とした新たな一極を形成することでしょう。国の正統性を維持するための覇権主義が自己目的化した姿が今の中国なのです。