ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

台湾問題について考える(1)

 皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。2024年5月23日中国の人民解放軍が台湾周辺で二日間にわたる大規模な軍事演習を実施しました。中国軍の報道官は台湾の分離主義勢力に対する「強力な懲罰」だとして語気を強めております。

 台湾を担当する中国軍の「東部戦区」報道官は声明で、今回の軍事演習の目的について、「『台湾独立』分裂勢力を懲らしめ、外部勢力の干渉や挑発に対して厳重に警告するものだ」と主張した。中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官は23日、頼氏の演説について、「『一つの中国』原則に挑み、台湾を袋小路に導こうとしている」と反発した。
(出典:中国「台湾独立勢力を懲らしめる」…大規模軍事演習、台湾国防部「不合理な挑発行為」,読売新聞電子版,2024.5.23.,https://www.yomiuri.co.jp/world/20240523-OYT1T50176/

 その背景として指摘されているのが20日に就任した台湾民進党の頼清徳新総統を念頭に置いたもので、彼の就任演説において「中華民国」という国名をはっきりと呼び、中国に対し対等な立場で対話するように求めたことです。

 従って、私は中国が中華民国の存在事実を直視し、台湾人民の選択を尊重することを望みます。また、誠意をもって民主選挙で選ばれた台湾の合法的な政府と対等、尊厳の原則の下で、対抗ではなく対話を、封じ込めではなく交流を進め、協力し合うことを望みます。
(出典:「台湾を民主主義世界のMVPに」…頼清徳・台湾総統の就任演説全文 ,読売新聞電子版,2024.5.21.,https://www.yomiuri.co.jp/world/20240520-OYT1T50209/6/

 これは中国と台湾国民党が「一つの中国」を堅持することで合意したといわれる「92コンセサンス」に挑戦するものだとして反発しているのですね。「一つの中国」問題は中国共産党にとって特に重要であり、決して譲ることのできない案件です。その理由は「なぜ中国は覇権主義に突き進むのか(2)」で解説しております。つまり頼清徳総統は「中国」を非常に怒らせてしまったわけですが、今後はどうなるのでしょうか。中国はどのように攻勢をかけてくるのでしょうか。今回は台湾有事について考察していきます。

「平和」か「武力」かという不毛な議論

 2022年秋、習近平の台湾政策について二人の中国専門家の意見が衝突しました。発端は中国問題グローバル研究所の遠藤誉氏が『中国は台湾「平和統一」を狙い、アメリカは「武力攻撃」を願っている』という記事において「中国は平和統一しか望んでない」と強調したことです。これに中国問題を研究し評論している石平氏が「全くの妄想」とかみつきました。

平氏のツイート

 これに対し遠藤氏は「誤解」としつつ「武力併合したら一党支配体制が崩壊する」と反論し、香港のような一国二制度による統一を中国は目指していると主張し「平和という言葉に騙されるな」と締めくくっています。彼女の作風は一般的な中国論調に対する「逆張り」風なものが多く、決して親中論客ではありません(少し反米的な気質がありますが)。つまり石平氏と遠藤氏の向いている方向性は同じであり、台湾の早期統一を目指す習体制への警戒感では一致しています。ただ「武力統一」か「平和統一」かで揉めているだけです。
 私に言わせればこの議論に意味はないと思います。習近平総書記(というか中国共産党自体)は国威と自らの権威を賭けて台湾統一を目指しているのであり、あらゆる選択肢を常に担保していると見るべきだからです。ここ十数年拡大させた軍備がすべて台湾攻略のためではありませんし、全部が全部「張子の虎」ぞろいというわけでもありません。絶対これだと決めてかかるのは視野を狭めます。習近平は機が熟せば、いや「できる」と判断すればプーチン大統領のように必ず「特別軍事作戦」を実行します。この時もあくまで体裁は「分離主義と外国勢力の排除」であり、投入する兵力は「平和維持軍」なので「平和統一」と言うこともできます。

台湾事情は複雑怪奇

 よく報道では単純に「中国から独立志向のある政党」として民進党が表現され、逆に「中国との統一を目指す政党」として国民党が説明されることがありますが、ここには少し誤解があります。それは台湾の歴史を見ればわかります。

 日清戦争で勝利した日本は1895年に清国から台湾の割譲を得て統治下におきます。しかしWW2で我が国が敗北すると同時に蒋介石率いる中華民国の国民党軍が台湾に進軍し支配下に置きました。その後間もなく中国で国共内戦が再発し、敗れた国民党は台湾に拠点を移しました。アメリカの介入によって共産党は台湾征服を一旦断念するも、中原を支配下に置いたことから自らが正統な「中国」であると主張し、アルバニア決議で中華民国を追い出し、同国が得ていた常任理事国の席を手に入れました。

 このことからわかるように台湾は中国共産党の施政下に入ったことは一度もありません。国名としては中華民国であり、既に独立した政府です。1971年に国連を脱退して以降、日本をはじめとする多くの国から断交されて現在国交があるのはわずかに13か国(2024年5月時点)。これは台湾との断交が国交の条件とする共産党政府の陰湿な外交工作の結果です。そして隙あらば「台湾は中華人民共和国の領土」という文言を相手国に受け入れさせています。

 一方台湾は1988年に死去した蒋経国氏に代わって総統になった李登輝氏が台湾移転前より滞っていた立法院総改選を実施し、1996年に初の台湾総統直接選挙を行ったことで民主化を達成しました。彼が志向したのは「台湾本土化」であり、従来中国大陸の主権を主張してきた国民党政府の方針を転換し、台湾と周辺離島のみを国土としたものです。これは共産党政府と共存を謳う一方、主権国家としての台湾を主張する二国論に発展し、中国共産党の反発を招きました。

 李登輝氏の退任後、政権が陳水扁氏に移行しますが、彼の所属する民主進歩党民進党)は戒厳体制時代の国民党政権に反抗して結集された団体で、台湾の国民党支配からの脱却を目指していました。その象徴として台湾正名運動があります。この運動は母国を中華民国でなく「台湾」と主張するものであり、李氏の二国論の影響もあって民進党を中心に広まり、党綱領に台湾共和国樹立を掲げるに至ります(しかし後に1999年に台湾前途決議文によって棚上げにされています)。つまり、民進党の「台湾独立」というのは中華民国からの独立であり、即ち台湾の非中国化なのです。

 一方、李氏が退いた国民党では彼の二国論により中華民国としてのアイデンティティを毀損されたことに不満を持つ者がいました。彼らは李登輝政権以前に立法府で長期にわたって席を有していた万年議員とその価値観を引き継ぐ人たちで、遠い将来台湾は大陸と統一すべきとする「終極統一」を掲げていました。これは中華民国としての地位を復権させる保守的なもので、先述の「92年コンセンサス」も一つの「中国」で中国共産党と合意しつつも、その「中国」は中華民国であるという、当然中国とは異なる解釈を持っていました。それゆえ中国の攻勢に譲歩しながら、民進党の非中国化に反抗する現在の党方針に行きつきます。これが現在につながる台湾の政治対立の本質なのです。

 したがって前述の頼清徳さんの演説で「中華民国」とはっきり言ったのは、中国に対して二国論を再提示して強く出る一方、過半数を取れなかった立法府で国民党のコアな支持層に配慮した結果とも解釈できるのです。中国にとっても最も困るのは「台湾は中華人民共和国の領土」の根底を揺るがす台湾正名化なので、激しい口調で罵りつつも実際は内心でほくそ笑んでいるのかもしれません。

ほぼ破綻している「一国二制度

 これは私の考察ですが、共産党……習近平は所謂一国二制度による円満な台湾統一を7割方諦めていると考えます。もちろんできるに越したことない(むしろ対日戦や対米戦へ向けて戦力を温存したいでしょうし)のですが、香港政策の顛末や台湾の現状を見る限り「絶望的」なのですね。

 ここで香港の歴史をおさらいしておきましょう。1839年に勃発したアヘン戦争の結果、香港は清国からイギリスに割譲されて150年に渡り統治されることになります(途中日本が3年ほど占領下に置きましたが)。WW2後多くの植民地を失ったイギリスは没落し、1960年から70年代は特に「英国病」と言われるほど顕著になりました。方や中国も文革の影響で経済状況は最悪でしたが78年の「改革開放」によって急成長し、香港は西側との窓口として大いに発展しました。

 1980年代に香港の帰属について中英で交渉が始まります。香港の統治を継続したいサッチャー政権に対して共産党政権は「港人治港(香港人による香港の統治)」を要求し、応じない場合は武力でもって解決すると脅しました。奇しくも同じ時期にフォークランド紛争を経験していたイギリスは腰砕けになり、中国の要求に応じることになります。この時、鄧小平が提示したのが「一国二制度」で主権移譲後50年間にわたり香港で「社会主義政策」を実施しないことを約束しました。そして1997年に正式に香港は中国に帰属します。

 しかしこの「一国二制度」ですが、香港の自由を守るものではありませんでした。イギリス統治下では言論や報道、表現の自由が保障されていましたが、中国統治下に入るや否や圧力がかかり、言論統制が始まります。選挙への干渉も行われ、首長である行政長官は職能代表が票を投じる制限選挙となっております。たびたび普通選挙を求める香港市民に対して、共産党政権は「愛国者」のみの立候補を優遇しようとするなど、軋轢が広がっていました。

 2014年、ついに香港市民の不満が爆発しました。当時2017年の行政長官選普通選挙が実施される方針が決まりましたが、その候補は共産党政府の息のかかった指名委員会の支持が必須で、かつ2~3人に限定するというものでした。共産党の意に沿わない候補を排除するやり方に学生たち(2011年からの愛国教育に反発していた)が立ち上がり、授業をボイコットしデモ活動を始めます。雨傘運動です。デモ隊は最終的に排除されましたがこの活動は当時世界で注目されました。

 そして2019年、再び大きな運動が巻き起こります。逃亡犯条例改正案です。同法案は台湾で起こった事件について犯人の引き渡しと起訴ができなかったことを背景としていますが、法案には共産党政権の要請に応じて政治犯の引き渡しの他、資産凍結や差し押さえも可能とするなど香港の司法を脅かすとして反対運動が起こります。運動は普通選挙の要望へエスカレートし、何人もの死傷者を出しながら当局に弾圧されます。そして共産党政府は2020年5月に「香港国家安全維持法(通称国家安全法)」を制定して即日施行、事実上の香港政治への干渉を行ってこれを鎮圧しました。

 この香港で起こった事件が台湾政局に影響を与えます。当時、民進党蔡英文総統は地方選での敗北を受けて、党首の座を降りていました。中国と距離を置く政策が台湾経済を悪化させていたのです(これが中国に経済でからめとられた影響です)。しかし香港動乱が彼女らに大きな追い風を起こし、「一国二制度」は中国の騙しの手口と批判することで2020年の総統選では、歴代最多の得票数で再選と至りました。

台湾の蔡英文総統は10日、台北の総統府前で行われた建国記念日に当たる「双十節」の式典で演説し、香港情勢について「『一国二制度』の失敗により、秩序崩壊の瀬戸際にある」と指摘した。「『一国二制度』の拒絶は、党派や立場を問わない2300万人の台湾人民の最大の共通認識だ」と述べ、中国の習近平国家主席が受け入れを迫る同制度による「中台統一」を拒否する姿勢を、改めて示した。(田中靖人,「一国二制度は拒絶」 蔡総統、双十節で演説,産経新聞電子版,2019.10.10.,https://www.sankei.com/article/20191010-KFZM7OVDUVMVVF5HE7GPVNJFPA/

 その後も蔡英文政権は中国の一国二制度を批判し、野党の国民党でさえも表立って中台融和を掲げることができなくなりました。先日の2024年1月の総統選挙戦でも蔡氏前任の馬英九元総統が「習近平を信用しなけらばならない」と発言したことが物議をかもし、同党所属の侯友宜候補は「自分の考え方と違う。私が総統になったら任期中に統一問題に触れるつもりはない」と火消しに追われることになりました。事実上、台湾の一国二制度による平和統一計画は破綻してしまったと言えるでしょう。

経済だけでは……

 ここまで見ると習近平の香港政策の失敗のように映ると思います。まぁ、実際そうなのでしょうが、先述の通り7割方諦めて割り切っている節もあると思うのですよね。というのも如何に経済成長して「台湾を経済でからめとる」ことができても、安直に統一とはいかない経緯があります。

 改めて台湾の歴史、今度は近年の出来事について振り返ってみましょう。李登輝氏によって民主化された台湾ですが、その後の中国の外交工作によって孤立し、同国の急速な経済成長に依存するようになります。先述の馬英九元総統は民進党から政権を奪取すると、先述の「92年コンセンサス」を前提にして中台融和を進め、中華民国としての国際的地位の復権を図ります。歴史教育を中国寄りにするなど親中政策を進め、WHOのオブザーバー参加を実現したりしました。

 しかし2010年に結んだ経済協力枠組み協定(ECFA)に基づき、2014年に向けて交渉を始めたある協定が台湾に波紋を広げます。海峡両岸サービス協定です。中台両国におけるサービス貿易の制限を撤廃し、マーケットを開放することを謳った協定ですが、台湾の中小企業へのダメージや人材流出、そして言論や情報統制が危惧されたことから反対論が吹き出し、これまた学生が台湾立法院を占拠する運動へ発展します。ひまわり学生運動です。この結果、協定はお流れとなり国民党は支持を失って下野、現在まで続く民進党政権が誕生します。

 勘の良い方ならお分かりになられるでしょうか?そう、まるまま展開が香港と似ています。そして香港と違って台湾は政権が変わってしまったのですね。例によって中国は「米国の陰謀」と決めつけていますが、背景は李登輝さんの民主化のおかげで自由と民主主義が根付き、台湾人のアイデンティティが構築された結果です。

台湾国民における台湾人・中国人アイデンティティの分布(1992年06月~2023年12月)
緑線:台湾人紫線:両方青線:中国人黒線:無回答
(出典:國立政治大學選舉研究中心重要政治態度分佈趨勢圖
政治大学選挙研究センターHPより)

 これは台湾の政治大学選挙研究センター(https://esc.nccu.edu.tw/)が作成した台湾全国民を対象にした世論分布図です。自分は「台湾人」か「中国人」かを問う調査ですが、その結果「自分は台湾人である」と答えた割合(緑線)が60%まで増えており、「自分は中国人である」と答えた人(青線)は2%、「自分は中国人であるが台湾人でもある」と答えた人(紫線)は30%台となっております。そして台湾は将来どうすすべきかと問う調査では「永遠に現状維持(黒線)」「とりあえず現状維持(青線)」が半数以上に伸びており、独立も統一も望まない勢力が大多数を占めていることがわかります(独立とは台湾共和国樹立という意味です)。

台湾の人民統一独立分野の動向分布(1994年12月~2023年12月)
赤線:すぐ統一濃い赤線:統一志向黒線:とりあえず現状維持青線:永遠に現状維持緑線:独立志向濃い緑線:すぐ独立紫線:無回答
(出典:國立政治大學選舉研究中心重要政治態度分佈趨勢圖
政治大学選挙研究センターHPより)

 さて、中国の戦略家になった気分で香港と台湾を見てみましょう。どんなに経済で豊かになっても、最初から自由と民主主義を知らない中国人民と違って、香港人民や台湾人は自由と民主主義を容易には放棄しないとわかります。やはり力でもって支配するしかない。さもなければ香港や台湾を起点にして国内に民主化運動が波及するかもしれないのです。だから国際社会の批判を浴びてでも香港に干渉する必要があったし、台湾統一に対しても暴力的手段が必要であると判断し得るのです。

 その兆候をご覧に入れましょう。2022年8月10日、中国は最新の台湾白書において台湾統一後に軍や行政官を派遣しないという記述が削除されました。

1993年と2000年の過去2回の白書は、統一後に「台湾に駐留軍や行政官を派遣しない」とし、台湾が中国の特別行政区となった後も自治を認める方針を示していたが、最新の白書にはそのような文章はない。
また2000年の白書は、台湾が一つの中国の概念を受け入れ独立を追求しない限り「何でも交渉できる」としていたが、今回の白書からはそれも消えている。(ロイタースタッフ,中国、最新白書で「一国二制度」方針撤回を示唆 台湾は非難,ロイター電子版,2022.8.10.,https://jp.reuters.com/article/asia-pelosi-taiwan-china-idJPKBN2PG0TH

 折しもペロシ氏ら米議員が訪台した時期ですが、白書作成にはある程度時間がかかるでしょうし、元からその方針だった可能性が高いです。国民党に対して「平和統一」を促す甘言だったのでしょう。経済だけで引き付けるのは難しいのです。

実はあの国も同じ

 8月3日、先述の台湾白書が公表されるのに先立って、盧沙野・駐フランス中国大使が台湾統一後に言及し、愛国心を植え付けるために台湾人を「再教育する」と発言しました。

在フランス中国大使館によると、盧氏は今月3日にフランスメディアの取材に応じ、「10年、20年前は大多数の台湾人が統一を支持していた」と主張。台湾独立志向の民主進歩党民進党)の「反中宣伝」により、台湾の民意が変化したと指摘し、「再教育を行えば、台湾人はまた愛国者となる」と強調した。(台湾統一後に「再教育を」 中国大使発言で反発,産経ニュース電子版,2022.8.11.,https://www.sankei.com/article/20220811-U3AW45OECRPSZBEWBI76RFR6B4/

 10年は馬英九政権、20年は李登輝政権時代を念頭に置いていますが、自由と民主主義に慣れ親しみ、自分を「中国じゃない台湾だ!」と意識するようになった台湾の人々を平和裏に支配下に置くのは難しいのは事実でしょう。「再教育」とは即ち思想統制であり、文化的ジェノサイドであり、絶滅政策です。ウイグルで起こっていることもそうですし、今世間を騒がしているウクライナ戦争でもロシアが実施していることです。

 ロシアが少なくとも6000人のウクライナの子どもを政治的再教育を主目的として、ロシアやクリミアの施設に拘束してきたことが米国の報告書で分かった。実際にはさらに多数の可能性が高いという。
 報告書はロシアによる人権侵害や戦争犯罪の疑惑を調査する米国務省支援のプロジェクトの一環でエール大学がまとめた。(出典:ロ、ウクライナの子ども6000人以上拘束 「再教育」目的=米報告書,ロイター通信日本語版,2023.2.15.,https://jp.reuters.com/article/idUSKBN2UO22K/

 ロシアのプーチン大統領ウクライナへの攻撃を開始したのは2014年にヤヌコヴィッチ大統領が失脚したことを発端としています。2010年に政権の座に就いた彼は親露政策を進め、ロシア語を第二公用語とし、ユーラシア経済連合への加入を志向し、ウクライナ国民が求める欧州連合への加入を見送ります。これに反発した野党と国民が大規模なデモを実施。ヤヌコヴィッチは力で鎮圧を図りますが失敗しロシアへ亡命します。

 わかります?経緯が香港や台湾と一緒なんです。ロシアはヤヌコビッチを強く推しており、2004年の大統領選挙ではあからさまな介入をしたとされています(ロシアに亡命している点からもわかりやすいですね)。それが叶わなかったことから力による解決に乗り出したわけですね。丁度2014年付近ですし、「米国の陰謀だ」と主張するのも同じです。ウクライナ戦争について中国は表向き「中立」を標榜していますが、全体を俯瞰して見れば、大局において中国とロシアは境遇が極めてよく似ていることがわかります。

 もしもこれから先、国民党が政権を再び取ることがあっても、中台の円満統一は不可能でしょう。海峡両岸サービス貿易協定の段階で躓いているのですから、仮に総統が「中台統一」を宣言しようものなら国民の大反発を食らい、即座に失脚してしまうでしょう。中国としてはむしろこれをきっかけとして力による「平和統一作戦」を決行するのではないかというのが筆者の予想です。彼らはあらゆるシナリオを留保しており、より確実に統一できるシナリオを常に探っているのです。次回は習近平政権が考えているであろう統一作戦について具体的に考察していきます。