※本記事は「日中同盟について考察する」を読みやすいように分割し、独立した記事として完結するように大幅に加筆・編集したものになります。ここだけ読んでも大丈夫ですよ。
日中同盟でアジアは平和?
これまで「トランプは日米安保を破棄するか」にて日米安保の存続について考察し、「中露分断はできるのか?」で中露挟撃を避けるために中国と同盟を組めるのかについて検証してきました。詳しくは該当記事を読んでいただければいいのですが、簡単に言えば、将来的に日米安保の消滅はありうる一方、権威主義同士で組んだ中露を分断するのは難しく、日本は英仏やインドやオーストラリアのような価値観を同じくした多国間同盟を志向するのが現実的であると結論付けられました。
しかしながら中露が分断できなくても、日中同盟の意義がなくなるわけではないという考え方もできます。目的は中露の挟撃を防ぐことにあるわけですから、最悪中国が中立を保ってくれれば図1のように日本は安心(?)してロシアと戦えます。

さらに発想を柔軟にして考えるなら別にどちらかと対立する必要もないわけで、中国がロシアをパートナーとしているのなら、日本もその輪に入って図2のように日中露三国同盟を組んだ方が極東アジアはむしろ安定化するとさえいえるでしょう。リベラル左翼の方々には魅力的だと思うに違いありません。

しかしただでそんな「優しい世界」が手に入るほど世の中は甘くありません。作家の冷泉彰彦が提案している日中同盟論について私が「違うな」と思ったのは、彼の次の主張です。
まず中国と組む場合ですが、中国は当面の間は不動産バブルの超長期償却を続けます。その期間は、統制を強めて腐敗と戦う現状の権力集中を続けるしかありません。では、その中国と組む場合は日本も権威主義に従う必要があるかというと、これは突っぱねてもいいと思います。軍事外交では裏切らないが、別の国で制度が違うので日本は民主国で、天皇制度も維持しているということで、お互いにウィンウィンの関係にすべきです。(出典:冷泉彰彦,日本をトランプ主義から救うのは「日中同盟」か「日露同盟」か?在日米軍撤退に現実味、ビジウヨファンタジーで国は守れず,2025.2.19., https://www.mag2.com/p/news/637071)
冷泉氏はリアリストであり、ビジネス右翼が掲げるような大東亜戦争史観や靖国参拝は日米安保という「瓶のふた」があってのことで、それが無くなった後でそれを続けるのは「甘えだ」と指摘しております。それはその通りかもしれませんが、逆にそれさえすれば中国が「対等な」同盟を築いてくれると思うのであれば、それこそ「甘え」だと思います。国際関係は我々が思っているより残酷でストイックな世界であることを念頭に置いておかないと、日本はとても惨めな立場へ追いやられるでしょう。
では今回は日中同盟を結んだら日本はどうなるのかについて、分割前より詳細に解説していきましょう。ぜひ最後までお付き合いくださいね。
日中同盟で尖閣は中国領土
まず一部の日中友好論者は忘れていらっしゃるかもしれませんが、日本は中国とロシアの両方と領土に関するトラブルを抱えております。北方領土は言わずもなが、中国に関しては尖閣諸島について領土問題があると主張され、毎日のように海警局の武装船が侵入している状態です。鳩山由紀夫氏などは「棚上げにすればいい」とおっしゃっていますが、もはやそんなことができる状態ではなく、中国側では尖閣諸島もとい「釣魚島」は中国固有の領土で、日本の船が「不法侵入」しているということになっているのです。
中国海警局の劉徳軍報道官は17日、「日本の漁船『鶴丸』が10月15日から16日にかけて、中国の釣魚島(日本名・尖閣諸島)領海に不法侵入したため、中国海警局艦艇は法に基づき必要な管理・コントロール措置を講じるとともに、退去するよう警告した。(出典:中国の釣魚島領海に不法侵入した日本船に中国海警局が退去警告,人民網日本語版,2024.10.17.,http://j.people.com.cn/n3/2024/1017/c94474-20230782.html)
このように、さも自分たちがパトロールしているかのように振舞って既成事実化していく手法を、サラミスライス戦略と呼び、気づいた時には中国の支配下になっているという寸法です。この状況では、同盟を持ち掛ける段階で「まずは領土問題があることを認め、釣魚島に船を侵入させることを止めろ!」と言われるでしょう。そして改めて中国に領有権があることを主張され、それを受け入れるように迫ってきます。噴飯ものでしょうが、中露の挟撃を防ぎたい日本は受け入れるしかないと思います。
え?そんなことないって? 日本は韓国と領土問題を抱えているけど同盟が組めているじゃないか? それは圧倒的軍事力を持つアメリカが「ハブ」として機能しているからです。仮に竹島をめぐって日韓が争ってもアメリカは双方を抑え込む実力があります。だから成り立つのです。
一方、中国はロシアとパートナーを組んでおり、日本は中露双方と領土に関するトラブルを抱えております。つまり中国からしてみれば自国が有利になるようにロシアと組んで日本に圧力を加えられるわけです。実際、北方領土問題で中国はロシア寄りの姿勢を明確にしております。
中国の習近平国家主席がロシアのプーチン大統領と先月20~21日に行った会談で、北方四島の領有権問題について「(どちらか一方の)立場を取らない」と表明していたことが分かった。中国関係筋が3日までに明らかにした。中国は1964年に最高指導者だった毛沢東が北方四島は日本領だと明言して以降、その認識を崩していなかったが、ロシア側に歩み寄り、中立の立場に変更した。(出典:北方四島、日本領と認めず 習主席、ロシアに歩み寄り,産経新聞電子版,2023.4.4., https://www.sankei.com/article/20230404-Y3ZKW5DZA5ISLNK43PNRJANUYQ/)
人によっては「アメリカ追従がこの事態を招いた」と主張するでしょう。しかしこれはあくまで「公式」という氷山の一角の話です。水面下の方ではさらに過激な動きをしております。それも2012年からです。
中国はサンフランシスコ条約も沖縄も認めていない
国際関係論の研究者でモスクワ国際関係大学出身の北野幸伯氏によると2012年11月15日にロシアメディアである「ロシアの声」にて日本との領土問題について中国が「反日統一戦線」を呼びかけているのです。引用元の記事はすでに削除されているため引用の引用になったことをお許しください(彼の記事に魚拓へのリンクがあります)。魚拓の記事によると、14日にモスクワで開かれた露中韓の三国による国際会議「東アジアにおける安全保障と協力」において演説に立った中国代表の郭シャンガン氏が、ポツダム宣言を引き合いに出して、次のように主張しました。
郭氏は対日同盟を組んでいた米国、ソ連、英国、中国が採択した一連の国際的な宣言では、第2次世界大戦後、敗戦国日本の領土は北海道、本州、四国、九州4島に限定されており、こうした理由で日本は南クリル諸島、トクト(竹島)、釣魚諸島(尖閣諸島)のみならず、沖縄をも要求してはならないとの考えを示した。(出典:北野幸伯,隙あらば沖縄を奪いにくる中国。プーチンと酷似の“狂った”領土観,ロシア経済ジャーナル,2023.7.18., https://www.mag2.com/p/news/580515)
ここで登場する郭氏は中国外務省付属国際問題研究所の副所長(2012年時点)であり、単に一民間人の跳ね返りでないことに注意が必要です。また郭氏はその会合でサンフランシスコ講和条約が古くなっているとの見方を示し、日本に新たな講和条約を結ぶことを求めるとも言っています(魚拓より)。これも彼の個人見解ではなく、中国政府は公式にサンフランシスコ講和条約を否定しております。
中国政府は、「サンフランシスコ講和条約」は中華人民共和国が準備、立案及び調印に参加しておらず、不法で、無効であり、断じて承認できないと、繰り返し厳粛に声明している。釣魚島が琉球の一部であったことはない。「サンフランシスコ講和条約」第3条の信託統治範囲にも釣魚島は含まれていない。(出典:外交部:中国は「サンフランシスコ講和条約」を断じて承認せず,人民網日本語版,2013.6.2.,http://j.people.com.cn/94474/8265727.html)
サンフランシスコ講和条約といえば日本では教科書にも載っていて「それで日本と世界は平和になった」ことになっていますが、中国はこれに参加していないため「違うぞ」と言っているのです。これが日中の歴史認識問題です。靖国参拝を禁止すればいいわけではないんですね。
さらに北野氏からの引用ですでにチラ見しておりますが、中国は琉球(沖縄)が領土未確定であると主張もしており、同盟を組む場合はその再検討も受け入れさせられる可能性があります。
中国共産党機関紙、人民日報が8日、沖縄県の帰属は「歴史上の懸案であり、未解決の問題だ」などとする論文を掲載した問題で、菅義偉官房長官は9日、「(論文が)中国政府の立場であるならば断固として受け入れられない」と抗議したことを明らかにした。中国外務省の華春瑩報道官は同日、「申し入れや抗議を受け入れられない」と反発、日中間の新たな対立の火種となりつつある。(出典:新たな対立の火種に 沖縄帰属めぐる人民日報論文,2013.5.10., https://www.sankei.com/article/20130510-6IXSF2QS25LRVKTYVBBDRUFZFI/)
2023年6月に習近平主席が「琉球」に言及したことについて、日本メディアは大騒ぎし、中国専門家が知ったか顔で「日本が台湾問題に踏み込んでいるからだ」と主張していますが、上記事の日付を見てお分かりの通り、かなり前から言及しているんですね。同時期に出された人民網もドストレートにこう主張をしております。
日本が最終的に中国と敵対する道を選んだならば、中国は現在の政府の立場の変更し、 琉球問題を歴史上未解決の問題として再提起することを検討すべきだ。(出典:琉球問題を掘り起こし、政府の立場変更の伏線を敷く,人民網日本語版,2013.5.12.,http://j.people.com.cn/94474/8240975.html)
中国側としては「いつでも沖縄問題を持ち出せるぞ」と日本を脅しつつ、政治的な要求を飲ませるのが有効な戦略と認識しており、日本が引けばさらに踏み込んで既成事実化を図るのが常道となっております。途中で抵抗しても「日本が敵対化した」と反発してさらに踏み込むといった行動に出るので、ナイーブな外交しかできない日本にとっては真綿で首を絞められた形と言えるでしょう。
ましてや日本がアメリカから見捨てられたからと言って中国に泣きついたなら、中国は圧倒的に有利な立場で交渉できることを意味します。この時点でかなりシビアな要求がありうることを覚悟した方がいいです。
自衛隊は縮小
初っ端から出鼻をくじかれましたが、ここは妥協することとします。尖閣諸島は「日中共同開発」ということにして「引き分け」ということにしましょう(実態は中国領土になるでしょうが)。沖縄も特別区にして中国の影響下に置くことを受け入れるとします。しかし問題はまだあります。
それは日本の防衛政策です。冷泉氏は米軍が出て行って中国と組む場合、自衛隊の専守防衛政策では責任を果たせないとし「正規軍を持ち、敵基地攻撃能力という名の抑止力の自己負担もすべき」と主張しております。これは理論的には間違っていないのですが、中国はそれを認めない可能性が高いです。
これもまた歴史的経緯を知る必要があります。冷戦時代の1960年代、中国は日米安保体制に一貫して反対の立場でした。理由は言うまでもなく反共産主義の同盟国として機能していたからであり、当時の日本の政治家は日中国交正常化の条件として日米安保の破棄を要求されるだろうと予想していたほどです。しかし実際の交渉ではそうはなりませんでした。
それは1971年のキッシンジャー氏訪中から始まった米中の対話にあります。ここでキッシンジャー氏は周恩来首相に日米安保の意義について次のように語りました。
前の記事に日米同盟の意義についてまとめたと思いますが、この「瓶のふた」理論は日本嫌いのキッシンジャー氏の独自見解ではなく、アメリカの本来の対日政策です。この説得を周恩来氏は受け入れて、日米安保体制を容認しました。言うなれば、中国にとっての日米安保は「対中宥和」と「日本の軍事大国化阻止」がコンセンサスになっていたことになります。
しかし近年の日米安保体制は明確に反中同盟と日本の防衛強化のために機能しております。そもそもアメリカが日本に防衛力の強化を求めているのは、日米信頼の醸成もありますが、根本的な理由は台頭する中国に対してアメリカ一国では対処できないためです。でも中国側に言わせれば「話が違うだろ」となるわけで、首脳会談や日米2プラス2の度に反発するのが恒例になりつつあります。無論日本の防衛力強化にもきっちり釘を刺しております。
中国国防部の張暁剛(ちょう・ぎょうごう)報道官は14日、日本防衛省が開発状況を初公開した射程3千キロとなる新型弾道ミサイルは「専守防衛」の範囲をはるかに超えており、同盟国に打撃力向上を求める米国の方針に応じた攻撃型兵器であるとの報道に関し、軍事・安全保障分野で言動を慎むよう日本に求めると表明した。(出典:中国国防部、弾道ミサイル開発で日本に言動を慎むよう求める,中国網日本語版,2025.3.15., http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2025-03/15/content_117767978.htm)
したがって同盟を結ぶ際は日本に対し専守防衛の枠組みまで自衛隊を縮小するように要求してくると思います。敵基地攻撃能力など以ての外でしょう。中国はまだまだ軍拡のポテンシャルが高いので、それを支える為の投資や技術移転を求めてきます。つまり日本はずっと軍隊のいない国でいて、軍事大国中国の保護下に置かれた「旧安保時代の日中版」のような関係になるということです。当然「瓶のふた」役として人民解放軍の日本駐留も提案されるかもしれません。
仮に要求を突っぱねて独自の軍事力を整備しようとした場合、同盟の話は立ち消えになります。中国は「日本は軍事大国化の意志あり」と見なし、ロシアと組んで圧力をかけてくるでしょう。ええ、そうです。ロシアも「日本の軍事大国化阻止」では中国と利害を共有しているんです。そういった事情もまた中露分断が不可能である理由の一つなのです。
中国のイエスマンに
問題はまだあります。同盟を結んだ場合、日本は中国を批判する立場に居られなくなります。つまり中国に対してイエスマンになることが前提となるのです。冷泉氏は同盟締結後の日本国の形について、中国の権威主義に従う必要はなく「突っぱねてもいい」とおっしゃっていますが、それも難しいでしょう。
これも感情論ではなく、高度経済成長期が終わって停滞気味な中国にとって、共産党政権の権威が「絶対」になるからです。それは「不動産バブルの長期償却」や「腐敗撲滅」のために内向きになるのではなく、国際的影響力の拡大や台湾統一工作など外向きの動きに積極的になることを意味します。
したがって中国と組む以上、国際社会では彼らの主張に寄り添う必要に迫られます。実際、すでに中国の影響下にあるカンボジアやラオスは台湾やウイグル問題について中国と歩調を合わせた主張をしております。
一方、カンボジアのクン・ポアク外務次官は4日、議長国として行った会見で、「カンボジアの立場としては、台湾や新疆ウイグル自治区、香港などは全て中国の内政問題だ」と述べた。ラオスも外務省報道官の声明で、「『二つの中国』の状況を作り出そうとするあらゆる意図に反対する」と表明した。カンボジアとラオスは中国に経済で大きく依存しており、中国を批判しない姿勢で一貫している。(出典:カンボジア「全ては中国の内政問題」ラオス「二つの中国への意図に反対」…批判しない姿勢で一貫,読売新聞電子版,2022.8.6., https://www.yomiuri.co.jp/world/20220806-OYT1T50076/)
最近、タイ王国でも国内で拘束したウイグル人を中国に強制送還して人権団体から非難されております。
タイ当局は27日、少数民族ウイグル少なくとも40人を中国に強制送還したことを明らかにした。人権団体は、強制送還されれば拷問を受け、死に至る可能性があると警鐘を鳴らしていた。(出典:タイ、ウイグル族40人を中国に強制送還 人権団体や欧米が非難,BBCニュース日本語版,2025.2.28., https://www.bbc.com/japanese/articles/c89yyj179k2o)
念のために言っておきますが、カンボジアもラオスもタイもまだ中国と同盟を結んでおりません。一帯一路に参加しているの段階でこの有様です。
日本も他人事ではありません。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると昨年2024年の6月から8月に実施した聞き取り調査で、中国当局が日本在住の中国人および少数民族に対し、政府を批判するなと脅迫する事例が相次いでいたというのです。
HRWによれば、新疆ウイグル自治区の人権問題を扱う日本の団体を支援する同自治区出身者は、中国で暮らす親族と電話で話していたところ、突然電話を代わった現地の警察官から「家族がどうなっても知らないぞ」と言われた。また、中国の「ゼロコロナ」政策への抗議活動を企画した人は、当時在籍していた日本語学校を通じ、在日中国大使館から活動をやめるよう迫られた。(出典:「中国当局、在日中国人を脅迫」 政権批判に「口封じ」―人権団体,時事通信電子版,2024.10.10., https://www.jiji.com/jc/article?k=2024101000756&g=int)
その原因は中国の統治システムにあり、日本と違って政権交代ができない彼らにとって権威失墜は亡国と同じだからです。だからを批判する者は皆「敵」として扱わなければならず統制も厳しくなります。また歴史においても漢人は異民族に脅かされた時代が長いので、外国からの批判にも「内政干渉だ」と反発せざるを得ません。
冷泉氏はビジネス右翼の「大東亜戦争史観」や「靖国」ばかり心配していらっしゃいますが、日本には日本ウイグル協会、日本チベット国会議員連盟、日華議員懇談会など中国共産党に都合の悪いものがわんさかいます。最近でも中国は1972年の日中共同文章を根拠に日本の地方自治体や地方議員に「日台交流を中止」するように圧力をかけています。これには媚中政権の石破政権ですら、地方議員が日中共同声明に従って「中国の立場を十分理解し、尊重する」法的拘束力はないと閣議決定しておりますが、中国は気に入らないようです。
中国外務省の毛寧報道局長は17日の記者会見で、石破茂内閣が1972年の日中共同声明の解釈に関して「法的拘束力を有するものではない」とする答弁書を閣議決定したことについて「当然法的拘束力を持つ」と反論した。その上で「中国は外交関係を有する国と台湾とのいかなる形式の公式交流に断固として反対する」と強調した。(出典:中国報道局長、石破内閣の日中共同声明「法的拘束力有さない」に反論 台湾と交流「反対」,産経新聞電子版、2025.3.18., https://www.sankei.com/article/20250318-HIAIXVKZVVDXRADJ5SMMM5L6V4/)
現時点でもこれですから、同盟を結ぶならより徹底的に「中国の立場を十分に理解し尊重」しなければなりません。ただし中国のために人権問題で中国を擁護したり、ウイグル人を強制送還したりした場合、日本も国際社会から非難されるのは言うまでもありません。国内の関係団体を強制的に排除すれば日本国憲法にも抵触するでしょう。
しかし突っぱねれば「敵対」と見なされ、やはり同盟の話はお釈迦になります。日本と中国は政治体制が違うのだから中国が配慮してくれると思うのは「甘え」です。
皇室も無関係ではいられないでしょう。2009年12月15日、当時副主席だった習近平氏は小沢一郎氏に無理を言わせて、一か月ルールを無視した天皇特別会見を実現させました。今も国賓での訪日を狙って親中派を促しておりますね。これは天皇が日本で大きな権威を持つことを知っているからです。だから以前から中国は皇室の弱体化を狙った工作を繰り返しており、同盟を結べば彼らの都合のいいように管理されるか強制的に廃止させられるでしょう。
甘えの日本、甘えぬ中国
なおも往生際の悪い日中友好論者は「中国がそんなことするはずない」とか「対話で何とかすればいい」とおっしゃることでしょう。対話することは正しいのですが、何の戦略も交渉カードもなく「ただひたすら対話する」では永久に平行線をたどるか、日本が譲歩し続けるかのどちらかになります。
これは戦前から続く日本特有の甘えがあり「話が合わなきゃ戦えばいい」という発想があったからです。敗戦後は「戦う」が消えて「話が合わなきゃ・・・」という形になっており、経済関係の外交は進んでも安全保障に係るものは日米関係を基軸にしないと何も成立しないのです。日本の「対米従属」外交の根っこはここにあります。
一方、中国の方はそう言った甘えは一切ありません。こういう言い方は意外でしょうが、漢人たちは戦争が不得手です。実際、中国の歴史は非漢人による征服国家の時代も少なくなく、中越戦争ではカンボジアを侵攻したベトナムを「懲罰」と言って侵攻するも、戻ってきたベトナム軍を前に即座に逃げ帰った経緯があります。しかし、だからこそ外交では強気で、かつ巧妙に仕掛けてくるのです。
そして国の自立のためには危ない橋もわたります。中ソ対立の経緯と背景でも触れましたが、中国が核実験をした当初はソ連はもちろん、アメリカも敵に回していました。その状態から外交で抜け出しているのですから「とりあえず対話しよう」で挑んでいるはずがありません。
先ほど中国にとっての日米安保は「対中宥和」と「日本の軍事大国化阻止」がコンセンサスになっていたと書きましたが、中国はそれがいつか必ず反故にされると踏んでおり、日本の親中派に日米安保の否定を吹き込んでいます。その証拠は今は亡き石原慎太郎氏が都知事をしていた頃に記者会見で語ったエピソードにあります。当時、尖閣諸島を東京都が買い取るという政策を進めていた彼は、記者から駐中国日本大使が「日本は変わった国だ」と発言されたことについて感想を求めたところ「アイツが変わってんだよ」と日本の外交官をこき下ろした上で、こう語りました。
「昔ね中江要介ってね私が親しく可愛がっていた奴がいるんだ。舞台のバレエの台本なんかやる、この男がね、インテリゲンチャで、まぁましだと思ったら、中国大使になったらガラッと変わったね。驚くほど変わった、ものの考え方が。それでね“とにかく日米安保、日米関係ってのは中国で障害なんでね。これは無くさなきゃいかん”みたいなことを言い出して、外務省は非常に困惑して迷惑したんだけどね……」
実はこの中江要介という方、日中平和友好条約締結に関わった外交官で、彼の書物「日中外交の証言」でその経緯が語られております。その本で特に注目されているのが第二条の「反覇権」条項であり、中国がいかにそれを重視しているかが語られております。そして終盤で彼はこう語っているのです。
一方、わが方は、覇権に反対したことがいったいあるのだろうか。よくよく考えてみると、独立国日本にいつまでも外国の軍隊を駐留させて、基地作業員の基本給、施設の光熱費、水道料、訓練移転費などを負担し、さらにアメリカ軍基地グアムへの移転費用まで持てと言われ、言うことを聞かなければ、アメリカは日本を守らないぞと言われんばかりである。そういうのを覇権主義というのか言わないのか、もし覇権主義というのであれば、それに反対しなければいけない。しかし、反対する気概は日本のどこにあるのだろうか。
(出典:中江要介,日中外交の証言,蒼天社出版,2008,p171)
これが日本の親中派の根っこです。中国が日米安保を容認した時から、仕掛けはすでに始まっていたのです。日本の親中派は未だにこの世界観に留まったまま、現実主義の親米派と対立しているのです。その間に中国は経済成長とともに堂々と軍拡を進め、アメリカと覇権戦争を繰り広げています。それもすべて日本の「甘え」がもたらした結果です。
ほぼ完膚なきまでに日中同盟論が論駁された形となりますが、最大の問題が日本に降りかかります。それは次の「日中同盟は裏切り、アメリカは許さない」に続きます。
(2025/9/12 「中国はサンフランシスコ条約も沖縄も認めていない」にて本文加筆)