ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

日中同盟は裏切り、アメリカは許さない──日中同盟論考察──

※本記事は「日中同盟について考察する」を読みやすいように分割し、独立した記事として完結するように大幅に加筆・編集したものになります。ここだけ読んでも大丈夫です。

 これまで「トランプは日米安保を破棄するか」「中露分断はできるのか?」「日中同盟はナンセンス!」の3記事にわたって、将来日米安保が破棄される可能性から、破棄された場合の日本の同盟戦略、そして中国と同盟を結んだ場合の影響について考察してきました。特に中国との同盟においては「対等な関係にできる」と思うのは日本側の思い込みであって、実際は中国の軍門に下るという表現がしっくりくる結論となりました。

 

戦争より属国がまし?

 それでもなお日中同盟に意義はあると主張し続けることもできるでしょう。中国は対外進出をやめないのだから、それに抵抗して悲惨な戦争になるくらいなら、いっそ中国の言いなりになった方がいい。そうすれば中国主導の東アジアにおいて日本は名誉ある地位に立てるかもしれないと。もはやリアリズムというよりマキャベリズムに近い考え方ですが、こうした主張は今後現れると予想します(というかすでに確認しています。詳しくは「日中関係の現状と将来(3)」へ)。
 しかし本当に大変なのはここからです。冷泉氏もこれから出るであろう日中同盟論者たちも大事な視点を忘れております。アメリカ合衆国の反応です。え? 日本は安保を破棄されてアメリカに見捨てられるシナリオなのだから、その後は自由に動いていいと思いましたか? 「トランプは日米安保を破棄するか」では日米安保が破棄されるシナリオを次のように検証しましたね。

  1. 必要性の喪失
  2. 日本の反米化
  3. アメリカの日本への信頼喪失
  4. アメリカの財政的・軍事的事情

 このうち可能性の高いのは3か4と結論付けました。3は必死に頭を下げればよいとして、4の場合は在日米軍なしで頑張ることになります。それでも同盟が消えるわけではなく、戦略的なパートナーとしての枠組みは残ると予想しました。
 過去記事「米中世界覇権戦争を理解しよう」で解説している通り、米中は世界覇権戦争の状態にあります。まだ直接戦闘に至ってませんが、地政学をめぐる対立は避けられず、日本を含めた国際社会が巻き込まれると結論付けました。ここで日本の勝手な都合で日中同盟が組まれた場合、地政学的にダイナミックな変化を引き起こすことになります。

日本の地政学的価値

「いや、日本は小さい国だし、資源もないから関係ないんじゃね」と思ったそこのあなた。米中世界覇権戦争において日本がどれほど重要な立場であるかを、わかりやすく説明しましょう。
 まずは現在の中国の掲げる勢力図を以下に示します。南シナ海では中国が人工島を建設したことで、その影響力を強化しております。そして東シナ海では尖閣諸島周辺でつばぜり合いをしている段階です。

図1.現在のアジアの勢力図

 ここで重要なのは第一列島線によって中国の勢力(赤)がせき止められていることです。近年中国艦隊が沖縄本島宮古島の間である宮古海峡を通過することがよく報道されます。保守派や嫌中にとっては「中国の野郎、好き放題しやがって」と思われるかもしれませんが、実際は中国艦通過の一部始終を常にわが国の海上自衛隊アメリカ軍が監視しております。

令和7年3月31日(月)午前3時頃、海上自衛隊は、宮古島沖縄県)の北東約100kmの海域において、同海域を南進する中国海軍ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(艦番号「123」)及びジャンカイⅡ級フリゲート(艦番号「576」)を確認した。
その後、これらの艦艇が沖縄本島宮古島との間の海域を南進し、太平洋へ向けて航行したことを確認した。
また、令和7年3月31日(月)午後3時頃、海上自衛隊は、宮古島の北東約130kmの海域において、同海域を南東進する中国海軍ドンディアオ級情報収集艦(艦番号「796」)を確認した。
その後、当該艦艇が沖縄本島宮古島との間の海域を南東進し、太平洋へ向けて航行したことを確認した。
防衛省自衛隊は、海上自衛隊第5航空群所属「P-3C」(那覇)により、警戒監視・情報収集を行った。(出典:中国海軍艦艇の動向について,2025.3.31., 防衛省統合幕僚監部 報道発表資料https://www.mod.go.jp/js/pdf/2025/p20250331_02.pdfより)

 この状況、中国側からしてみれば、日米がその気になればいつでも海の藻屑にされる状態なのです。だから中国艦に乗っている水兵達にとっては、常に針の筵を歩いているような緊張感の中にいると思われます。
 しかしここで日米安保が破棄されて、不安に駆られた日本が中国と同盟を結べば状況は一転。中国艦隊は安心していつでも好きなだけ太平洋に出ていくことができるようになります。つまり以下のようになります。

図2.日中同盟下のアジア勢力図

 御覧の通りまるで大雨の日に堤防が崩れたように赤い勢力が第一列島線どころか第二列島線まであふれ出しております。こうして見ると海洋勢力としての日本の存在がいかに大きいかわかりますね。日本人は自分の国をちっぽけだと卑下しますが、十分に大国なのです。この地政学ダイナミクスは周辺の国々に多大な影響を与えます。

日中同盟でアジアは中国の裏庭に

 まず韓国は地理的に日中に挟まれている上、歴史的にも中国の影響下にある時代が長いので必然的に中国陣営に収まります。現在もすでに親米派の与党と親中派の野党で内戦直前の有様となっていますが、まぁ、収まるところに収まると思います。
 次に台湾は否応なく中国に統一されるでしょう。彼らは台頭する中国の様々な圧力にさらなれながらも、在日米軍基地を拠点とするアメリカのプレゼンスのおかげで、自立を保ってきました。しかし日本が中国と同盟を結べば台湾周辺は完全な赤い海になり、封鎖も武力併合も思いのままになります。
 東南アジア諸国も例外ではありません。彼らは中国から経済的恩恵を受けながらも、アメリカや日本との関係を維持することで中立的な立場を維持しております。すなわちバランス外交というわけですが、日中同盟ができればそれが維持できません。例えば日本が米軍に支払っている思いやり予算は約2110億円になりますが、フィリピンやインドネシアがこれを負担するのは困難です。したがって彼らも中国の配下に入らざるを得ないでしょう。つまりこういうことです。

図3.大アジア運命共同体の成立

 東南アジア諸国も全て取り込んで、南はオーストラリア大陸、西はインド洋へ迫ってしまっております。赤い帝国として貫禄が出てきたとは思いませんか?
 この勢力図には中国の戦略上の根拠があって、マレー半島スマトラ島の間にあるマラッカ海峡を確保するためです。同海峡は太平洋からインド洋を繋ぐ交易の要所で、中国は常日頃ここが他国の軍によって封鎖されることを恐れていました(マラッカ・ジレンマ)。習近平主席が一帯一路構想を持ち出したのも、単にインフラ輸出を活発化させるだけでなく、交易経由国での中国のプレゼンスを高めることで、航路の安全を確保するためなのです。
 その努力が実ったのか、最近の東南アジア諸国連合ASEAN)加盟国の識者らへのアンケートではアメリカと中国のどちらかと同盟を結ぶことを迫られた場合、中国を選ぶ回答が半数を超えたそうです。

調査はシンガポールシンクタンク「ISEASユソフ・イシャク研究所」が今年1~2月、研究者や市民団体代表、政府関係者ら約2千人を対象に実施した。
調査の結果、中国との同盟を選んだ回答は過半数の50・5%を占めた。米国は49・5%だった。23年の前回調査では、米国が61・1%、中国が38・9%だった。(出典:ASEAN、同盟組むなら「中国選ぶ」が5割超 初めて「米国」上回る 識者ら調査,産経新聞電子版,2024.10.22., https://www.sankei.com/article/20241022-2OPENFGEX5LBPGPWB5AEFH5XSM/)

 念のためにこのアンケートの前提はあくまで日米同盟が強固な場合です。実際、米中対立におけるリスク回避のパートナーとして日本は欧州に次いで二番目に選ばれており、地域安定化のプレーヤとして期待されていることがわかります。日中同盟の場合日本は中国の手下になるので、彼らの希望も潰えるのです。

そして中国の時代へ

 アジア全体が中国の勢力圏に入ることはアメリカのインド太平洋戦略に致命的な影響を与えます。勘の良い方はすでにお気づきでしょうが、中国にとってマラッカ海峡が安全になるということは、裏手を返せばアメリカにとっては不安定になるということです。つまりアメリカ艦艇は同海峡を渡るたびに中国海軍の監視を受けることになるため、満足にインド洋へ戦力を投射できません。当然その空白を埋めるために中国は動きますから、最終的にこうなることとなります。

図4.一帯一路完全版

 ミャンマーのキャウクピュ港、スリランカのハンバントタ港、パキスタンのグワダール港などを拠点がその真価を発揮して中国軍がインド洋へ展開するようになります。これは決して私の感想ではなく、中国の戦略家がはっきりと軍民両用にする展望を著作に書いているのです。元自衛隊幹部の矢野 義昭氏が記事に引用しているので、孫引きさせていただきます。

 海外投資は、これまでは民間企業が海上安全に対する配慮無しに無統制に行ってきたが、今後は、民間投資は努めて重要な海峡、運河、水域に重点的に投資させる。
 中国の主要な輸出先港湾をもつ国・地区への投資を優先し、重要な交易ルートの代替港湾に重点投資する。
 海外投資の重点対象となるこれらの要域については、徐々に民用から軍事用に転換させ、しだいに中国の海上安全保障のための海外重要基地にしていく。
 ※呂婿等著『我が国海上ルートの安全保障研究』経済科学出版社、2017年、231-232頁 より著者が引用(出典:矢野 義昭,中国の「一帯一路」、表の意味と裏の意味,JBpress,2018.7.26., https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53631)

 なお図4をよく見ていただければ、中国出資の港湾はインドを囲い込むような配置となっていることに気づくかもしれません。これは「真珠の首飾り戦略」と呼び、中国が将来台頭するインドを封じ込めるために長年取り組んできた戦略です。これが実を結んだ時、もう中国に怖いものはなくなります。中東の産油国や最後のフロンティアと呼ばれるアフリカへ軍事プレゼンスを提供し、名実ともにアメリカに代わる世界覇権国として繁栄することができるでしょう。
 対照的にアメリカは覇権国から落伍することは避けられなくなります。一応、インド洋にはアメリカ軍が基地を構えるディエゴガルシア島がありますが、ここだけで台頭する中国軍を押し返すのは容易ではないでしょう。中国を新たな覇権国と認めてそのご相伴に預かるか、北米大陸に引きこもって徹底した孤立主義に邁進するかのどちらかになるでしょう(誇り高きアングロサクソンの精神を考えたら後者でしょうね)。

日中同盟=アメリカへの裏切りになる

 いかに日本にそれなりの事情があったとしても、これほどの地政学的損失を受けるかもしれない状況に立たされたなら、アメリカは黙って受け入れることはありません。日本では相も変わらずトランプ大統領が「予測不能」な行動ばかりしていると報じられますが、そんなことはなく彼は地政学に基づいて行動しております。
 その最たる例がパナマ運河をめぐる攻防です。就任時点からトランプ氏は同運河の運用権の奪還を主張しており、パナマに対して圧力をかけていました。その結果、パナマ中国の一帯一路から離脱する方針を表明、中国企業が運営していた出入口の湾口アメリカ企業が率いる投資連合に売却されることになったのです。

パナマのムリノ大統領はルビオ氏との会談後、一帯一路構想への協力に関する中国との合意を更新しない方針を示し、失効前に打ち切る可能性もあると表明。合意は2─3年で失効する予定としたが、詳細は明らかにしなかった。(出典:パナマ、中国「一帯一路」構想から離脱意向 米国務長官が歓迎,ロイター通信日本語版,2025.2.4., https://jp.reuters.com/world/us/3RQ6IBKDO5IH5NSPNO773IHGQU-2025-02-03/)

 

香港を拠点とするCKハチソン・ホールディングスは4日、中米パナマが全面的な管理権を得ているパナマ運河の入り口にある二つの港について、株式の大半を米投資大手ブラックロックが率いる投資家連合に売却することで合意したと発表した。(出典:パナマ運河の港湾の運営権、香港企業が米企業への売却で合意,BBCニュース日本語版,2025.3.5., https://www.bbc.com/japanese/articles/czedy9d0pjno)

 理由は言うまでもなく、パナマ運河シーレーンの要所であり、アメリカの利益に直結するからです。一方、中国も全力で対抗する構えのようで一帯一路に留まるようにパナマに圧力をかけたり、湾口の売却も阻止しようと動いております。

中国の趙志遠(ちょう・しえん)外務次官補は7日、パナマの駐中国大使と会談し、同国が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱することを決めたことに厳重な抗議を行った。中国外務省が8日発表した。趙氏は「深い遺憾」の意を示し、「外部からの干渉を排除し、正しい決定を下すことを望む」とパナマ側に求めた。(出典:中国が一帯一路離脱のパナマに抗議 「干渉を排除し、正しい決断を」と駐在大使に要求,産経新聞電子版,2025.2.8., https://www.sankei.com/article/20250208-XAIDPX6IPVPAJHE6H4DGZZNIM4/)

 

香港の複合企業がパナマ運河港湾の運営権を米投資会社に売却する計画を巡り、中国政府が阻止しようと香港側へ圧力をかけている。習近平政権は、事業売却は「国益」に反すると主張。パナマ運河の奪還を目指すトランプ米政権への対抗姿勢をむき出しにしている。 (出典:パナマ港湾売却阻止へ圧力 米に対抗、香港企業に再考迫る―中国,時事通信電子版,2025.3.24., https://www.jiji.com/jc/article?k=2025032300164&g=int)

 このように米中の世界覇権をめぐる戦略的要所の取り合いは激しさを増しております。トランプ氏の主張するグリーンランド購入やカナダ併合論も広い意味での地政学が関係しております。ウクライナやガザの件といい、相変わらずやり方が強引で稚拙ではあるものの、恐らくパナマ運河に関しては一定の成果を収める可能性が高いです。
 過去記事でも解説しておりますが、トランプ政権は日本側のイメージに反して日米同盟を重視しております。2月19日、硫黄島の戦い開始から80年になるのに合わせた談話において日米同盟を「平和の礎」と位置付けていることを明言しております。

「残酷な戦いにもかかわらず、日米同盟はインド太平洋の平和と繁栄の礎となった」(出典:日米同盟は「平和の礎」 硫黄島の戦い80年で談話―トランプ大統領,2025.2.20., https://www.jiji.com/jc/article?k=2025022000618&g=int)

 繰り返しになりますが、トランプ氏が「日米安保の片務性」に苦言を呈したのも、日本側の役割拡大を期待している側面が強く、単にフレンドリーでない態度で突き放しているのではありません。
 しかし日中同盟を結ぶ場合はそうはいきません。さっき説明した通り、中国の影響力が飛躍的に増して、アメリカの影響力が致命的に下がるのです。早い話が「裏切り」と見なされる可能性が高いのです。

アメリカの制裁

 裏切られたアメリカは日本にどんな対応をするのでしょうか? まず日中同盟へ向けた交渉時から圧力をかけることが予想されます。日本がそれを無視して同盟成立させた場合、アメリカ大統領や国務長官、国防長官が日本を非難する公式声明を出すでしょう。次に在米日本大使の召還、駐日アメリカ大使の一時帰国といった外交ルートを遮断する対抗措置も取ります。そして同盟国(韓国、オーストラリア、NATO加盟国など)に対して日本の行動の危険性を訴え、国際的な孤立に追い込もうとするかもしれません。
 経済的制裁も食らうでしょう。よく経済といえば中国との関係ばかりが強調されますが、アメリカもまた日本経済において重要なパートナーなのです。

図5.日本の貿易相手国ランキングTop10 (出典:日本の貿易相手国ランキング ,日本貿易振興機構ジェトロ)HP,https://www.jetro.go.jp/world/japan/stats/trade/

 間もなく行われるトランプ政権の相互関税に日本政府は戦々恐々としていますが、「裏切った」と見なされた場合はその程度では済みません。報復を意識した日本製品への高関税、最悪輸入禁止に踏み切る可能性もあります。
 逆に日本へ向けた輸出にも制限がかかるでしょう。すでに中国に対しては先端半導体の輸出規制がかけられていますよね。あれと同様の規制が日本にも課せられます。また日本企業に対するアメリカ国内からの投資も制限・禁止されるでしょう。日本株価は大暴落することが必至です。
 そして日本の金融機関や個人に対して、アメリカの金融システムへのアクセスを制限するなどの措置が検討されるかもしれません。日本の外貨準備高は1兆2500億ドルにも及び、そのほとんどは外国の中央銀行や外国国債として管理されています。これが凍結された場合、海外から物が買えなくなります。これはウクライナに戦争を仕掛けたロシアも受けた制裁であり、同国が中国に依存せざるを得ない要因の一つになっております。
 すでに青息吐息の状態ですが、裏切られたアメリカは許しません。最大にして最強の制裁が降りかかります。防衛装備の購入規制と情報共有の停止です。日本が中国と同盟を結ぶ場合、共同訓練や情報の共有がされますから、アメリカにとっては兵器の情報などが漏洩する深刻な事態です。故に徹底した制裁を行うでしょう。
 例えばトルコはアメリカのステルス戦闘機F35の導入に名乗りを上げ、共同開発国のパートナーとして資金提供を行ってきましたが、2019年にロシア製のミサイルS400を購入したためにF35計画から追放、導入することができなくなりました。ロシアのミサイルシステムによってF35の情報がとられる恐れがあるからです。

 ステファニー・グリシャム(Stephanie Grisham)米大統領報道官は声明で「残念ながら、ロシア製地対空ミサイルシステムS400を購入するというトルコの決断により、同国のF35関与継続は不可能になった」と表明。米国製のF35は「ロシアの情報収集プラットフォームと併用できない。同プラットフォームは、F35の高度な能力について知るために使われる」と説明した。(出典:米、トルコをF35計画から締め出し ロ製ミサイル購入受け,AFPBBニュース日本語版,2019.7.18., https://www.afpbb.com/articles/-/3235653)

 日本の自衛隊F35を導入している他、アメリカ製の装備をたくさん保有しています。国産で作っているものもありますが、エンジンやレーダーがアメリカ製なこともあり、ここに規制を食らうと持続的な運用ができなくなります。そして軍事に関する情報共有を遮断されるのも致命的です。イージス艦などはアメリカの軍事ネットワークありきで動いているので、ただ値段が高いだけの箱舟と化すでしょう。日本の防衛体系は完膚なきまでに崩壊します。
 以上の通り、日本がアメリカから安保条約を破棄されたからと言って、中国と同盟を結ぶという選択肢はナンセンスです。やったら最後、戦後から築き上げた日本の国際的信頼、経済、安全保障のすべてが清算されてしまいます。日本は孤立し中国の属国として細々と生きるしかなくなるでしょう。
 そんなシナリオを国民は納得するでしょうか?あえて触れないでいましたが日本国民の対中感情は悪く8割以上が「親しみを感じない」となっております。そんな環境で「日本のためだから」といって中国との同盟に走り、アメリカの制裁を受けて、しかも対等な同盟ではないとするなら反発が予想され、政治的な対立が深まって不安定になります。そこを付け込まれれば、最悪の日本分割へ一直線です。

地政学から読み解く日米関係

 いかがでしたでしょうか?少し刺激的な内容になってしまいましたが、こうして従来の価値観に縛られない極端なアイデアを考察することは、日本の国際関係を理解するうえで大変興味深いものです。トランプ政権の「暴走っぷり」は今後も続くでしょうから、これを機会にいろいろな意見が出てくることを期待します。なお私はトランプ政権を理由に日本がアメリカと敵対する必要はないと考えております。
 それもまた地政学が大いに関係しております。といっても難しい話ではありません。日本の地政学の権威、奥山真司教授は地政学を「国家戦略を考えるうえでベースとなる知の集積」と述べています。一例としてはイギリスは欧州で強力な国が台頭しないようにする外交政策を展開しておりました。フランスが台頭した時は対仏大同盟を組み、ドイツが台頭した時は対独同盟を組んだのです。
 同じことがアジア政策にも言えます。日露戦争前は日米関係は比較的良好でイギリスがロシアに対抗するために日本を支援しておりました。しかし日露戦争後日本が台頭するようになると、アメリカとイギリスは中国を支援し、日本を包囲するような戦略にかじを切りました。
 日本敗戦後、ソ連共産主義勢力が台頭するようになると、アメリカは日本を支援し、有力な同盟として関係を強化するようになります。他方で日本の製造業の台頭による貿易摩擦が起こったり、チャイメリカと呼ばれる米中蜜月の時代もありました。そして現在は台頭する中国に対して日米同盟の強化が謳われております。
 わかるでしょうか?日本社会でよくある「出る杭は打たれる」現象です。日本が台頭すれば叩かれる側となりますが、日本以外の国が台頭すれば、それを叩くためにアメリカと日本との関係がよくなる傾向が強いのです。

図6.出る杭叩きの法則

 したがって今現在の日本は「強くなることが許されるターン」です。国が強くなるということはそれだけ自立性が高まることを意味します。これは中国が台頭する前や、アメリカが衰退する前の場合はそうはいきません。国際関係論を研究している北野幸伯氏はメールマガジンにて次のように解説しております。

自立国家になりたい日本が、「日本は自立します!米軍は出て行ってください。
自分の国は自分で守ります!」と宣言したらどうでしょうか?
そして、軍拡をはじめれば、中国、ロシア、北朝鮮プラスアメリカが、
日本の敵になるでしょう。
これで日本は終了です。
しかし、アメリカの要求で、日本がイヤイヤ軍拡をすれば、
少なくともアメリカは日本の味方でありつづけます。
つまり、日本はアメリカの衰退分を補う形で軍拡していく。
すると、事実として強くなるのは日本なので、日本は自然と、
軍事の自立に向かっていくのです。
(出典:北野幸伯,★日本は【自然に】【自立国家】にむかっていく。なぜ?,【裏】ロシア政治経済ジャーナル,No.373,2025.2.15., https://www.rpejournal.com/urarpe373.html)

 何度も繰り返しますが、これから我々が見るアメリカはかっこつけながら萎んでいきます。それを利用して日本が自立を取り戻すのか、もしくは新たな隷属先を見つけて亡国の道をひた走るのか。それは我々自身にかかっているのです。
 とはいえ対中政策に関して「同盟」はナンセンスですが、向こうから仕掛けてこない限りは敵対する必要もなく、当面は普通の二国間としての対話と協力を進めるのが無難です。ロシアもそうです。しかし彼らは極東での勢力拡大のために軍事行動を活発化させ、経済交流を通して「アメリカを裏切る」ように仕向けてきますから、慎重に行動する必要があるでしょう。その辺り親中派や親ロシア派は脇がとても甘いので、日本外交の不安定要素となります。