ハトヤブの考察レポート

世の出来事の根本を掘り出して未来を予想する

トランプ政権に期待できること

 皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。新年いかがお過ごしでしょうか?
 2025年1月20に二期目のトランプ新政権が誕生します。この件に関して主に経済政策や不法移民対策、外交政策に気候変動対策に注目が集まっているかと思います。その多くはメディアや専門家たちの間では厳しいものが多く、読売新聞は国内の経営者を対象にしたアンケートを通して、トランプ次期政権の関税政策を懸念する意見を紹介しております。
トランプ氏の政策については9人が「ある程度懸念している」と回答し、1人は「大いに懸念している」とした。理由(複数回答)では、10人全員が関税引き上げで米中対立が激化し、世界経済を下押しする可能性があるとした。5人は関税引き上げで、輸出品の競争力が低下する恐れがあることも挙げた。「ますますブロック経済化が進んでしまう」(製造業)との懸念も聞かれた。(出典:トランプ氏の関税引き上げ、経営トップらに警戒感…米中対立激化で業績に影響の可能性,読売新聞,2025.1.3., https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250103-OYT1T50050/)
 このように否定論が多い二期目のトランプ政権ですが、展望もあります。一つは減税や規制緩和を通して経済を活性化する可能性があること。増長を続ける中国について強い姿勢を継続すること。不法移民の取り締まりで治安が回復することなどがあげられます。

 

トランプ政権が始めた月計画

 まだ新年あけて間もないことですし、もっと夢のある話をしましょう。いろいろ批判が多いトランプ政権ですが、ある分野では大きな貢献をしました。
 それは宇宙分野です。2017年にトランプ大統領は月探査計画を承認する宇宙政策指令第一号を署名し、2年後の2019年にNASAはアルテミス計画を立ち上げました。この計画はオリオン宇宙船と月起動プラットフォームゲートウェイ、民間による商業月面輸送サービスなどによる持続的な月面での持続的な駐留と開発、そして有人火星探査へ向けた長期目標へ向けた重要なステップです。

(CNN) 米航空宇宙局(NASA)は13日、トランプ大統領が発表した追加予算を受け、2024年までに月面に米国人女性で初、男性で13人目の飛行士を送り込む計画を明らかにした。
トランプ氏は同日のツイートで、NASAに16億ドル(約1750億円)の追加予算を出すと表明した。NASAはもともと来年度予算で、有人月面探査などに向けた予算計210億ドルを要求していた。(出典:NASA、初の女性飛行士の月面着陸目指す 24年までに,CNN日本語版,2019.5.14.,https://www.cnn.co.jp/fringe/35136898.html)

 かつてアメリカはアポロ計画で月面着陸を成功させましたが、その後の計画でコストが嵩み、1972年を最後に終了しました。その後はスカイラブ計画など地球周回軌道での開発に移行するとともに、より経済的な宇宙航行手段としてスペースシャトル計画を始動させます。開発は成功し1981年に初飛行したスペースシャトルは再利用可能な宇宙船として、国際宇宙ステーションISS)の建設など30年にわたるミッションに貢献しました。

エンデバー号の着陸(STS-108)(C)宇宙航空研究開発機構より

 

 しかしそのスペースシャトルもコストが嵩み2011年に退役します。その後継としてアメリカ宇宙開発機構(NASA)は新たな宇宙船を開発します。それがオリオン宇宙船であり、第二の月探査計画であるコンステレーション計画まで発展しますが、開発の遅れやサブプライムショックによる財政悪化を理由にオバマ政権によって中止されてしまいました。その後宇宙開発は民間企業の参入を促進させる政策へ転換し、ISSへの往還はロシアのソユーズ宇宙船に頼ることになります。

 そんな中始動したアルテミス計画は日本やカナダ、欧州などとの国際的パートナーシップを促進させる重要な役割を果たすと共に、民間企業による商業的な宇宙開発の起爆剤になることが期待されます。本当の意味の宇宙の時代が来るかもしれない、と多くの人々に希望を持たせました。

背景には米中競争

 アポロ計画は単にアメリカの技術的優位性を示すだけではなく、冷静時代における安全保障と民主主義国としての威信をかけた非常に重要なプロジェクトでした。ロケット技術は弾道ミサイルの基盤技術でもあり、月まで人類を送るロケットを完成させることで、アメリカは世界に向けて強力なメッセージを発信したのです。

存在感を増す中国

 実はアルテミス計画にも似たようなところがあります。念頭に置いているのは中国です。2003年に嫦娥計画を始動させた中国は2007年と2010年にそれぞれ嫦娥1号と2号で月を周回し月面を観測、3D画像や月の地図を作成しました。2013年の嫦娥3号で世界3か国目となる無人月面着陸を果たし、2018年に嫦娥4号が人類で初めて月の裏側へ着陸、機体内部に格納していた綿花の種子の発芽に成功しました。さらに2020年には嫦娥5号によって中国初のサンプルリターンに成功し、2024年には嫦娥6号が世界初となる月の裏側からのサンプルリターンに成功しております。

嫦娥6号 NHKウェブニュースhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20240625/k10014491441000.htmlより引用、
中国メディアより提供

 

 こうした宇宙での中国の台頭はアメリカに対して新たな挑戦者が現れたことを示すものです。アメリカは宇宙開発の競争力を維持するために、新たな技術や戦略を模索する必要に迫られました。アメリカ以外の国に対しても新たな目標を設定するきっかけになったとも言え、月探査を多国間で協力して行うアルテミス合意につながりました。

月の戦略的価値

 また中国の嫦娥計画は安全保障面においても重大な関心を寄せております。一つは資源です。月の表面にはレゴリスと呼ばれる細かい砂のようなものが降り積もっており、水素や核融合の燃料として有望なヘリウム3が含まれるほか、アルミを含む斜長石、チタンや鉄と酸素を含むイルメナイトがあるとされています。日本の宇宙新興企業アイスペースは日本の民間企業初の月面着陸を目指しており、着陸船の装置を使ってレゴリスを採取する計画を立てています。この時宇宙資源法に基づく月面資源開発計画の許可を政府から得ており、回収はしないものの所有権をNASAに売却する方針を立てるなど、宇宙資源の商業取引がすでに始まっております。

 城内宇宙政策相は17日の閣議後の記者会見で、月などで採取した資源の所有権を認める「宇宙資源法」に基づき、宇宙新興企業アイスペース(東京)による月面資源開発計画を許可したと発表した。昨年は失敗に終わった着陸船による月面への軟着陸と、「レゴリス」と呼ばれる月の砂の採取を目指す。
 商業的な宇宙開発を促進する同法による許可は2回目で、2022年の最初の許可も同社の計画だった。(出典:アイスペースの月面資源開発計画を許可、月の砂「レゴリス」採取しNASAに売却へ,読売新聞電子版,2024.12.17.,https://www.yomiuri.co.jp/science/20241217-OYT1T50122/

 もう一つは宇宙での「地政学的」重要性です。嫦娥4号打ち上げの際、中国は鵲橋(じゃっきょう)という中継衛星を打ち上げ、地球ー月系のラグランジュポイントに配置しました。これは中国が高度な宇宙技術を持っていることを示すと同時に、宇宙における戦略的な拠点の確保を目指していることを示しております。

地球ー月系のラグランジュポイント

 

 ラグランジュポイントは二つの天体から見て第三の天体が安定して存在できる座標一であり、この場合は地球と月の重力が均衡する場所であり、観測や通信の中継地点として理想的なポイントとなっています。中国が中継衛星をを配置したのは上図のL2の付近を周回するハロー起動と呼ばれるもので、これによって月の裏側との通信が可能になりました。その優位性はNASAが中国に衛星の共同利用を願い出るほどで、月探査計画はもちろん今後の宇宙計画においてかなり重要な戦略的位置であることがわかります。

 このように宇宙開発において着実に存在感を増している中国に対抗するため、そして宇宙の資源や地政学的な拠点の確保のためにアメリカのアルテミス計画は戦略的に大きな意義を持つのです。

足を引っ張るのは

 中国と競争を繰り広げるアルテミス計画ですが、度々遅延していることで有名です。当初は2024年までに有人での月面着陸を実現する計画でしたが、2024年1月にNASAは有人での月周回試験(アルテミス2)を2025年に、月面着陸(アルテミス3)を2026年に遅らせることを明らかにしました。しかも同年12月にはさらに一年遅らせることを発表しました。

米航空宇宙局(NASA)は5日、米主導の月探査「アルテミス計画」を巡り、2025年9月を予定していた月周辺への有人飛行が26年4月に遅れ、26年9月の予定だった有人月面着陸は27年中盤にずれ込むと発表した。宇宙船オリオンの問題を修正するためで、計画見直しは今年1月以来。(出典:アルテミス計画また遅れ 月飛行2026年、着陸2027年に NASAが発表,産経新聞電子版,2024.12.6.,https://www.sankei.com/article/20241206-CBGYNXBYJFMU5FEDS35MMY45AA/)

  その要因としてSLSの建造遅延とオリオン宇宙船の耐熱シールドがあげられます。SLSはスペースシャトルの部品を利用して開発された大型ロケットですが、不具合により二回ほど延期、ハリケーンの襲来に見舞われるなど踏んだり蹴ったりの状況だったそうです。一方のオリオン宇宙船は初フライトで無事月への往還を果たしたものの、再突入時の耐熱シールドの損耗が予想より激しく、剥離してしまう現象が起こったため、原因を特定する必要があったとのこと。後に原因は分かったものの、宇宙飛行士たちの安全の優先のために計画は遅らされることになったのです。

 

表面が炭化したオリオン宇宙船 ギズモードより引用 NASA James M. Blair提供

 

 とはいえ宇宙飛行士たちの安全は大切ですし、そのための時間と費用は惜しむべきではありません。特に月から地球への帰還時は人類の乗り物で最速と呼ばれるほどの速度(マッハ32)となっており、エアブレーキを兼ねた断熱圧縮は非常に高温で危険です。現状ではオリオン宇宙船がその厳しい環境に耐えた数少ない宇宙船になるので、耐熱シールドの問題を解決するのが得策となるでしょう。

 問題なのはスペースローンチシステムです。この巨大なロケットに関しては高い打ち上げ能力と裏腹にコストも高いというジレンマに入りかかっています。NASAの監査総監室(OIG)の報告ではロケット組み立てから運搬、打ち上げまでを行うのに用いる地上設備「モバイルランチャー」が、建造のコスト高とスケジュールの遅延により、当初見積もっていた費用の6倍になるばかりか、打ち上げのサポート体制が2029年まで整わない可能性があると推測しています。

NASAは元々プロジェクト全体を5億ドル以下に抑えられると見積もっていました。しかしそんな見積もりをよそに、OIGの報告書はモバイル・ランチャーの総額が最終的には27億ドルにのぼり、SLSの打ち上げをサポートする準備は2029年春まで整わないだろうと推測しています。
OIGの見通しは、これまでの3年間に生じた予算超過と、モバイル・ランチャーが準備できるまでに残っている建設作業の量に基づくものです。(出典:NASAの巨大ロケット計画、開発費がふくらみまくっています,ギズモードジャパン,2024.9.8., https://www.gizmodo.jp/2024/09/nasas-next-rocket-launcher-project-is-going-off-the-rails.html)

 このコストの問題は以前からも指摘されており、2020年のレポートではNASAがSLSの予算を更新しないまま、SLSのブースターに関する8億8900万ドルものコストを非アルテミス分野の予算に付け替えたと指摘しています。本来NASAはSLS予算が30%も超過する場合、議会にその旨を通知して再承認を受ける必要がありますが、この「隠蔽工作」を行った結果、33%を15%に抑えられていたというのです。

アルテミス2のコアステージ NASA/Michael DeMockerより提供
 オリオン宇宙船を月に送るのにSLSがベストな選択肢であるのは間違いありませんが、今後も予算超過が慢性的に続き、打ち上げ頻度の増加も難しい場合、アルテミス計画が致命的な遅延に追い込まれるのは避けられません。即ち有人月面探査で中国に先を越され、宇宙開発での主導権を奪われることになるでしょう。

処方箋は政府効率化省?

 ではまもなく発足するトランプ政権はどうするのでしょうか?そこにトランプ政権ならではの可能性が見えるのです。
 まずトランプ氏は減税を経済政策の柱としており、一期目はアメリカ経済を劇的に改善しました。ただ現在は武漢熱(新型コロナ)対策やウクライナ戦争の影響で物価が上昇し、政府の債務の拡大も問題視されており、大規模な減税をすると財源が足りなくなるといった主張が大きいです。

 これにトランプ氏は関税や歳出の削減によって対応するようです。特に歳出の削減については政府効率化省なるものを新設し、大統領選挙中に莫大な献金有権者へのバラマキによって勝利をもたらしたイーロン・マスク氏をトップに起用しました。

アメリカのドナルド・トランプ次期大統領は12日、自らの新政権で「政府効率化省(DOGE)」を新設し、そのトップに実業家イーロン・マスク氏を起用すると発表した。
マスク氏は宇宙開発企業「スペースX」や電気自動車メーカー「テスラ」の創業者。大統領選ではトランプ陣営に巨額の献金をした。
最近では、政府予算のほぼ3分の1に当たる少なくとも2兆ドル(約310兆円)を、連邦政府の支出から減らすよう求めた(具体的に何を減らすべきかには言及していない)。また、連邦政府機関には責任の範囲が重なっているものが多いとし、何百かの機関を廃止するよう提案している。
(出典:【米政権交代】 マスク氏を「政府効率化省」トップに起用、トランプ次期大統領が発表 ラマスワミ氏も抜擢,BBCニュース日本語版,2024.11.13., https://www.bbc.com/japanese/articles/ckgrd3j8xpvo)

 政府効率化省の主な役目は歳出削減と官僚主義からの脱却ですが、記事にある通りいくつかの機関が廃止されたり、予算が削減されることが予想されます。まるで日本の民主党政権時代の蓮舫議員による事業仕分けを連想させますが、こちらは「大きな政府」のための財源確保のためイノベーションを犠牲にするのに対し、マスク氏のDOGEは民間のイノベーション促進のために「小さな政府」を目指すものなので本質が異なります。
 その一つがNASAの改革でしょう。慢性的な予算超過にあるNASAにも当然DOGEの大ナタが振るわれ、先述したようにコスト高と計画遅延をもたらすSLS計画が中止になる可能性が高いのです。

宇宙産業の専門家たちは、トランプ政権がNASA国防総省に対して、より多くのオペレーションを民間の宇宙企業に委託するよう促すと予想している。NASAにおける最大のコスト削減策の1つは、マスクとスペースXに利益をもたらす可能性がある。それは、政府所有のロケットの「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の廃止だ。このロケットは、米国の宇宙飛行士を月に再び送ることを目指すアルテミス計画の主力であり、1回の打ち上げに40億ドル(約5990億円)を要する。これをスペースXの「スターシップ」ロケットに置き換える可能性がある。
(出典:「NASAの予算削減」を狙うトランプ新政権、直面する共和党内部からの反発,フォーブス日本語版,2024.12.5., https://forbesjapan.com/articles/detail/75507/page2)

 SLS計画に関わる人たちにとっては悪夢であり、またDOGEのトップが露骨に自分の宇宙企業を登用するのは日本なら炎上必至な「政治の私物化」ですが、その結果遅延が続いていたアルテミス計画が加速するなら高く評価されるでしょう。一般論としても官製のロケットを廃止して民間ロケットで代用するのはコスト効率を高め、迅速な開発と打ち上げを実現し、より積極的な技術革新を推し進めることができると期待できます。

打ち上げ準備のスターシップ
フォーブスhttps://forbesjapan.com/articles/detail/75376/page2より引用 
 (C) SpaceX より提供

 

 それを窺わせるのが最近のマスク氏の発言です。有人火星探査というグランドデザインを持つ彼はアルテミス計画について次のように批判しております。

During the past 10 days, Musk has begun airing some of these private thoughts publicly. On Christmas Day, for example, Musk wrote on X, “The Artemis architecture is extremely inefficient, as it is a jobs-maximizing program, not a results-maximizing program. Something entirely new is needed.”
Then, on Thursday evening, he added this: "No, we’re going straight to Mars. The moon is a distraction."
(訳:この10日間に、マスク氏は個人的な考えの一部を公に放送し始めました。例えば、クリスマスの日に、マスクはXに「アルテミスのアーキテクチャは非常に非効率的だ。なぜなら、それは雇用を最大化するプログラムであり、結果を最大化するプログラムではないからだ。まったく新しいものが必要だ」
そして、木曜日の夜に、彼はこう付け加えた:「いや、我々は火星に直行するよ。月は気を散らすものでしかない」)
(出典:Elon Musk Calls Out NASA’s Moon Ambitions: ‘We’re Going Straight to Mars’,wired電子版,2025.1.4., https://www.wired.com/story/elon-musk-mars-moon-artemis-nasa/)

 これだけ見ると「トランプ政権でアルテミス計画は中止される!」というセンセーショナルな発信をする人が出そうですが、それは拡大解釈です。そもそもアルテミス計画を立ち上げたのは他ならぬトランプ氏であり、アメリカを再び偉大にする「Make America Areat Again」を掲げている以上は、みすみす中国に月面開発の主導権を取られるわけにはいきません。また同計画にはマスク氏のスペースXも参画しており、本当の計画中止は望んでいないでしょう。

 記事においてもアルテミス計画が白紙になるのではなく、月と火星を同時に目指すのではないかと指摘しております。そのためには宇宙開発計画や官民構造を効率化させ、利権などによって足を引っ張ることがないように改革をする、というのが真意でしょう。
 2024年は戦争の年でしたが、2025年は再び宇宙開発の年になる。そう願いたいものですね。