皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。2024年11月5日、アメリカの大統領選挙にてドナルド・トランプ前大統領が選出されました。2016年に初当選し、2020年にジョー・バイデン現政権に敗れた彼は4年ぶりの再登板に何をするのか、多くの識者が様々な視点から多様な意見を発しております。いわゆる「もしトラ」として日本でも話題になりましたが、その政策は「不確実性」という認識が大半を占めております。
しかしアメリカの大局という視点で見れば大筋の予測はできるのではないでしょうか? 今回は第二次トランプ政権においてアメリカはどうなるのか、国際外交に焦点を当てて考察していきます。
終わったアメリカの時代
まずアメリカの大局とは何ぞやということですが、それは過去記事で解説したように、世界へ軍事展開していたアメリカが軍事介入に消極的になり、次々と撤収していくというものです。
具体的にはオバマ政権時代にアメリカは「世界の警察」を辞め、第一次トランプ政権時代に孤立主義へ回帰、バイデン政権ではアメリカが主導する世界観が崩壊し中露の影響力が拡大する「多極化」が起こっています。それを象徴するのがロシアが始めたウクライナ大規模侵略とハマースの攻撃を受けたイスラエルのガザ掃討戦です。
- ロシアのウクライナ侵略
2022年2月に開始されたロシアによるウクライナへの大規模な軍事侵攻。侵攻はキーフ攻撃から始まり、その後はウクライナ全土にわたる激しい戦闘へ拡大し、多くの民間人が犠牲になり、数百万の人々が避難を余儀なくされました。現在はアメリカと欧州が主導してロシアに経済制裁を課し、ウクライナへの軍事支援や人道支援を行っている状態です。
- ハマースの攻撃とイスラエルのガザ掃討戦
2023年10月、ハマースが行った大規模なテロ攻撃に対し、イスラエルが開始したガザ地区への大規模な軍事作戦。掃討戦はハマースの指導者やインフラを標的にした空爆から、ガザ地区での地上戦にまで発展しました。さらにシーア派武装組織ヒズボッラーや背後のイランとの空爆の応酬までエスカレートします。ガザ地区では深刻な人道的危機を引き起こしており、国際社会からの懸念が高まっています。
総じて言えるのは、もはや湾岸戦争の時のようにアメリカが世界をけん引する時代はすでに終わっているということです。だからこそバイデン政権は同じ価値観を有する友好国、欧州や日本と協力しながら国際的か課題に取り組もうとしてきました。しかしそれでもアメリカの負担は大きいものでした。特にウクライナ戦争では経済的負担が大きく、インフレやそれを抑えるための緊縮による景気減速が課題となっています。
トランプ次期政権がやること
そんな中で再登板が決まったトランプ氏がすることはやはりウクライナ戦争の停戦でしょう。彼はCNNの番組にて「24時間以内に戦争を終わらせる」豪語しておりました。
来場者の女性から米国によるウクライナへの軍事支援を支持するかどうか尋ねられた中で言及した。トランプ氏は、現在自身が大統領なら「1日で戦争を終わらせるだろう」と述べた。
その上でウクライナのゼレンスキー大統領やロシアのプーチン大統領と会談するだろうと付け加えた。
「彼らは共に、弱みと強みの両方を持っている。24時間以内に戦争は解決する。完全に終わるはずだ」(トランプ氏)(出典:ウクライナでの戦争、「私が大統領なら1日で終わらせる」 トランプ氏,CNN,2023.05.11.,https://www.cnn.co.jp/usa/35203626.html)
なお彼は「自分が大統領だったか戦争は起きなかった」と主張しておりますが、その根拠はありません。ウクライナ戦争の背景にはアメリカの影響力の低下があり、それはトランプ氏も関わっているからです。そして「24時間以内に戦争を終わらせる」方法ですが、それはNATOに居ながら親ロシア寄りといわれるハンガリーのオルバン首相が簡潔に説明してくれております。
オルバン氏は10日遅くに放送されたハンガリーのテレビチャンネルM1で、「ウクライナが自力で立っていられないのは明らかだ」と述べた。
「もしアメリカが欧州諸国と並んで資金と武器を提供しなければ、この戦争は終わる。もしアメリカが資金を提供しなければ、欧州だけでこの戦争への資金をまかなうことはできない。そうすれば、この戦争は終わる」
また、ロシアとウクライナの戦争を終わらせる方法について、トランプ氏には「かなり詳細な計画」があると付け加えたが、詳しくは語らなかった。BBCはトランプ氏の陣営にコメントを求めている。(出典:トランプ氏再選なら「ウクライナに一銭も出さない」とハンガリー首相 米支援停止で戦争終結と,BBC news Japan,2024.3.12.,https://www.bbc.com/japanese/articles/cp4lzjx4w48o)
何のことはありません。現在ウクライナがロシアと互角に戦えているのはアメリカの支援あってのことだから、それを止めれば「戦争は終わる」と言っているのです。トランプ氏は対話を重視する傾向があるため、ロシアとの直接的な交渉を提案する可能性が高いです。すでにその兆候は表れており、大統領に当選してまだ間もないうちから、当該国と「電話会談」をしています。
ワシントン・ポストによると、トランプ次期大統領は7日、当選から初めてプーチン大統領と電話で会談。フロリダ州の自宅マール・ア・ラーゴで次期大統領は、プーチン氏にウクライナでの戦争をエスカレートしないよう促し、欧州に相当な規模の米軍が配備されていることに言及したと、消息筋が話したという。
同紙によると、両氏はさらに欧州大陸での平和実現という目標について話し、トランプ氏は「ウクライナでの戦争を近いうちに解決」することについて協議するため、今後も会話を続ける意欲を示したという。
BBCはこの報道内容を独自に確認できていない。(出典:【米政権交代】 トランプ政権のウクライナ政策は…次期大統領はプーチン氏と電話会談と米紙報道,BBC news Japan,2024.11.11., https://www.bbc.com/japanese/articles/c774zxnj0k8o)
ロシアはこの報道を否定しておりますが、ウクライナのゼレンスキー大統領とは電話会談がされていることがはっきりしていますから、信ぴょう性は高いでしょう。その背景はアメリカのウクライナ軍事支援をトランプ氏が見直す姿勢が影響しているのは言うまでもありません。
ウクライナが挑む露有利の停戦交渉
トランプ氏がウクライナへの軍事支援を減少または停止することを表明している以上、それはロシアに対して有利な条件での停戦を促す結果になる可能性があります。ウクライナ側の防衛能力低下が予想されることで、ロシアが交渉において強い立場に立つことになるからです。
日本では先の大戦の反動から停戦を無条件に主張する傾向がありますが、停戦交渉というものはその時の戦況が大きく影響します。戦況が有利なら有利な交渉を、不利なら交渉も不利になるのです。これが容易に戦争を辞めることができない心理をもたらしております。
ただウクライナ側はアメリカが生殺与奪権を握れるので、それを行使することで停戦を促すことができます。一方のロシアは中国の経済協力や北朝鮮やイランの軍事協力を得ているとはいえ、戦時経済として成り立ってますから、まだまだ継続可能なのですね。だから必然的にロシア有利にならざるを得ないです。
すでにアメリカメディアではトランプ氏が終戦案としてウクライナの領土割譲を念頭に置いていることが報じられています。
報道によると、提案はいずれも、ウクライナにおけるロシアの占領地域は現状のまま維持し、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟に向けた動きを停止することを推奨している。ウクライナ政府がNATOに少なくとも20年間は加盟しないと約束する見返りに、将来的なロシアの再攻撃に対する抑止力を高めるため、米政府が兵器供給を続ける案も浮上しているという。(出典:トランプ氏にウクライナ停戦への複数案 側近らが提示 米紙報道,毎日新聞電子版,2024.11.8,https://mainichi.jp/articles/20241108/k00/00m/030/097000c)
この類の報道は今後も増えることでしょう。ウクライナがロシア軍を押し返せない現状ではそうなる可能性が高いです。
ただし、間違ってはならないのがこれをもってウクライナに対して「現実を見ろ、領土なんて諦めて降伏しろ」と言うべきではないということです。それは感情論ではなく「交渉事は話半分」であるからです。特に戦争に発展した場合、互いの要求は互いが容認できない規模に膨らんでおります。そこで片方が引き気味になったら、もう一方はさらなる要求を突き付けてくる可能性があり、かえって交渉が難航してしまう可能性があるのです。この場合、ウクライナが領土を諦める姿勢を示したら、ロシアはさらに踏み込んでくるでしょう。主要メディアは「プーチンの掲げる停戦条件はウクライナの東部4州の割譲とNATO加入の断念」としており、あたかもそれで戦争か終わるかのような表現をしていますが、あくまでこれは交渉を始めるための「条件」として出されていたものです。
プーチン大統領は「条件は非常に単純だ」と強調。ウクライナ東・南部のドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポロジエ4州からのウクライナ軍の完全撤退を挙げ、「ウクライナがこうした決定の用意があると発表し、実際に撤退を開始し、NATO加盟計画を放棄すると正式に表明すれば、われわれは直ち停戦命令を出し、交渉を開始する」と通告した。(出典:プーチン氏、ウクライナに「最後通告」 NATO加盟撤回や4州割譲要求,ロイター通信日本語版,2024.6.15., https://jp.reuters.com/world/ukraine/DX5Y5FGRGJKRFG72SRH3S2SB64-2024-06-14/)
因みにプーチン大統領が掲げているウクライナへの「特別軍事作戦」の目標は以下の三つになります。即ちこれらが終戦交渉の条件として提示されることになります。
ウクライナの非軍事化
ウクライナの「非軍事化」とは武装解除のことであり、はっきり申せば「無条件降伏」です。こう聞くと思い浮かぶのが第二次世界大戦で負けた我が国に米国を中心とした連合国が要求したものですね。即ちすべてのウクライナ国民が武器を捨てて抵抗を止めるという意味であり、まさか自主的な努力義務で終わるわけはなく、武装解除を確認するため、一定期間は武器を持ったロシア兵の監視下に置かれることになります。つまりまんま「占領」です。
戦争が起こった時から今も「ロシア軍によるウクライナ占領」は無理だろうと思っている識者が多いようですが、「非軍事化」は即ちそういう意味であることを理解するべきです。欧米の直接介入を絶対許さないロシアがウクライナ非軍事化を確約するのに多国籍軍を易々と受け入れますか?
ウクライナの非ナチ化
次に「非ナチ化」ですが、識者の多くは現ウクライナ政権であるゼレンスキー大統領の退陣と考えているのが殆どです。もちろんゼレンスキー氏を戦争犯罪人として裁くつもりなのは間違いないのですが、それを「ナチス」なぞらえている点に問題があります。その意図は「ロシア国内の結束」の他に「ウクライナの非欧米化」の側面があるからです。
ですから当然、代わりの政権は親欧米ではなくヤヌコビッチ時代のような親ロシア政権、すなわち傀儡政権にするのが狙いです。無論、すぐまたひっくり返されることがないようにロシア軍による監視が必要になると主張するでしょう。
ウクライナの中立化
最後に「中立化」ですが、これは冷戦時代の我が国において反米を掲げる左翼が良く使う常套句で、その本質はやはり「非欧米化」です。先述の二つの要求も含めてすべて受け入れる場合、ウクライナは「武装解除」されて「非ナチ化」されなければなりませんので、スイスのような武装中立にはなりません。かといってまさか国連の平和維持軍を率先して受け入れるはずもなく、中立とは名ばかりの「ロシア化」になるでしょう。それがわかっているからウクライナ側は受け入れられなかったのです。
とはいえロシアも全く疲弊していないと言ったら嘘になるので、ウクライナ側は不利な状態でも諦めることなくキリキリの交渉に挑むことになるでしょう。その時に最初から引け目だと交渉の幅が狭くなるので「全ウクライナからのロシア軍撤収」を第一目標に掲げる必要があるのです。
アメリカは華麗に敗北
どんな結果になるにせよ、ただ一つ言えることはトランプ次期大統領がウクライナへの軍事支援を停止し、ロシアに有利な条件での停戦を促す場合、アメリカの同盟国やパートナー国からの信頼が低下するのは避けられないということです。アメリカの影響力が低下することで、中国やロシアがより強い影響力を持つようになり、国際的な秩序がより「多極」的な方向へ変化するでしょう。
そして仮に停戦が実現してもロシアの目標が「ウクライナの完全支配」である場合、緊張は依然として続くことになります。そしてプーチン大統領自身が戦争によって政権を安定させている側面が強い以上、機が熟せば停戦合意を「ウクライナ側が破った」と一方的にケチをつけて戦争を再開するかもしれません。
え?トランプさんがいれば戦争は起きないって?それは彼の濃いキャラクターに惑わされているだけです。かつて第一次トランプ政権の時にIS(自称イスラム国)を打倒したとして2019年にシリア北東部から米軍を撤収させましたが、同地域で活動するクルド人達がトルコ軍の攻撃を受けました。これは同国がクルディスタン民兵の活発化を憂慮したもので、国内で活動するテロ集団クルディスタン労働党(PKK)との結託を予防するためと言われています。その動きは事前に予測されており、トランプ氏もけん制はしていましたが防げませんでした。
で、今となっては笑い話になるのですが、シリア北部に武力侵攻したエルドアン大統領に充てたトランプ氏の手紙が届き次第、即ごみ箱行きになっていたそうです。「エルドアン大統領、ずいぶん過激じゃないか」と思われるかもしれませんが、手紙の内容がこんな内容では相手にされなくて当然です。
トランプ大統領は書簡で、エルドアン大統領に対し、「いい取り引きをしようじゃないか! あなたは数千人の虐殺の責任を負いたくはないだろうし、こちらもトルコ経済の破壊の責任は負いたくない。でもそうする」と書いた。
「あなたが正しく人道的なやり方でこの状況を解決すれば、歴史に良い評価をしてもらえる。いい結果にならなければ、歴史は永遠にあなたを悪魔とみなすだろう。タフガイの真似はするな。馬鹿な真似はするな!(出典:トルコ大統領、トランプ氏の手紙を「ごみ箱へ」,BBC news Japan,2019.10.18.,https://www.bbc.com/japanese/50092919)
国家間の交渉は必ずしも高級な、紳士的なものを要求されるわけではありませんが、これほどまでフランクかつ独善的な内容では誰の心にも響きません。実際副大統領がアンカラでの交渉で5日間の停戦を約束させましたがエルドアン氏はクルド人の排除に妥協することはなく、結局はロシアの介入、そして国境付近からクルド人が排除されたことでようやく矛を収めました。アメリカの影響力低下はこの頃から顕著になっていたのです。
なおシリア北東部撤収に対しての批判にはトランプ氏は「クルド人は第二次世界大戦でアメリカを助けなかった」と反論しております。
トランプ大統領は10月9日、クルド人部隊を見捨て、シリア北東部に駐留する米兵を撤退させた自身の決断を改めて擁護した。クルド人は第二次世界大戦でアメリカを助けなかったからだという。
(中略)
9日の"第二次世界大戦"発言の直後、報道陣にシリアからの撤退やクルド人部隊の扱いは、他の潜在的なアメリカの同盟国に対し、負のメッセージを与えたのではないかと尋ねられたトランプ大統領は、「同盟はものすごく簡単だ」と答えた。アメリカにとって、新たなパートナーシップを組むのは「難しいことではない」という。
そして、「我々の同盟国」は「我々に大いに付け込んできた」とも述べた。
(出典:John Haltiwanger,「同盟は簡単」「第二次世界大戦で我々を助けなかった」トランプ大統領、クルド勢力を見捨てたとの批判に反論,BUSINESS INSIDER JPAN,2019.10.10.,
https://www.businessinsider.jp/post-200340)
実はバイデン大統領もアフガン撤退に対する批判には「自分の決定を断固として堅持する」と言って譲りませんでした。一見思想と内政では対極に位置しているトランプ氏とバイデン氏ですが、大局においては「アメリカが世界から引いていく」ことでは一致しているのです。違いがるとすればバイデン政権が人権や民主主義の価値を守ろうと訴えながらの「悲劇的な敗北」なのに対して、トランプ氏は偉大な決断によって戦争を終わらせたという「華麗なる敗北」を演出するということでしょう。
敗北を望むアメリカの事情
なぜアメリカが「敗北」を選ぶのかについては以下の要因が考えられます。
厭戦感情
アメリカ国内では、第二次世界停戦から長年にわたる戦争や軍事介入に対する厭戦感情が高まっていました。ベトナム戦争時代はもちろんのこと、イラク戦争やアフガニスタン戦争の経験から、多くのアメリカ国民が新たな軍事介入に対して消極的な意識を持っております。このような感情が世論となり、アメリカの外交政策に影響を与え、戦争を避ける方向に働いているのです。これはトランプ氏もバイデン氏も関係ない要件です。
内向き
トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策は、国際的なリーダーシップを発揮するよりも、国内問題に焦点を当てる傾向があります。よく彼が口にする「米国を再び偉大にする」というフレーズは必ずしもフランクリン・ルーズベルト政権以降の超大国アメリカの復活を指すわけでなく、モンロー主義時代のような独立性や国益を優先して繁栄することを目指しております。多くのアメリカ国民もそれを望み、アメリカの国際的地位が損なわれる可能性に無頓着になっております。
理想主義の敗北
アメリカの外交政策は、しばしば民主主義や人権の擁護を掲げており、時にはそれを理由に軍事介入を行ったケースが少なくありません。ブッシュ・ジュニア大統領が始めた戦争も根っこには「世界を民主化する」理念があり、現場の兵士達はその理想のために戦っていました。
しかしそれが現実に実現することはなく、逆に悪化することもあります。特に、パレスチナ問題や中東の人権状況に対するアメリカの対応が批判される中で、理想主義が挫折する様子が見られます。このような状況は、アメリカの介入への支持をさらに失わせる傾向をもたらしました。
国力のリソース配分
超大国といえどもアメリカの国力は限られており、リソースの配分が重要です。軍事的な支援や気候問題などの国際的な支援に多くのリソースを割くことが強いられる中、国内の問題や経済的な課題への対処がおろそかになっている傾向があります。それは想像以上に多くのアメリカ国民の不満をもたらしていました。
だからこそ今回の選挙ではトランプ氏に票が集まったのです。アメリカファーストを掲げている彼なら、国内の問題や経済的な課題にリソースを集中させることが期待でき、経済の再生や移民問題などに取り組んでくれるという期待が高まっております。
アメリカはロシアや中国と違って「国家の権威」というものに強く依存しない傾向があります(全くないわけではなりません)。それゆえ従来の政策を覆しかねない「敗北」であっても、アメリカの繁栄のためになるのであれば、割と素直に受け入れる傾向にあるのです。
戦いはこれからです
誤解してはならないのはこの「敗北」をもって終わりではないことです。むしろこれからが始まりといえるでしょう。繰り返すようにウクライナ戦争が停戦してもプーチン大統領が諦めない限り緊張は続きます。そして力を背景とした領土変更が公然と認められることで、冷戦以降の国際秩序が揺らぎ、他の地域でも戦争の危機が高まることになるのです。
危機が高まる筆頭候補はやはり東アジアになるでしょう。2024年11月11日、ロシアと北朝鮮が同年6月に締結されていた「包括的戦略パートナーシップ条約」の批准手続きを完了させて正式な軍事同盟が成立しました。
条約は6月に訪朝したプーチン氏と金氏との間で結ばれ、計23条からなる。第4条で、一方が武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、「遅滞なく、保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と定めている。(出典:ロシアとの条約を北朝鮮が批准、発効へ 有事の際の相互支援定める,朝日新聞デジタル,2024.11.12.,https://www.asahi.com/articles/ASSCD003FSCDUHBI005M.html)
現在北朝鮮の兵士がロシア兵に扮して露宇国境付近に集結しているという報道があり、本格的な軍事協力関係が成立したといえるでしょう。ウクライナ戦争が停戦になってもこれが解消されることはなく、ロシアからミサイル技術と戦闘技術、いくばくかの実勢経験を手に入れた北朝鮮がイキり倒すのは目に見えており、朝鮮半島有事の危機が急激に高まる可能性が高いです。
台湾有事の危機も見過ごせません。つい先月の10月14日にも中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を敢行しました。
中国人民解放軍で台湾方面を管轄する東部戦区は14日、台湾の周辺で軍事演習を同日実施すると発表した。台湾を取り囲む形となる海空域で、陸海空軍と戦略ミサイルを運用するロケット軍の兵力を動員する。
東部戦区の報道官は談話で、今回の軍事演習により「『台湾独立』分裂勢力」を「震え上がらせる」と表明。その上で「国家の主権を守り抜き、国家の統一を守る正当で必要な行動だ」と強調した。台湾の頼清徳総統が10日の演説で「国家の主権を堅持し、侵略と併呑を許さない」と述べたことに対する対抗措置とみられる。(出典:中国、台湾包囲し軍事演習 頼総統演説に対抗措置 「独立勢力を震え上がらせる」,産経ニュース電子版,2024.10.14., https://www.sankei.com/article/20241014-MHOPVZQLFBO6VGCTUWM5ON7ABM/)
例によって日本のメディアは頼清徳総統の演説が気に入らなかったなどと書いていましたが、これほど大規模な演習を一人の人間の演説の内容の是非で決定することはありません。すでに2024年5月にも大規模な演習をしており、これを「連合利剣2024A」と称していました。で今回の演習は「連合利剣2024B」と称しており、もともと定期的にやる意思を示しているのです。いずれCもするでしょう。
その意図はけん制などというような生易しいものではなく、具体的に台湾の軍事的要所を念頭に置いた威圧演習であることがわかります。「いつでも武力併合できるんだぞ」と台湾国民に心理的圧力をかけるとともに、現政権に対して防衛上の負担をかけ続けるのが目的です。そして圧力に耐えかねた台湾国民が中国に宥和的な次期候補に投票するように仕向けるのです(詳細は過去記事にて)。
日本も他人事ではありません。既に2021年には中露合同艦隊が日本周辺を周回し、その後も度々合同で演習を繰り返しております。そして最近は中国軍機とロシア軍機がそれぞれ日本列島の南と北で領空侵犯を敢行しました。
防衛省の発表によると、中国軍のY9情報収集機1機は26日午前11時29分ごろ、長崎県五島市の男女群島沖で日本の領空内を飛行。これを受け、航空自衛隊が戦闘機を緊急発進させた。
領空侵犯は2分にわたり、空自が「通告と警告」を行った。NHKによると、信号弾の射撃など、航自による武器の使用は行っていないという。(出典:中国軍機による日本の領空侵犯を初確認 空自が「通告と警告」,BBC News 日本語版,2024.8.27., https://www.bbc.com/japanese/articles/c7v5mgl9pd1o)
中国軍機の狙いは長崎県五島列島の一つ福江島にあるレーダーサイトだと予想されています。日本のレーダーの追跡能力、電波強度、有事に対レーダーミサイルで破壊する演習など、集められる情報を好きなだけ集めていったといったところでしょう。
一方、ロシア軍機は三回にもわたって領空への出入りを繰り返しており、自衛隊機がフレアを発したのだとか。こちらはソビエト時代に沖縄上空、それも在日米軍基地上空を悠々と偵察しただけに大胆です。
木原稔防衛相は23日夜、北海道礼文島の北方上空を領空侵犯したロシア軍の哨戒機に対し、緊急発進した航空自衛隊機がフレアを発射して警告したと発表した。自衛隊がこれまで40件以上の領空侵犯措置をしてきた中で、フレアを発射したのは初めて。
木原防衛相によると、同日午後1時台から3時台にかけてロシア軍のIL─38哨戒機1機が3回にわたり領空侵犯した。航空自衛隊はF15、F35戦闘機を緊急発進し、無線で通告と警告をしたほか、3回目の侵犯時にフレアを発射した。(出典:ロシア軍機が3回領空侵犯、自衛隊機が初のフレア発射=木原防衛相,ロイター通信日本語版,2024.9.23.,https://jp.reuters.com/world/security/ADXMIIICCNOTXAK77XHRWKVICA-2024-09-23/)
同日に中露両軍の神庭関が航行していたことと夜間であったこと、そしてジグザク飛行していたことから対潜哨戒訓練をしていたと予想されております。自民党総裁選によって生じた政治的空白を狙ったと言われていますが、中露にとって日本の政治など蟻の一噛み程度にも感じられないので、今後も同じようなことは続くでしょう。
今、私たちが見ているのはカッコつけながら萎んでいく「頼りないアメリカ」です。遠からず伝統的反米左派だけでなく保守派からも「離米」を主張する人が出てくると予想します。それが日本の自立に繋がるかどうかは、私たち次第ということになるでしょう。